史上最大級のイカ類とタコ類の化石発見

June 30, 2018 | Author: Anonymous | Category: N/A
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平成27年3月5日

史上最大級のイカ類とタコ類の化石発見 この度、当館が所蔵する北海道から発見された化石を、当館と東京大学、京都大学で 共同研究した結果、地球史上最大級のイカ類とタコ類であることがわかり国際的に権威 の高い学術誌に掲載されたので、下記により実物化石を特別公開します。 【記】 1.化



(1) 世界最大級、イカ類(十腕形上目)のツツイカ目に属する新属新種、 ハボロテウティス・ポセイドン(下顎) 愛称:ハボロダイオウイカ ※現生の一般的なイカ類の多くが含まれるツツイカ目では、分類学的 に重要な下顎に基づく最古の記録 (2) 世界最大級、タコ類(八腕形上目)のコウモリダコ目に属する新種、 ナナイモテウティス・ヒキダイ(下顎) 愛称:ヒキダコウモリダコ

※用語 新種:新たに発見された生物の種 新属新種:新種であるだけでなくその上の属という階層で新たなグループを提唱

2.産 出 地 3.時 代

両標本とも北海道苫前郡羽幌町(とままえぐん・はぼろちょう) 上記(1)・・・中生代白亜紀後期サントニアン期(約 8500 万年前) 上記(2)・・・中生代白亜紀後期カンパニアン期(約 8000 万年前) 4.掲 載 誌 題名:Late Cretaceous record of large soft-bodied coleoids based on lower jaw remains from Hokkaido, Japan(北海道より産出 した下顎化石に基づく巨大な鞘形類の白亜紀後期の記録) 著者:棚部一成(たなべ かずしげ、東京大学総合研究博物館特招研究員、 東京大学名誉教授)・御前明洋(みさき あきひろ、北九州市立自 然史・歴史博物館学芸員)・生形貴男(うぶかた たかお、京都大 学大学院理学研究科准教授) 雑誌: Acta Palaeontologica Polonica(アクタ パレオントロジカ ポ ロニカ、ポーランド科学アカデミー古生物学研究所発行英文誌)、 60 巻 1 号(印刷版 2015 年 3 月発行予定、Web は現地時間 3 月 4 日公開:URL:http://www.app.pan.pl/article/item/app000572013.html ) 5.一般展示 期間:平成 27 年 3 月 6 日(金)〜平成 27 年 5 月 10 日(日) 場所:北九州市立自然史・歴史博物館、エントランス 料金:無料 開館時間:9:00~17:00(入館は 16:30 まで) 【お問い合わせ先】 いのちのたび博物館(北九州市立自然史・歴史博物館)〒805-0071 北九州市八幡東区東田 2-4-1 電話:093−681−1011

担当:自然史課 学芸員 御前(みさき)

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「史上最大級のイカ類とタコ類の化石発見」詳細資料 1. 研究の経緯 旧・北九州市自然史博物館開設準備室における資料収集活動により 1978 年 8 月にアンモナイトなどを含む岩石が北海道の羽幌町で収集され収蔵されていた。 2011 年 3 月に、著者の一人である御前(みさき)がそれらの岩石に含まれる化 石を取り出すために岩石を割ったところ、コウモリダコ類の巨大な下顎の化石 を発見した。 また、2012 年 7 月 7 日、著者の一人である御前が羽幌町でアンモナイトの調 査中にイカ類の巨大な下顎の化石を発見した。 これらの標本について、鞘形(しょうけい)類(イカ・タコ類)の顎の化石に 詳しい東京大学の棚部一成(たなべ かずしげ)名誉教授(東京大学総合研究博 物館特招研究員)や、化石軟体動物の形態解析に詳しい京都大学の生形貴男(う ぶかた たかお)准教授らと共同研究を行ったところ、前者はコウモリダコ類の ナナイモテウティスに属する新種、後者はツツイカ類に属する新属新種である ことが分かり、棚部・御前・生形が執筆した論文(ポーランド現地時間 3 月 4 日 公開)の中で、それぞれ Nanaimoteuthis hikidai(ナナイモテウティス・ヒキダイ)、 Haboroteuthis poseidon(ハボロテウティス・ポセイドン)と命名し報告した。 2. 産地について いずれの標本も北海道苫前郡羽幌町より産出した(図 1)。産地周辺には中生 代白亜紀後期に堆積した蝦夷層群と呼ばれる地層が分布する。この地層からは、 同じ時代に生きていたアンモナイト類や二枚貝類などの保存状態の良い化石が 豊富に産出し、首長竜などの大型海棲爬虫類も見つかっている。

図 1. 産地の位置

3. 学名の意味について 3-1. ハボロテウティス・ポセイドン(Haboroteuthis poseidon)(新属新種) 属名 Haboroteuthis の Haboro は産地の羽幌町にちなんでおり、teuthis はギリ シャ語でイカを意味する。種小名の poseidon は、ギリシャ神話の海の神ポセイ ドンにちなんでいる。 3-2. ナナイモテウティス・ヒキダイ(Nanaimoteuthis hikidai)(新種) 属名の Nanaimoteuthis は、2008 年に棚部らによって提唱されたもの。Nanaimo は本属の模式種ナナイモテウティス・ジェレツキイ(Nanaimoteuthis jeletzkyi)が 産出した地層名(カナダのバンクーバー島のナナイモ周辺に分布するナナイモ 層群)にちなんでいる。種小名の hikidai は、北海道の中川町自然誌博物館学芸 員、疋田吉識(ひきだ よしのり)博士の北海道産白亜紀軟体動物化石に関する 研究のこれまでの功績を称えて名づけられた。最後の“ i ”は、ラテン語で男性名 の所有格を意味する。 4. 進化学的意義 4-1. ハボロテウティス・ポセイドン 現生のイカ類(十腕形類)は、トグロコウイカ類、コウイカ類、ダンゴイカ 類、ツツイカ類の 4 つに分けられる(図 2)。ヤリイカ、スルメイカ、ダイオ ウイカなど、細長いキチン質の軟甲を持つ一般的なイカの仲間はツツイカ類に 含まれるが、ハボロテウティス・ポセイドンは、このツツイカ類に属する(ツ

図 2. 鞘形類(イカ・タコ類)の進化史

ツイカ類の中での分類学的位置は不明)。分類学的に重要な下顎に基づく記録 としてはツツイカ類最古のものであり(白亜紀後期、約 8500 万年前)、イカ 類の進化を考える上で大きな意味を持つ。 なお、北海道では 2006 年に棚部らによって羽幌町の北北東約 30 km に位置 する中川町の約 8000 万年前の地層からツツイカ類の別の種の巨大な上顎が報 告されているが、下顎は見つかっていない。白亜紀後期は、陸上では恐竜類 が、海中では首長竜やモササウルスなどの大型海棲爬虫類やアンモナイト類 (イカやタコとともに頭足類に含まれる)が栄えた時代であるが、当時の北太 平洋域で巨大なイカ類も栄えていたことがわかってきた。 4-2. ナナイモテウティス・ヒキダイ コウモリダコ類は広い意味でのタコ類(八腕形類)に属し、現生のものは深 海に棲む一種のみであるが、化石記録は比較的多く(図 2)、北海道やカナダ 西岸など北太平洋域からも白亜紀の化石がしばしば産出している。ナナイモテ ウティス・ヒキダイは、これまで見つかっている下顎の化石の中で極端に大き く、白亜紀の北太平洋域では、巨大なイカ類と共に、非常に大きなコウモリダ コ類も栄えていたことが明らかになった。北海道からは、首長竜化石の胃の位 置にコウモリダコ類として記載された頭足類の顎が多数含まれている例も知ら れていることなどから、アンモナイト類、イカ類、コウモリダコ類などの頭足 類は大型海棲爬虫類の餌として重要であった可能性がある。 5. 大きさについて 5-1. ハボロテウティス・ポセイドン 現生のダイオウイカ類は、最大のイカの一つとして有名である。論文中では、 現生のダイオウイカ類のうち、全長約 7.7 m、下顎の大きさ 47.5 mm の個体との 比較を行っているが、ハボロテウティス・ポセイドンの下顎の大きさは 63.1 mm と、この比較を行ったダイオウイカ類の下顎よりも大きい(図 3)。化石でも、

図 3. ダイオウイカ類の下 顎(左)とハボロテウティ ス・ポセイドンの下顎(右) の大きさの比較(ダイオウ イ カ 類 の 下 顎 は Tanabe, 2012 よりトレース)

このような大きなイカ類の下顎はこれまで見つかっていない。 論文では、具体的な体サイズについて推定を行っていないが、現生のイカ類 について調べられた顎の大きさと体サイズの関係から計算すると、ハボロテウ ティス・ポセイドンの全長は 10 m~12 m ほどだったと推定される。このことか ら、ハボロテウティス・ポセイドンは、現生のダイオウイカ類のうち最大級の個 体のサイズに匹敵した可能性がある。一方で、ダイオウイカ類とハボロテウティ ス・ポセイドンは、どちらも、グループとしての平均的な体のサイズが分からな いため、現段階ではどちらが大きいと断言するのは難しい。 5-2. ナナイモテウティス・ヒキダイ 著者らの知る限り、広義のタコ類の下顎として化石、現生を通じて最大であ る。論文中では、現生のコウモリダコとの比較から、胴部の長さ(外套長)が 70 cm という暫定的な推定値を述べている。しかし、成熟しても胴部の長さが 10 cm 程度の現生のコウモリダコからナナイモテウティス・ヒキダイの体サイズを見 積もるのは誤差が大きくなるため、著者らが化石種(顎とともに体の印象が保存 されたコウモリダコの化石が数種見つかっている)の顎と体サイズの関係から 論文とは別に見積もりを行ったところ、本種は胴部の長さ約 1.6 m、全長約 2.4 m 程度であったという推定値も得ている。北米からは、全長がこれに匹敵する 可能性のある白亜紀のコウモリダコ類の巨大な軟甲の化石が見つかっているが、 下顎は見つかっていない。 なお、現生で最大のタコはミズダコで、全長が 3 m を超えることもあるが、 腕が長く、胴部の長さは普通 30 cm 程度である。

(参考:イカ類の各部分の大きさの名称)

共同研究者のコメント

<棚部先生のコメント> イカやタコの仲間である鞘形類(軟体動物門頭足綱)は、後期古生代にアン モノイド類との共通祖先であるバクトリテス類から派生したと考えられている。 鞘形類の多くは、進化の過程で元来持っていた内殻性の石灰質殻体がキチン質 の軟甲に退化したり完全に消失したため、化石として多産するベレムナイト類 を除けば外殻性頭足類のオウムガイ類やアンモノイド類に比べて化石記録が乏 しく、その進化過程や現代型鞘形類の起源については不明な点が多かった。 北海道からサハリンにかけて広く分布する海成白亜系の蝦夷層群は、世界的 に見て保存のよい動物化石を多産することで知られている。なかでも、アンモ ナイト化石はとくに豊富で、しばしば軟体部を収容していた住房部に摂食器官 の顎器(カラストンビ)が自生的に保存された状態で産することから、それらの形 態学的特徴や分類学上の重要性が研究されてきた。今回、著者の一人、御前は 北海道羽幌町の上部白亜系蝦夷層群から、アンモノイド類やオウムガイ類の顎 器と形態の異なる頭足類の顎器化石 2 点を見いだした。それらを分類学的帰属 が確定している現生頭足類と化石頭足類(アンモナイト類およびオウムガイ類) の顎器と比較した結果、1)内層が腹側後方に伸びて発達する、2)内層・外 層ともに黒色のキチン質層のみで形成される、などの特徴から、両者とも鞘形 類の下顎に同定された。 現生鞘形類は、5 対の触腕(そのうちの 1 対が長い触手に変化)を持つ十腕上 目と、4 対の触腕の八腕上目に大分類される。十腕上目はコウイカ目、トグロコ ウイカ目、ツツイカ目、ダンゴイカ目が、八腕上目はタコ目(マダコ亜目+ヒ ゲダコ亜目)、コウモリダコ目が、それぞれ含まれる。現生鞘形類の顎形態は目 レベルで一定の特徴を持つことから、それらの特徴を参考にして、羽幌産の鞘 形類下顎化石 2 標本を比較形態学ならびに形状形態測定学的に調べた。その結 果、カンパニアン階産の 1 標本は、内層の発達の程度や先端部の特徴などに基 づき、すでに北海道やカナダ、バンクーバー島の上部白亜系から報告されてい るコウモリダコ目 Nanaimoteuthis 属の新種(N. hikidai)として記載した。サント ニアン階産の 1 標本については、1)外層先端が鋭く突出する特徴はマダコ目 の下顎には認められないこと、2)内層が後方に大きく突出する特徴は、コウ モリダコ目やヒゲダコ目の下顎には認められないこと、3)外形を比較すると ツツイカ目とコウイカ目の下顎と共通の特徴を有すること、などがわかった。 また、本標本の内層側面には強い皺状の膨らみが発達するが、このような特徴 はコウイカ目の下顎には認められず、一部のツツイカ目の下顎に確認されてい ることから、本標本はツツイカ目に帰属すると結論づけた。ツツイカ目の化石 は北海道中川町の蝦夷層群カンパニアン階から報告された上顎化石 Yezoteuthis giganteus を除き、世界中の中生界から未報告である。本標本が Yezoteuthis giganteus の下顎である可能性も残されているが、上顎よりも下顎の方が鞘形類

の分類で重視されていることから、本論文では新属新種(Haboroteuthis poseidon) として記載報告した。今回報告した鞘形類2種の顎器は現生種のものに比べて 大きく、とくに H. poseidon の下顎は同じツツイカ目に属する現生ダイオウイカ の下顎よりさらに大きいことから、同種は後者に匹敵する体長(6-10 m)、あるい はそれ以上の体長を持っていたことが強く示唆される。今回記載した鞘形類 2 属のほか、北太平洋域の海成上部白亜系からは Actinosepia や Tusoteuthis に同定 される大型のコウモリダコ類の軟甲化石や、トグロコウイカ目 Cyrtobelus の殻体 化石が報告されている。 これらの化石記録から、北太平洋域では白亜紀中期にベレムナイト類が消失 して以降、後期白亜紀を通じて現代型鞘形類のツツイカ類、ヒゲダコ類、コウ モリダコ類が繁栄していたことが明らかになった。これらの事実は、現代型鞘 形類の起源や進化過程、白亜後期の海洋生態系の構造を明らかにする上で重要 と考えられる。

<生形先生のコメント> 私は形態測定学的解析を担当したので,その観点からコメントさせていただ きます.Haboroteuthis poseidon は側板に皺襞構造が見られることからツツイカ目 の仲間であることがわかりますが,外形を比較するとツツイカ目の中にはコウ イカ目の種と共通の特徴を有するものがあり,形態測定学的解析から,本種も そうしたもののひとつであることがわかりました.ツツイカ目の中で比較する と,本種は,現生のダイオウイカ類と類似した形状成分とヤリイカ類的な形状 成分をモザイク状に併せ持っていることがわかりました.つまり,外形のどの ような特徴に注目するかによってはダイオウイカ的にもヤリイカ的にも見える かもしれませんが,形態測定学的分析結果からするとそのどちらとも少しずつ 違うということになります.

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