授業におけるソーシャルネットワークの導入と利用した復習がもたらす

May 29, 2018 | Author: Anonymous | Category: N/A
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授業におけるソーシャルネットワークの導入と利用した復習がもたらす学習効果の分析 ーデジタルハリウッド大学大学院「組織開発実践」を事例としてー 東洋大学経済学部非常勤講師 西田亮介 [email protected] 学習院大学非常勤講師 高原基彰 [email protected] デジタルハリウッド大学大学院特任教授 佐藤昌宏 [email protected]

1.はじめに 近年、日本国内においてもソーシャルメディアの利用が広まっている。ソーシャルメディアは 1 2 Twitter や Facebook といった日常の出来事や写真を掲載したりする汎用性の高いものから、就 3 職活動や転職活動に特化した Linkedin といった専門性の高いものまで様々なサービスがある。こ れまでこうしたサービスを利用する人たちはインターネット利用者のなかでも技術の変化に敏感 なごく一部の利用者が中心であった。ところが今年 PC だけではなく、スマートフォンや携帯電 話といった利用機器を横断して利用できる環境が整ったことで、より多くの人々がソーシャルメ ディアを利用するようになった。総務省の『平成 23 年版 情報通信白書』は、2010 年 12 月の Twitter の国内利用者数が 1200 万人を越えたと記している。また同白書は GREE や mixi、モバ ゲータウンの利用者は 2000 万人を越えたことを記している(総務省,2011)。それぞれの数字 はおよそ国内人口の 2 割弱を占めており、いずれかのサービスを利用している人を入れると相当 数の利用者がおり、もはやごく一部の先駆的なネットユーザーが利用しているというわけではな いことがわかる。 ソーシャルメディアが一般的な存在になるなかで、社会のいろいろな領域においてその応用が 企図されはじめている。高等教育も例外ではない。こうした研究は近年学会でも報告が相次いで いるが、導入事例の報告とシステムの開発が中心であって、結局その導入が学習にどのような効 4 果をもたらしているのかを評価した例は多くはない 。しかし学習におけるソーシャルメディアや その応用システムの有効性を主張するためにはその評価が必要と思われる。本稿ではデジタルハ リウッド大学大学院が設置した「組織開発実践」という集中講義を事例に取り上げ、ソーシャル メディアが媒介したコミュニケーションの変遷とその質に注目しながら授業における「教育効 果」を評価することを試みた。「組織開発実践」の講義では履修者に対して授業前、授業中、授 業後に Facebook を利用したコミュニケーションを行うように呼びかけた。そのことで、講師、 履修者、事務局という三つのステイクホルダーは授業について、Facebook 内に設置した授業履 修者だけが閲覧可能な「グループ」内において活発なコミュニケーションを行った。詳しくは後 述するが、本稿ではグループ内における投稿やコメント、Facebook ならではの共感表明手段で ある「いいね!」数の変化と質を分析した。それらを、生徒が自らなんらかの行動を行う「学習 効果」と、講師がメディア導入以前には困難なかたちでの情報伝達及びコミュニケーションを行 った「教育効果」の 2 つの観点から整理し、「教育効果」として評価するというアプローチを試 みた。

1 2 3 4

https://twitter.com/ http://www.facebook.com/ https://www.linkedin.com/ たとえば(大田・佐々木・水野,2010)など。 1

結論として、まずネットワーク導入の効果として、講師と履修者たちが追加情報を掲載したり、 授業と関連して何か具体的な学習行動を行ったという表明を数多く見出すことができた。履修者 の学習行動は通常ではなかなか可視化されないため、これはひとつソーシャルメディア導入の大 きな効果ということができるだろう。第 2 に、ポストの「質」に注目すると、授業が終わったあ とに内容に関連したコミュニケーションが継続していく様を見出すことができる。ソーシャルメ ディアなしでは講師と履修者が授業について相互作用しながら学びを深めていくことは難しい。 くわえて、こうしたコミュニケーションの継続には本稿において「なげかけ」と呼ぶ、強制する 宿題ではない、自発的な行動を促す仕掛けを導入することの有効性が示唆された。 以下、第2章においては「組織開発実践」の事例を記述し、第3章において本稿の分析手法に ついて説明する。第4章において、マクロの指標の変化と授業後の学びについて注目する。第5 章、第6章を通じて総括を行う。以上の分析を通じて、学習におけるソーシャルメディアの利用 の可能性を論じる。

2.事例説明

有意味ポスト 129/全ポスト 152

図 1:グループ内ポストの内訳

2

本稿が事例として扱う「組織開発実践」は、デジタルハリウッド大学院において、各界の実務 家を講師として招いて行われる集中講義の名称である。本稿が対象とするのはそのうち、2011 年 8 月 20 日と 27 日に行われた、IT 系企業の外部講師が行った授業である。講義の受講者は 37 人であった。 この講義では、事前に講師が Facebook 内に専用のグループ・ウォールを作成し、学生が自由 にアクセスできるようにした。これにより講師は受講者や授業にまつわるアナウンスを大学を通 さずとも行うことができた。また、講義時間外であっても、履修者からの質問に講師が回答する などインタラクティヴな相互交流の回路が生まれた。さらに、講義中あるいは講義終了後でも、 受講者同士が情報交換を行い、講義に出てきたポイントについてディスカッションを行ったり、 講義に登場した文献情報などについての追加情報を相互に交換することが可能となった。 37 人の履修者と講師、そしてシステムは授業ページの設置から 2011 年 11 月 1 日までの間に 149 のポストを行った。その内訳は図 1 が示すとおり講師 42、学生 87、その他システムや事務 局が行った 21 である。これらのうち「その他」を除いた 129 のポストが有意味なポストの母数 である。これらのポストに加えて、Facebook ならではの「いいね!」及びコメントを本稿では 分析の対象とした。

3.視点と手法 本稿ではこの事例を分析するにあたって、以下のような視点を採用した。本稿でいう「教育効 果」は履修者が自発的に何かを行った「学習効果」と、講師が生徒が効果的に学習するきっかけ を作る「授業効果」から構成されるものと定義する。これらは必ずしも独立に存在するものでは ないが、便宜上分割して捉えることにした。 さてこうして得られたポストを時間軸ごとに整理する。採用する時間軸は次のとおりである。 まず授業開講期間を次のように区分する。8月 20 日と8月 27 日の授業開講時間帯をそれぞれ 「授業開講期間①」「授業開講期間②」とする。そのうえで「授業開講期間①」以前の期間を 「授業準備期間①」とし、さらに「授業開講期間①」後の期間を「授業復習期間①」とする。同 様に「授業開講期間②」の準備期間を「授業準備期間②」、 後の期間を「授業復習期間②」とす る。ただし「授業準備期間②」「授業復習期間①」は重複するものであるから、投稿内容を見な がらどちらに該当するものかを判別した。 次に学習効果の内容面での差異は、これも大きく 3 種に分類できる。第一に、 教育が受講者に 具体的な行動を促すこと、つまり「学習行動」の喚起がある。これは情報のインプットや、思 考・整理枠組みの獲得と異なり、教育を受けたものが、その内容に示唆されて身体的な行動を行 うことを指す。講義の内容で示唆された学習方法や業務改善案を、受講者がみずから実行してみ ることである。具体的には「∼をやった」「∼をやってみた」という記述を指す。 第二に、新しい知識や視点の獲得、つまり「発見・気付き」の喚起がある。「発見」は、主に 未知の知識を情報としてインプットすることと、つまり新しい知識の獲得を意味している。他方 の「気付き」は、情報のインプットに留まらず、情報を整理する、新たな思考枠組みを獲得する ことを意味している。具体的には「∼がわかった」「∼と理解した」という記述を指す。 第三に、ネットワーキングという本研究の対象を考慮すると補足・追加情報の「共有」も学習 効果と考えることができる。講義内容の補足や確認を、受講者同士のネットワークを使って行う ことをさす。また、講義の理解に役立つ追加情報を、受講者自身が他の受講者に向けて発信する こともこの中に含まれる。具体的には関連資料や URL を提示するような記述を指す。 以上の 3 つのを例で挙げれば、講義者がある書物の内容を紹介し、それにより受講者が「そう いう本がある」ことを認知することは「発見」である。その内容により、「そんな考え方がある のか」という感想をもつことは「気付き」である。また、ある書物の内容を紹介されたことによ り、「実際にその本を買いにいくこと」は、「学習行動」であり、その書物の内容の追加情報や、 本を入手するための書誌情報などを、受講者同士がネットワークを使って交換することが「共 有」となる。

3

また講師のポストは、次の 3 種類に整理しつつ「教育効果」の把握を試みた。まず第一に「質 問回答」である。講師はしばしばソーシャルネットワークを利用して質問回答を行っている。質 問回答は通常は授業開講中にしか対応できないか、紙媒体で収集した場合には回答が翌週になる など、リアルタイムで実現することは難しい。このような環境を実現したことは Facebook を導 入したことによる成果であるが、それがどの時点で行われているかを把握した。 第二に「共有」である。講師もまた授業に関連してさまざまな補足を行う。補足資料の提示や、 履修者たちがグループ内で行っているコミュニケーションを見ながら関連資料を提示したりする こともある。講師による教育に関するコミットメントのかたちのひとつととらえることができる。 具体的には履修者の場合と同様に、参考書籍や URL を提示した記述から把握した。 第三に「アナウンス」がある。講師は必ずしも直接に有意味な情報に限らず、発言を行う。間 接に履修者のモチベーションを高めるものなどがある。ただし、前述の 2 者に比べるとその位置 づけは必ずしも明白ではない。本稿では前述の 2 者に該当しないポストをまとめてこのようにと らえている。 また書き手の属性は、主に講師のものと受講者である学生のものとに分類できる。その一方で、 事務局からのアナウンスや、facebook のシステム的なアナウンス(新規参加者の通知など)も 書き込みには含まれているが、これらの書き込みは本研究の目的からみて対象とならないため除 外することとする。

4

4.分析 4.1.学習効果 4.1.1.履修者のポストの全体像

授業準備 授業開講 授業復習 授業予習 授業開講 期間① 期間① 期間① 期間② 期間②

授業復習 期間②

合計

学習 行動

0

0

4

0

2

2

8

発見 気付き

0

28

0

0

22

0

50

共有

1

15

2

0

7

4

29

合計

1

43

6

0

31

6

87

表 1:履修者ポストの全体像 それでは「組織開発実践」に関連した履修者の Facebook グループにおけるポストはどのよう な全体像を有しているのだろうか。図 2 と表 1 はそれらをまとめたものである。履修者は 87 の コメントを残していることがわかる。内訳としては「学習行動」が期間全体において 8、「発 見・気付き」が 50、「共有」が 29 である。

5

4.1.2.履修者「いいね!」及び履修者コメントの全体像

授業準備 授業開講 授業復習 授業予習 授業開講 授業復習 合計 期間① 期間① 期間① 期間② 期間② 期間② 履修者 「いい ね!」

2

80

20

0

57

17

176

履修者 コメント

7

26

10

0

24

7

74

合計

9

106

30

0

81

24

250

表 2:履修者「いいね!」及び履修者コメントの全体像 ※(含コメント内「いいね!」除システム「いいね!」) 学習効果を補足する観点として、履修者の「いいね!」の推移が図 3 と表 2 である。履修者は 176 の「いいね!」を行い、74 のコメントを残している。

6

4.2.教育効果 4.2.1.講師ポストの全体像

授業準備 授業開講 授業復習 授業予習 授業開講 授業復習 期間① 期間① 期間① 期間② 期間② 期間②

合 計

質問 回答

0

0

7

0

0

0

7

共有

5

4

2

6

2

1

20

アナウンス

6

1

1

6

1

0

15

合計

11

5

10

12

3

1

42

表 3:講師ポストの全体像 同様に、講師のポストの全体像をまとめたものが図 4 と表 3 である。講師は 42 のポストを行 い、その内訳は「質問回答」が 7、「共有」が 20、「アナウンス」が 15 になっている。

7

4.2.2.講師「いいね!」及び講師コメントの全体像

授業準備 授業開講 授業復習 授業予習 期間① 期間① 期間① 期間②

授業開講 授業復習 期間② 期間②

合 計

講師「い いね!」

11

37

21

18

14

4

105

講師 コメント

5

10

15

9

15

0

54

合計

16

47

36

27

29

4

159

※(含コメント内「いいね」除システム「いいね」) 表 4: 講師「いいね!」及び講師コメントの全体像 教育効果を補足する観点である、講師の「いいね!」の推移が図 5 と表 4 である。講師は 105 の「いいね!」を行い、54 のコメントを残している。

5.考察 8

5.1.Facebook 導入による授業効果の可視化 Facebook を授業に取り入れ履修者に利用を促すことで、講師と履修者双方の授業効果の全体 像を可視化することができたといえる。授業中、もしくは授業前後のどのようなタイミングのな かで発見・気付きを得たかということを知ることができる。それが講師の解説によるものなのか、 生徒同士の共有のやりとりのなかで生まれたものなのか、あるいは講師の補足情報によるものな のかという判別を行うこともできる。「いいね!」やコメントは履修者の共感の表れの一形態と 考えることもできるから、それらが集中しているポストを分析することで、授業の履修者たちが どのようなポストに反応するかを分析することが可能になる。 5.2.授業復習期間の重要性 図 2 と表 1 に注目すると、履修者のポストの総数それ自体は、「発見・気付き」と「共有」が 多く、「学習行動」は少ない。だがこのことが逆に「学習行動」の稀少性を物語っていると考え ることもできる。それらのうちのおよそ半数が「授業復習期間①」に見出すことができる。 5.3.「なげかけ」の重要性

図 6 は、講師と履修者それぞれのポストの全体象をひとつのグラフに記したものである。ここ から直接読み取ることができるのは、やはり授業開講期間でのコメントの集中であるが、個々の ポストを具体的に見ていくと、少し異なった様子が浮かんでくる。それが授業開講期間中に行わ

れている「なげかけ」というポストの存在である。 講義のなかで講師は課題を提示することもあれば、正式な課題ではないものの、授業に関連し ながら自発的に学びを深めることができるような発言のことである。こうした発言が行われると、 履修者たちは「なにをおこなうべきか」「自分は具体的にどのような結果を得ることができるの か」「やってみたらどんな結果になったか」といったことに対して活発に発言を行っていくこと がわかった。 9

たとえば授業のなかで「エニアグラム」という自己分析のツールを紹介したあとに、履修者た ちはそのツールを使ったら、どのように自分が判断されるかについてコミュニケーションを継続 していくことが観察された。 これらは「なげかけ」をうまく利用することで、授業内で自ずと高まる「発見・気付き」とい った履修者の関心の高まりを、授業の復習期間において実際に主体的な学びである「学習行動」 に結びつけていくことが期待できる。この点を、Facebook というソーシャルメディアの導入と 併用しながらデザインしていくことができればより高い教育効果を期待することができるものと 思われる。 6.おわりに 本稿では 2011 年度にデジタルハリウッド大学大学院で開講された「組織開発実践」における Facebook グループ内の講師と履修者のポストとコメント、「いいね!」の変遷をもとにして、 履修者の学習効果、講師の授業効果、及び両者からなる教育効果を定量的に把握することを試み てきた。 ソーシャルメディアがあらゆる場所で利用されるようになり、高等教育も当然例外ではない。 本稿ではとくに授業効果の全体像が可視化されること、とくに授業復習期間における自発的な学 習行動を見出すことができること、そして主体的な学びに結びつける「なげかけ」というアプロ ーチの重要性が示唆されることとなった。 ただし課題もある。本稿が行ったのはあくまでケーススタディとしての分析であって、比較に もとづく分析ではない。より堅牢性の高い検証を行うためには、比較にもとづく分析が必要と思 われる。 しかしながらしばしば導入事例それ自体が評価されるなかで、具体的にどのような要素が学び に貢献できるのかを定量的な把握を試みた例は多くはないものと思われ、今後の検討材料として は十分な価値があるものと思われる。 参考文献 大田祐輔・佐々木整・水野一徳,2010,「Twitter を利用した用語の読み確認ツールの開発」日 本教育工学会『2010 年 日本教育工学会 第 26 回全国大会 講演論文集』199-200. 総務省,2011,『平成 23 年版

情報通信白書』.

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