学力の国際比較に異議あり - 柴田勝征研究室

April 17, 2018 | Author: Anonymous | Category: N/A
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学力の国際比較に異議あり (第4巻)



街灯は三角形をした公園のどこに設置すべきか



-- version 5.2 --

http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/igi-ari-4.pdf

福岡大学理学部応用数学科教授

柴田勝征 (埼玉大学名誉教授)

[寄稿]真理は全てに打ち勝つ 松本眞 東京大学大学院数理科学研究科教授 英語版:Where should a streetlight be placed in a triangular-shaped park? http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/gi-ari-4_E.pdf フランス語版:Ou doit-on placer un lampadaire dans un parc publique triangulaire? http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/gi-ari-4_F.pdf ドイツ語版:Wo sollte eine Strasenlaterne in einem dreieckformigen Park platziert werden? http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/igi-ari-4_G.pdf 中国語版: 路灯应 该 设 在三角形公园的哪个部位? http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/igi-ari-4_C.pdf 朝鮮語(ハングル)版:가로등은 삼각형 모양의 공원 어디에 설치해야 하는가? http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/igi-ari-4_K.pdf フィンランド語版:Mihin pitäisi sijoittaa katuvalo kolmion muotoisessa puistossa? http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/igi-ari-4_Fin.pdf

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街灯は三角形をした公園のどこに設置すべきか? ―― 初等積分微分幾何光学 ―― (バージョン

5.1)

福岡大学理学部応用数学科 柴田勝征 2010年11月 <<

目次

>>

はじめに 「街灯」問題 ……………………………………………............................................... 4 アメリカはどんどん暗くなっている

……..……………………………………........... 5

公園内の点の明るさについての2つの定義 ……………………………………........... 7 謝辞 …………………………………………………………........................................... 9 第1章 平面灯心弧は三角形の対称性の破れを縫い合わせる 1.1 公園内の各点での明るさを積分する ……………………………………................. 9 1.2 底辺に平行な方向に明るさの総和を偏微分する ………………………………...... 9 1.3 対称軸に対する明るさの総和の振る舞い …………………………………........... 12 1.4 対称軸に沿って明るさの総和を垂直方向に偏微分する ……………………….... 14 1.5 三角形の灯心(一般三角形の場合)………………………………….................... 15 1.6 ユークリッド風の定理 …………………………………………............................. 20 1.7 設置地点を変数とする明るさの総和関数のグラフ曲面 ……………………….....20 1.8 「ミニ・カミオカンデ」問題などのいろいろな拡張問題 …………………….... 22 第2章 底灯心から出発して重心を目指す立体灯心の久遠の旅路 2.1 高さゼロの街灯の明るさ分布関数はディラックのδ関数になる ………………. 24 2.2 高さ s > 0 の街灯に照らされた公園内の各地点での地面の明るさを積分する ... 24 2.3 地面の明るさの総和を街灯の高さ s で偏微分してみる ………………….......... 26 2.4 地面の明るさの総和を底辺に平行な方向に偏微分すると狭義凸性が分かる …. 26 2.5 地面の明るさの総和と三角形の対称軸 ………………………….......................... 29 2.6 対称軸に沿って地面の明るさの総和を垂直方向に偏微分する ……………........ 30 2.7 対称軸上での明るさの総和関数の狭義凸性 ………………………....................... 31 2.8 f1(t) + f2(t) の特別に重要な重心での値 ……………………………...................... 34

2

2.9 立体灯心の高さゼロと高さ無限大の場合の極限値 …………………................... 36 2.10 街灯の高さを高くしてゆくと立体灯心の位置はどのように移動するか? ….. 38 2.11 一般三角形の立体灯心 …………………………………………………….............. 44 第3章 ポテンシャル論におけるα次のポテンシャルと素粒子論物理学における

発散積分のカットオフとによって定義される三角形の対称中心の1助変数族 ……………………………………………………………………………………….............. 47 3.0 概要

………………………………………………………………………….............. 47

3.1

ポテンシャル論の初歩の初歩 …………………………………………….............. 49

3.2

α次のεポテンシャル …………………………………………………….............. 50

3.3

α ≧ 2 の場合のα次のポテンシャル(下に凸のグラフ曲面)…….............. 53

3.4

α < 2 の場合のα次のポテンシャル(上に凸のグラフ曲面)…….............. 59

3.5

(-∞)次のポテンシャルを求める極限の計算(内心)……………............. 62

3.6

(+∞)次のポテンシャル(外包心)………………………………….............. 63

3.7

まとめと展望 ……………………………………………………………….............. 68

3.8

演習問題 …………………………………………………………………….............. 69

第4章 結語 ………………………………………………………………........................... 70 キーワード:

「街灯」問題,PISA,三角形,灯心,明るさ,対称軸,重心,内心,外心

補足1.灯心はいかにして発見されたか?

..……………………………………………. 71

補足2.「街灯問題の正解は外心」という幾何学的直感の錯覚 補足3.双曲幾何学における「街灯」問題

…………………....... 85

......…………………………....................96

補足4.ついに山が動いた! -

PISA が批判を受け入れて街灯問題を削除します... .. ......... .. .113

●PISA の問題の反社会性. .. ......... .. ......... .. ......... .. ........ .113 .. ..116 補足5.円と楕円の灯心がそれぞれの中心に一致することの証明. .. ......... 補足6.三角形の頂角の二等分線の謎..... .. ......... .. ......... .. ......... . .122 ●底辺 BC の垂直 2 等分線に関する対称性を考える....... .. ......... .. .128 . .130 ●アポロニウスの円と双極(bipolar)座標..... .. ......... .. ......... ●双極座標についての補足. ......... .. ......... .. ......... .. ......... .135 寄稿 真理は全てに打ち勝つ 第1,2、3,5巻

(松本眞) ......... .. ......... .. ......... .. ......140

......... .. ......... .. ......... .. ......... .146 目次 .... ..

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はじめに 「PISA (Programme for International Student Assessment 経済協力開発機構・生徒 の学習到達度調査) 2003 年調査評価の枠組み」は次のように書いている。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― [数学問題例

1:

街灯]

町議会は、小さな三角形の形をした公園に一本の街灯を設置することにしました。その 街灯は公園全体を照らすものとします。街灯はどこに設置したらよいでしょうか。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― この社会的な問題は数学者たちが用いる一般的な戦略(それを我々の「数学的枠組み」で は「数学化」と呼ぶことにする)に従って解決することができる。「数学化」は以下の5つ の段階によって特徴付けられる。 1.実社会の中にある問題から出発する。

街灯をどこに設置するか 2.その問題を数学的概念に従って構成する。

公園を三角形で表現することができる。また、街灯についている電灯の灯りは街灯を中 心とする1個の円で表現することができる。 3.その問題を特徴付ける仮定を設定し、一般化や形式化などによって現実的側面を次第 に切り落としてゆき、問題の数学的特徴を明確にして、現実社会の中の問題を忠実に表現 する数学の問題に転換する。

この問題は三角形に外接する円の中心を求める問題に変換される。 4.その数学的問題を解く。

三角形に外接する円の中心は、三角形の各辺の垂直2等分線の交点にあるという事実を 使うために、三角形の2辺の垂直2等分線を引く。二つの2等分線が交わった点が外接円 の中心である。 5.数学的に得られた解が現実の状況で持つ意味を検討してみる。

得られた解を現実の公園に関係付けてみる。そしてこの解答について熟考し、例えば、 公園の三つの角のひとつが鈍角である場合、街灯は公園の外になってしまうので妥当でな いことを認識する。また、公園内の木々の位置と高さが数学的な解の有効性に影響を与え ることを認識する。(「PISA/OECD 2003 評価の枠組み, 数学的リテラシー」 p.26 – 27). http://www.oecd.org/document/29/0,3343,en_32252351_32236173_33694301_1_1_1_1,00 .html [根本的な注意]上記の「街灯」問題のように現実の社会に根ざした問題に出遇った時に は、先ずはじめに、主要な判定基準を確立し、その基準を最も効果的に満たす解を求める ように努めなければならない。 PISA による判定基準:

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この問題は三角形に外接する円の中心を求める問題に変換される。 この判定基準は、要するに、三角形の3つの頂点がまったく同じ明るさになることを要求 している。奇妙な判定基準である。頂点 A が頂点 B の1.2倍の明るさを持つと何か不都 合が生じるのだろうか? けないのだろうか?

あるいは、頂点 A が頂点 C の0.87倍の明るさでは、何故い

私には、説得的な理由があるようには思えない。

(追記)PISA の出題者は、街灯問題を一種の min-max 問題として、すなわち、公園の中 でいちばん暗くなる地点の明るさを出来る限り明るくする、という問題として考察してい るということを学習院大学の川崎徹郎氏(位相幾何学)からご教示いただきました。この 観点による街灯問題の数学的な解析については、補足2. 「街灯問題の正解は外心」という 幾何学的直感の錯覚、で詳しく解説しておきます。 PISA による判定基準とは異なって、「街灯」問題に対する我々の判定基準は次のような ものである; 街灯は、電力の浪費を最低限に押さえるような位置に設置すべきである(愛すべき地球の ために)!

そして可能であれば、自治体の電力使用料金を最も節約できるような位置を

見つけるべきである(納税者の利益のために)! このような判定基準に最適な解を見つけるための我々の基本的な方法は次のようなもの である。 (1) 街灯の設置地点から距離 r だけ離れた位置にある点の「明るさ」を何らかの方法で 定義する。 (2) 公園内の全ての点に渡ってその点の「明るさ」を合計(積分)する。積分の結果は 設置地点の位置座標の関数となる。 (3) 積分の結果を位置座標で偏微分して極大点を求める。 このアルゴリズムは多変数関数の極大点を求める最も標準的で最もよく用いられている ものであり、大学生活の最初の年度で理学部や工学部のすべての学生が学ぶものである。 ●アメリカはどんどん暗くなっている このような我々の数学化の観点は、以下のような社会的要請に応えるものである。 2010年8月12日の朝日新聞に載ったクルーグマンコラム「真っ暗になる米国」(N Yタイムズ・8月9日付 "America goes dark" の翻訳)は、アメリカの財政赤字によって、 街々の街灯が消されていっている近況を報告している。クルーグマンはプリンストン大学 教授で2008年にノーベル経済学賞を受賞。英文との対訳で紹介する。 America Goes Dark By PAUL KRUGMAN Published: August 8, 2010

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The lights are going out all over America, literally. Colorado Springs has made headlines with its desperate attempt to save money by turning off a third of its streetlights, but similar things are either happening or being contemplated across the nation, from Philadelphia to Fresno. -----------------------------------------------------------------アメリカはどんどん暗くなっている ポール・クルーグマン 2010 年8月8日出版 アメリカのあらゆる所で明かりが消えつつある、まさに 文字通りの意味で。コロラド・スプリングズ(コロラド州の 街)は,街灯の3分の1を消して節約にはげむ絶望的な試み で新聞の見出しを飾った。しかし、フィラデルフィアからフ レズノ(カリフォルニア州の街)まで,全米で同じことが行 われたり検討されたりしている。 **************************************************************** Meanwhile, a country that once amazed the world with its visionary investments in transportation, from the Erie Canal to the Interstate Highway System, is now in the process of unpaving itself: in a number of states, local governments are breaking up roads they can no longer afford to maintain, and returning them to gravel. ---------------------------------------------------------------一方で,エリー運河から州連絡高速道路システムまで,かつて先見の明ある輸送機関への 投資で世界を驚嘆させたこの国は,いまでは道路をつぶしているありさまだ:多くの州で, 地方政府は維持できなくなった舗装道路を砂利道に戻していっている. ****************************************************************** And a nation that once prized education that was among the first to provide basic schooling to all its children, is now cutting back. Teachers are being laid off; programs are being canceled; in Hawaii, the school year itself is being drastically shortened. And all signs point to even more cuts ahead. ---------------------------------------------------------------そして、かつては教育を非常に重視していた国、世界で最初に全ての子どもたちに基礎 教育を施した国の一つが、今や教育費を削減しつつある。教師達は一時解雇され、教育分 野のプログラムはキャンセルされている。ハワイでは、授業期間自体が劇的に短縮されつ つある。これらすべての事柄は、今後さらに多くの削減があることを示唆している。

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***************************************************************** (中略) ******************************************************************** The antigovernment campaign has always been phrased in terms of opposition to waste and fraud, ..... And now that the campaign has reached fruition, we're seeing what was actually in the firing line: services that everyone except the very rich need, services that government must provide or nobody will, like lighted streets, drivable roads and decent schooling for the public as a whole. -----------------------------------------------------------------政府批判のキャンペーンは常に、浪費と不正に反対するという言い方で表現されてきた。... そして今や、そのキャンペーンが実を結び、私たちは実際には何が非難の対象となってい たのかを目の当たりにしている;すなわち、非常に裕福な人々以外の全ての人が必要とし ているサービスであり、政府がやらなければ他には誰もやらないサービスだ。例えば、街 灯に照らされた街路、車が走れる道路、全国民のための適切な学校教育である。 ******************************************************************** So the end result of the long campaign against government is that we've taken a disastrously wrong turn. America is now on the unlit, unpaved road to nowhere. ----------------------------------------------------------------従って、この長い間の反政府キャンペーンの最終帰結は、私たちが破滅的なほど間違った 方向に舵を切ってしまっていた、ということである。アメリカは今や、街灯の消えた、舗 装されていない、どこにも通じていない道路の上で立ち往生している。 ********************************************************************* 本論文では、街灯の設置地点から距離 r だけ離れた位置にある点の明るさに対する2つ の異なった定義を与える。 [注意 0.0.1]

「明るさ」とは、要するに光エネルギーの密度のことである。すなわち、光

のエネルギーの大きさを、その量の光が占めている空間の体積で割って単位体積当たりの 値に換算したものである。日常生活においては、「明るさ」はむしろ単位面積当たりの光の 量として考えられているが、これは光線の方向に垂直な面の明るさを考えているので、光 線の来る方向に沿った長さを単位当たりに換算(正規化)しているからである。さらに、 輝度を数値で表す際には、それぞれの光の波長(すなわち色)に応じた正の定数を掛けた りしている。

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[1] 公園内の各点の「明るさ」の定義(その1) 街灯の設置地点から距離 r だけ離れた位置にある点の「明るさ」とは、その地点に立っ ている人が光源から受け取ることのできる最大の明るさである、と定義する。すなわち、 その人が持っている板を光源と同じ高さまで掲げて、飛んでくる光線に垂直な向きに向け たときの板の明るさとする。 この定義による明るさを公園内の全ての点について足し合わせる(積分する)というこ とは、本質的に次のことを意味する:

光源と同じ高さで三角形(公園)上に水平に置か

れた仮想的な、微少幅δの三角柱を考える。ある瞬間にこの薄い三角柱の中をほぼ水平に 飛行している光量子の数を数え、それをδで割って正規化する。 街灯の設置地点から距離 r だけ離れた位置にある点の明るさは、この定義によると c/r2 と表される。ここに、c は r によらない正の定数である。定数 c は光源の光の強さを表す。 我々は微小な正の数εを任意に一つ選んで、以後その値を固定して話を進めてゆく。我々 は c/r2 を三角形内の街灯設置地点のε近傍の外側にある点全てについて積分する。このε 円盤は街灯の電球あるいは街灯の円柱を表しているものとみなす。 [2] 公園内の各点の「明るさ」に対するもう一つの定義 街灯の設置地点から距離 r だけ離れた位置にある点の「明るさ」は、上の定義とは異な って、「その地表面上の点の明るさ」と定義することもできる。街灯の高さを s > 0 とする と、その地表面の点と光源との距離は (s2 + r2)1/2 であるが、この点に置いては地表面は

光源から来る光に対して斜めに傾いているので、垂直な明るさに対してさらにコサイン s/(s2+r2)1/2 の値を掛けなければならない。その結果、地表面の明るさは cs/(s2 + r2)3/2 と表 される。我々はこの値を三角形全体に渡って積分する。 この積分は次のことと同等である:

三角形(公園)上の地表面に置かれた仮想的な、

微少幅δの三角柱を考える。ある瞬間にこの薄い三角柱の中を斜め下方に飛行している光 量子の数を数え、それをδで割って正規化する。

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上で定義された2つの「明るさ」を区別する必要がある場合には、第1の定義による明 るさを「平面的(2次元的)明るさ」と呼び、第2の定義による明るさを「立体的(3次 元的)明るさ」と呼ぶことにする。 これら2つの異なった「明るさ」の定義は「街灯」問題に2つの異なった「数学化」を 与え、従って2つの異なった解答を与える。どちらの解答も非常に意外な結果になる。 謝辞 本論文を準備するに当たり、田崎茂氏(福岡大学;素粒子論物理学)が上に記した「明 るさのもう一つの定義」を著者に教示して下さったこと、阿賀岡芳夫氏(広島大学;幾何 学)が三角形の各種の「心(しん) 」に関する情報を著者に教示して下さり、また本論文で 定義した「灯心」がこれまで未知の「心」であることをチェックする作業をして下さった こと、戸塚滝登氏(東京学芸大学;計算機支援教育学、作家)と田中尚人氏(福岡大学; 微分方程式)が本論文の準備段階で第1章の内容と計算過程を注意深くチェックしてくだ さったこと、小林昭七氏(カリフォルニア大学;微分幾何学)が本論文の数学的な結果を 物理学的にきちんと意味付けをするように教示して下さったこと、に対して深く感謝しま す。また、伊藤順一氏(熊本大学;幾何学)、松浦望氏(福岡大学;離散微分幾何学)、鍛 冶静雄氏(福岡大学;代数的位相幾何学)、赤星信氏(福岡大学;形象物理学)、山田直己 氏(福岡大学;微分方程式)から、街灯問題を解決するためのいくつかの助言、ヒントを 頂いたことに感謝します。さらに、山下祐司氏(岩国高校;数学・情報)が本論文のいく つかの結果をシミュレートするソフトウェアを開発して幾何の授業で紹介して生徒たちの 関心を高めてくださったこと、佐々木武氏(神戸大学;微分幾何学)が本論文のテキスト・ ファイルを Tex 形式に打ち直してくださったことに対して深く感謝します。また、今井(大 原)淳氏(首都圏大学・東京;位相幾何学、微分幾何学)がポテンシャル論の幾何学的応 用に関して様々な応用例を詳しく教えてくださったことに感謝します。最後に、本論文の 草稿に対して次の方々から興味と関心を表明していただいたことは、私の研究にとって多 いな力づけとなったことを記して感謝の気持ちを表したいと思います;上野健爾氏(京都 大学;代数幾何学)、松本眞氏(広島大学;数論幾何・乱数理論)、三島健念氏(埼玉大学; 電子情報)、佐良木昌氏(人工知能研究室;機械翻訳)、辻下徹氏(立命館大学;複雑系)、 岡部恒治氏(埼玉大学;数学教育) 、田中康二氏(翻訳者、機械翻訳評価)、濱田龍義氏(福 岡大学;微分幾何・情報科学)、前田敬一氏(早稲田大学;宇宙物理学)、ロラン・トリエ 氏(マルセーユ理論物理学センター;宇宙物理学)。

第1章 平面灯心弧は三角形の対称性の破れを縫い合わせる 第1章では、 「はじめに」の中で述べた第1の定義による「明るさ」を公園内の点につい

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て積分して、その値が最大となる点を求める。 [定義 1.0.1]公園内の各点の明るさの第1の定義:光源が設置されている地点から距離 r の位置にある地点での明るさは c/r2 である、と定義する。ここに、c は r に依らない正の 定数である。P を、⊿ABC の内点で、何れの辺からもε以上離れているものとし、Dε(P) を、 点 P を中心とする半径εの円盤とする。

1.1 公園内の各点での明るさを積分する 我々は微小な正の数εを任意に選んで固定する。そして c/r2 を街灯設置地点のε近傍 Dε(P) を除く⊿ABC の全体で積分する。このε円盤は街灯の電球あるいは街灯の円柱を 表しているものとみなす。 以下の計算の結果により、我々が求める最大点は、このεの値の選び方に依らないこと が示される。

図 1.1 のように点 P から辺 BC, CA, AB に垂線 PH, PJ, PK を降ろす。三角形⊿ABC は 6個の直角三角形に分割されるから、角α=∠JPA, β=∠JPC, γ=∠HPC, α’=∠KPA, β’=∠KPB, γ’==∠HPB に図 1.1 で示したように向きを付ける。3つの角の1つが鈍角で、 対応する垂線が三角形の外に出てしまう場合には、対応する中心角は向きが逆になるので、 負の向きが付いていると考える。こうすると、常に角α+β+γ+α’+β’+γ’=2πが成り立つ。

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図 1.1:三角形⊿ABC を、頂点 P を共有する6個の直角三角形に分割し、6個の中心角を 上のように向き付ける。 我々は各点の明るさ c/r2 の積分を各直角三角形ごとに別々に実行する。例えば、⊿JPA における積分は次のようになる。垂線 PJ の長さを j で表すことにする。

6個の三角形における積分値を合計して、⊿ABC の明るさの総和 E(P;ε) は次のようにな る; 2πc( - logε ε) + c [(α α+β β)log j + (α α’ +β β’)log k + (γ γ+γ γ’)log h] + c{∫0αlog(cosθ)dθ + ∫0βlog(cosθ)dθ + ∫0γlog(cosθ)dθ + ∫0α'log(cosθ)dθ + ∫0β'log(cosθ)dθ + ∫0γ'log(cosθ)dθ}, ただし、h, k は垂線 PH, PK の長さを表す。

1.2 底辺に平行な方向に明るさの総和を偏微分する ⊿ABC の明るさの総和 E(P;ε)が計算できたので、次には、街灯の足 P を底辺 BC に平行 に移動させた時、すなわち高さ h (=垂線 PH の長さ)を一定に保って水平に移動させた 時に、E(P;ε)の値がどのように変化するのか調べてみよう。頂点 A から底辺 BC に垂線 AD を降ろし、∠DAC, ∠DAB をそれぞれ∠A1, ∠A2 と表すことにする。∠A1=(π/2) - ∠C,

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∠A2 =(π/2) - ∠B となっている。

点 P の位置は角θ=∠DAP (-∠A2 < θ < ∠A1) によって一意的に決まる。明るさの総和 E(P;ε) は9個の変数(三本の垂線 PH, PJ, PK の長さ h, j, k と点 P を囲む6個の中心角 の大きさ)で表されているが、それらは全てθで決まるので、合成関数の微分法を用いる ことができる。また、微分積分学の基本定理により、定積分を微分すれば、元の被積分関 数にもどる。

d  ' d ' d  d d d ' ) log(| AP |)  ( ) log(| CP |)  ( ) log(| BP |)    d d d d d d 1 dj 1 dk ]     (   )  ( '  ' ) j d k d

 c[(

三本の垂線 PH, PJ, PK の長さ h, j, k と点 P を囲む6個の中心角の大きさ角α, β, γ, α’, β’, γ’ をθを用いて表し、合成関数の微分法を用いると、

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であり、更に等式

(| AD |  h ) sin(A1   ) | AD |  h  および   j | AP | sin(A1   )  cos cos  dj (| AD |  h ) { cos(A1   ) cos  sin(A1   ) sin  } から    cos 2  d  (| AD |  h ) cos A1              0   となり、 cos 2  (| AD |  h ) sin(A2   ) 同様にして、 k | AP | sin(A2   )  cos  dk (| AD |  h ) {cos(A2   ) cos   sin(A2   ) sin  } から    cos 2  d (| AD |  h ) cos A2              0  となる。 cos 2  | AP |

また、  h tan   | CD |  (| AD |  h ) tan    だから、 d (| AD |  h ) cos 2  | AP | cos           0   となり、 2 d h | CP | cos  cos  d  ' | AP | cos  ' 同様にして、    0   となる。 d | BP | cos  d d ' | AP | cos  | AP | cos  従って、    0  と     0   が得られる。 d d | CP | cos  | BP | cos 

以上すべての等式を dE(P;ε) の展開式に代入すると、

dE( P;  ) d (   ) (| AD | h) cosA1 (   ' )(| AD | h) cosA2 ]  c[{  j k cos2  cos2  (| AD | h) ( ' ' ) sin B (   ) sin C { } c  k j cos2  (| AD | h) APB APC { } c  | B1 P | | C1 P | cos2  13

となる。ただし、B1, C1 は、点 P を通る水平な直線が辺 AB, AC と交わる点とする。 点 P が辺 AB の近くにあるときには長さ|B1P|は明らかにゼロに近く、辺 AC に近づ いて行くに従って今度は|C1P|がゼロに近づいてゆく。そして (

∠APB /|B1P|

-

∠APC / |C1P| ) は明らかに単調減少だから上記の数式変形の結果は dE(P;ε)/dθ の値がプラス無限大に近い値からマイナス無限大に近い値まで単調に減少してゆくこと を示している。これはすなわち、関数 E(P;ε) が線分 B1C1 の上で上に凸な関数であり、 B1C1 内部のただ 1 点で最大値を取ることを表している。街灯をこの地点から水平に辺 AB や AC の方に移動させると明るさの総和 E(P;ε) は単調に減少する。 [定義 1.2.1]線分 B1C1 内部で最大値を取るただ 1 点をレベル h の灯心点と呼び、l(h) と 表す。h の値がεから |AD| - ε まで変化するとき、集合 { l(h); ε< h < |AD| - ε} は各水平線分とただ 1 点で交わる弧を成す。我々はこの弧を頂点 A に向かう灯心弧と呼 ぶ。 実際、l(h) の位置は垂線 AD からの距離 x によって一意的に表されるが(-|BD|(|AD| - h) /|AD| < x < |CD|(|AD| - h) /|AD|)、x の値は下の方程式の解である; x{arctan[h/(|BD|+x)] + arctan[h/(|CD|-x)] + π} = (|AD|-h){(cot B + cot C)arctan[(|AD|-h)/x] + (cot B)arctan[h/(|BD|+x)] +(cot B)arctan[h/(|CD|-x)] – (cot B) π)}, ここに、|AD|, |BD|, |CD| は三角形⊿ABC によって決まっている定数であり、解 x がパラメータ h に滑らかに依存していることは明らかである。

1.3 対称軸に対する明るさの総和の振る舞い 三角形⊿ABC が対称性を持つ場合、例えば |AB| = |AB| であれば、⊿ABC は二等 辺三角形であり、辺 BC の中点を M とするとき、直線 AM が対称軸となる。そのときは、 前節で計算した水平方向の偏微分 dE(P;ε)/dθ は対称軸 AM に関して対称になっている ことがすぐに見て取れる。従って前節で定義した「頂点 A に向かう灯心弧」は、この場合 は対称軸上の線分 AM のε内包に一致する。故に、街灯が対称軸上の 1 点から AB、AC ど ちらかの辺の方向に移動するとき、公園の明るさの総和 E(P;ε) は単調に減少する。この ことから、三角形⊿ABC が 3 方向に対称性を持つ場合、すなわち⊿ABC が正三角形の場合 には、対称中心の点で明るさの総和が最大となる。 [命題 1.3.1]正三角形に対しては、街灯を対称中心に設置した場合が明るさの総和が最大 となる。

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[注意 1.3.2]長方形に対しても三角形の場合とまったく同様の計算により、明るさの総和 が対称軸に関して対称であることが次のようにして容易に分かる。

E ( P;  )  2c log( )  c(   ) log(a  k )  c( '  ' ) log(a  k )  c(     ' ) log(b  h )  c(     ' ) log(b  h ) '

 / 2  '

0

0

  log(cos )d   

 / 2 

0

0

 c{ log(cos )d  

'

 / 2  '

0

0

log(cos )d   log(cos )d  

log(cos )d }



 / 2 

0

0

log(cos )d   log(cos )d  

log(cos )d

従って、

dE ( P ;  ) dk sin 2 sin 2   c{ (  log | AP |  log | AP |)  (  log | DP |  log | DP |) 2k 2k sin 2 '     (log | BP |  log | BP |) 2(a  k )     '  ' sin 2  '    (log | CP |  log | CP |)  }   2(a  k ) ak ak     '  '  c{  } ak ak となるから、対称軸 k = 0 に関して対称である。すなわち、公園が長方形をしていれば、 街灯を対称中心に置くと公園の明るさの総和が最大になる。

15

1.4

対称軸に沿って明るさの総和を垂直方向に偏微分する

三角形⊿ABC が|AB| = |AB|を満たす二等辺三角形である場合、第 1.1 節で求めた明る さの総和である積分値 E(P;ε) は対称軸 AM 上で次の形になる; E(P;ε) = 2π( - logε) + c{ 2(α+β) log j + 2γlog h} + 2c{∫0αlog(cosθ)dθ + ∫0βlog(cosθ)dθ + ∫0γlog(cosθ)dθ} 合成関数の微分法を用いてこれを対称軸 AM に沿って垂直方向に偏微分すると

となる。 点 P が中心軸に沿って底辺 BC の近くから頂上の点 A に向かって上昇してゆく場合、 変数 h は非常に小さい正の値εから出発して |AM| - ε に向かう。また、角γは明ら かに減少してゆく。従って E(P;ε) は対称軸上で上に凸な関数で、線分 AM 内のただ 1 つの点で最大値を取る。この点から街灯 P が出発して、上方あるいは下方に移動すると、 明るさの総和 E(P;ε) は単調に減少する。我々はこの点を二等辺三角形⊿ABC の灯心と 呼ぶ。 [補題 1.4.1]重心における偏微分 dE(P;ε)/dh の値は、頂角∠A がπ/3 よりも小さければ 負であり、π/3 よりも大きければ正である。 証明.上述の dE(P;ε)/dh の計算式の中の h/|AM| を 1/3 で置き換えると、偏微分の値 は 3c(γ –π/3)/h となる。以下の一連の不等式がすべて数学的に同値であることから補題 は明らかである。

γ > π/3 

tanγ > √3  3 / tan ∠C > √3  √3 >

tan ∠C  ∠C < π/3  ∠A >π/3. [命題 1.4.2]内心における偏微分 dE(P;ε)/dh の値は、頂角∠A がπ/3 よりも小さければ 正であり、π/3 よりも大きければ負である。 証明.内心においては、 γ= (π+ ∠A) / 4,

π - γ = (3π - ∠A) / 4 そして

h =

|AM|sin(∠A/2) / (1 + sin (∠A/2)) が成り立つから、これらを dE(P;ε)/dh の展開式に代 入してやると、

dE c (1  sin(A / 2)   A | (内心)  { (  (3  A))} dh 4 | AH | sin(A / 2) となる。右辺の最後の因子を

g ( A)  (1 

1  )A   3 sin(A / 2) sin(A / 2)

とおいてそのグラフ曲線を描くと

16

のようになるから、dE(P;ε) / dh の内心における値は、∠A < π/3 なら正であり、∠A > π/3 ならば負である。証明、終わり。 補題1.4.1と命題1.4.2から、次の結果が得られた。 [命題 1.4.3]二等辺三角形については、公園全体を最も効率的に照明する点、すなわち灯 心は、対称軸の内心と重心の中間に位置する。

図 1.3:A < π/3 および A >π/3 の場合の二等辺三角形の灯心。いずれの場合も灯心は内 心と重心の中間にある。 1.5

三角形の灯心(一般三角形の場合)

三角形における対称性の破れは、頂角の二等分線と頂点から底辺の中点に引いた線分と

17

の分裂として現れる。頂点 A を通る対称軸が存在するための必要十分条件は、頂角 A の二 等分線と頂点 A と底辺 BC の中点 M とを結ぶ線分 AM が一致することである。前節で得ら れた結果から、頂点 A に向かう灯心弧は、角 A の二等分線と、頂点 A と底辺 BC の中点 M とを結ぶ線分 AM の中間に位置しているように推定される。以下のパラグラフでは、これ を肯定的に検証してゆく。 ∠B < ∠C、 すなわち |AB| > |AC|と仮定して一般性を失わない。 1.1 節で見たように、街灯の足 P が辺 AB 上の点 B1 から辺 AC 上の点 C1 へ底辺 BC に 平行に移動してゆくとき、明るさの総和 E(P;ε) の水平方向の偏微分 dE(P;ε)/dθは正 の無限大に近い値から負の無限大に近い値まで単調に減少する。 [補題 1.5.1]|AB| > |AC|であれば、頂点 A と底辺 BC の中点 M を結ぶ線分 AM の上で は、水平方向の偏微分 dE(P;ε)/dθの値は正となる。 証明:線分 B1 C1 上では B1P = C1P が成り立っているので、第 1.2 節の計算結果により、 dE(P;ε)/dθの符号は ∠APB - ∠APC の符号と一致する。補角を考えれば、これは ∠ CPM - ∠BPM の符号である。初等幾何学の第 2 余弦公式から、これは更に、|PB| - |PC| の符号に等しい。

点 P が A から M まで動くとき、出発点 P = A においては |PB| - |PC| = |AB| - |AC| > 0 であり、容易に分かるようにこの値は単調に減少してゆき、最後には =

|PB| - |PC|

|MB| - |MC| = 0 となる。したがって、線分 AM のε内包の上では |PB| - |PC| >

0 が成り立つ。証明終わり。 次に、∠A の二等分線上での dE(P;ε)/dθの符号を調べよう。 点 P が角∠A の二等分線上にあれば、点 P から辺 AC および辺 AB へ下ろした垂線の長 さ j と k が等しくなるから、dE(P;ε)/dθ の符号は (∠APB)sin B – (∠APC)sin C の符 号に等しい。点 P が∠A の二等分線上で頂点 A の近くにあるときは、∠APB と ∠APC は

18

どちらも ∠A/2 の補角に近い値だから、∠B < ∠C という仮定から

(∠APB)sin B –

(∠APC)sin C < 0 が成り立つ。したがって、点 P がこのように頂点 A に近い高さで B1 か ら C1 まで水平に移動する場合には、はじめに線分 AM を横切るときには dE(P;ε)/dθの 値は正であり、次に角∠A の二等分線を横切るときには既に負になっている。故に、底辺 BC からの距離 h が十分大きくて頂点 A に近い位置においては、灯心弧は確かに線分 AM と ∠A の二等分線の間にある。 けれども、h の値が小さくて点 P が底辺 BC の近くを移動する場合には、例えば ∠A = π/2 に取ってサイン関数表を利用して数値計算を行ってみると、∠A の二等分線上では (∠APB)sin B – (∠APC)sin C の値は依然として正のままである。しかし、内心の高さで (∠APB)sin B – (∠APC)sin C の値が負になってれば十分である。 そこで、内心における (∠APB)sin B – (∠APC)sin C の符号を計算してみる。この式の 正負は内心においては (sin B / sin C) – (π+∠B) / (π+∠C) の正負に等しいことが分かる から、2つの関数 y = sin x と y = x +π のグラフ曲線を描く。

19

サイン曲線 y = sin x 上に 2 点 (C,sin C) と (B, sin B) を取り、それら 2 点を結ぶ直線が x 軸と交わる点を Z(z,0) とする。(∠APB)sin B – (∠APC)sin C < 0 が成り立つことと –π < z が成り立つことが同値である。サイン関数表を用いて数値計算をしてみると、 ∠C < 77°であれば ∠B の値の如何によらず –π < z が成り立つことが分かる。従って、 (i) 三角形 ABC の最大角が 77°よりも小さければ、上のことは全ての頂角に対して成り立 つ。(ii) 2番目に大きい角が 77°よりも大きい場合には、最小角が 26°よりも小さくなり、 最大角は 103°よりも小さくなるから、上の考察において∠B を最小角に取れば、∠C が 最大角の場合も、2番目に大きい角の場合にも成り立っている。(iii) 最大角が 77°よりも 大きく、2番目に大きい角が 77°よりも小さい場合には、特に最小角と2番目の角が非常 に小さくて、最大角が 180°に近い場合には、∠C を最大角に取ると上のことは成り立たな くなるが、この場合には灯心の位置は内心の位置よりもかなり高くなるので、灯心の高さ では、上の式の値が負になっている可能性は十分にある。 ∠A の 2 等分線上の灯心の高さで、例外的に (∠APB)sin B – (∠APC)sin C < 0 が成り 立っていない可能性がある代表的な3つの具体例について計算してみた。上の不等式と同 値で、かつ計算が容易な

(∠APB) / (∠APC) - sin C / sin B の正負を判定する。

(1) ∠C = 90 度,∠B = 70 度,∠A = 20 度の場合 内心 I においては確かに、(∠AIB) / (∠AIC) - sin C / sin B = 0.02… > 0 となっているが、 (∠APB) / (∠APC) - sin C / sin B = 0 となるのは点 P が ∠APC = 130°よりやや下のあた り(内心では∠AIC = 125°)であり、このとき (∠APB)(sin A )/ k – (∠BPC)(sin C) / h = - 0.948…< 0 となっていることが数値計算から分かるので、頂点 B に向かう灯心弧はこの位置よりも上 部で線分 AD を横切っている。すなわち、灯心の高さでは (∠APB)sin B – (∠APC)sin C < 0 が成り立っており、例外現象は起きていない。 (2) ∠C = 120 度,∠B = 50 度,∠A = 10 度の場合

20

内心 I においては確かに、(∠AIB) / (∠AIC) - sin C / sin B = 0.7738… > 0 となっている が、(∠AIB) / (∠AIC) - sin C / sin B = 0 となるのは点 P が ∠APC = 140°よりやや下の あたり(内心では∠AIC = 115°)であり、このとき (∠APB)(sin A / k) – (∠BPC)(sin C / h) = - 0.097… < 0 となっていることが数値計算から分かるので、頂点 B に向かう灯心弧はこの位置よりも上 部で線分 AD を横切っている。すなわち、灯心の高さでは (∠APB)sin B – (∠APC)sin C < 0 が成り立っており、例外現象は起きていない。 (3) ∠C = 150 度,∠B = 26 度,∠A = 4 度の場合 内心 I においては確かに、(∠AIB) / (∠AIC) - sin C / sin B = 0.46129… > 0 となっている が、(∠AIB) / (∠AIC) - sin C / sin B = 0 となるのは点 P が ∠APC = 148°よりやや下の あたり(内心では∠AIC = 103°)であり、このとき (∠APB)(sin A / k) – (∠BPC)(sin C / h) = - 0.260… < 0 となっていることが数値計算から分かるので、頂点 B に向かう灯心弧はこの位置よりも上 部で線分 AD を横切っている。すなわち、灯心の高さでは (∠APB)sin B – (∠APC)sin C < 0 が成り立っており、例外現象は起きていない。 例外的な現象が起きる可能性がある代表的な3つの場合について実験的に計算してみた 上の例では、すべて例外現象は起こっていない。これだけでは例外現象は絶対に起きない という論理的な証明にはなっていないが、例外現象はおきないであろうことを強く示唆し ている。 以上に考察してきた結果をまとめると、次のようになる。

図 1.4:灯心弧は角の二等分線と、頂点と対辺の中点とを結ぶ線分の間に伸びている。(一 般的な場合) 三角形の最大角が 77°以下であるか、そうでなくても最小角が非常に小さくなければ3本

21

の灯心弧(上図では赤い色が付けてある)はそれぞれが向かって行く頂点の角の二等分線 とその頂点と対辺の中点を結ぶ線分の間を進んで行く。3本の弧は6本の線分(角と辺の 二等分線)で切り出される「宝石箱」内の1点で交わる。 (1点で交わらないとすると論理 的矛盾を生ずる。) しかし、最大角が 77°を越えていて、最小角が非常に小さく、さらに3つの頂角の内の どの2つも等しくない場合には、3本の灯心弧が三角形中央部の「宝石箱」(下図では黄色 く色づけられている)内で交わるのではなく、それと隣接する部屋(下図では緑色で塗ら れている)で交わる可能性がある。果たしてそのような例外的ケースが本当に起きるかど うかは、未だ分かっていない。

図 1.5:3本の灯心弧の内の1つが近づいて行く頂角の二等分線を横切ってしまうかも知れ ない。(例外ケース) 上に解説した2つの場合(一般的な場合と例外的な場合)の何れについても、三角形の 頂角の2等分線とその頂点と対辺の中点とを結ぶ線分の分離によって表現される「三角形 の対称性の破れ」は、その頂点に向かう「灯心弧」によって縫い合わされることが分かっ た。三角形に光源を導入しなければ、この対称性の破れを縫い合わせることはできなかっ たであろう。 (この主張の本質的な理解は、実は、非ユークリッド幾何学の世界で「街灯」 問題を考えることによって、ますます明確になると思われるが、ここではこれ以上あつか わない。) 「灯心」という新しい対称性については、後で明るさの総計関数 z = E(P; ε) のグラフ曲 面を示すことによってさらに詳しく見てゆくが、その前に、我々の結果の一部をユークリ ッド風の定理として述べておこう。 1.6

ユークリッド風の定理

22

[定理 1.6.1](「灯心定理」)

任意の三角形 ⊿ABC において、次の等式を満たす内点 L がひとつ、そしてただ一つ存 在する。点 L と各頂点 A, B, C を結ぶ直線が各対辺 BC, CA, AB と交わる点をそれぞれ X, Y, Z とすると、 ∠ALB /∠ALC = |BX|/|CX|, ∠CLA / ∠CLB = |AZ|/|BZ|. (従ってチェバの定理により、 ∠BLC / ∠BLA = |CY|/|AY| ) が成り立つ。内点 L に街灯を設置すると、三角形 ⊿ABC 全体を最も効果的に明るくする ことができる。内点 L は重心と内心を結ぶ線分の中点の近傍に位置している。 1.7

設置地点を変数とする明るさの総和関数のグラフ曲面

第 1.2 節で解説した偏導関数 dE(P;ε)/dθ に関する結果によれば、設置地点を変数とす る明るさの総和関数の等高線は概略、下図のようになっている。

図 1.6

明るさの総和関数 E(P;ε) の等高線概略図

これを考慮してそのグラフ曲面の鳥瞰図を描くと図 1.7 の様になる。三角形 ⊿ABC の

23

ε-内包の各点 P の上の曲面の高さが、点 P に街灯を設置した時の三角形(公園)全体の

図 1.7 明るさの総和関数 E(P;ε) の鳥瞰図 明るさを表している。グラフ曲面の頂上(最高点)が灯心 L の真上に位置する。 各頂点 A, B, C に向かう灯心弧は、このグラフ曲面のグラディエントベクトル場の積分 曲線となっている。第 1.1 節で求めた E(P;ε) の積分表示において、第1項 2πc(-logε) だ けが街灯設置点 P に依存しない項である。この項は図 1.7 の鳥瞰図の基底面の高さを表し ている。もしもεの値をε’ に置き換えると、グラフ曲面の基底の高さが. 2πc(-logε’) - 2 πc(-logε). だけ変化する。εの値をどんどん小さくしてゆくと、グラフ曲面はその形状を 保持したままどんどん空高く上昇してゆく。εの値があまりにも小さくなると、グラフ曲 面はあまりにも上空に行き過ぎて、地上に住む我々には見えなくなってしまうだろう。も う一つの定数 c は、z 軸方向のスケールを決定する。定数 cの値を c’ に変更すると、z 軸方向の目盛りが c’/c 倍される。 以上のことから、明るさの総和関数 E(P;ε) のグラフ曲面の形状は、それを計算するた めに用いられた2つの定数εと c には本質的に依存していないことが分かった。三角形上 の明るさの総和関数 E(P;ε) のグラフ曲面の形状は、その三角形の内接円や外接円と同様 の、その三角形に固有の幾何学的オブジェクトである。その形状は、街灯にライトアップ されたときに初めて可視化される。 1.8

「ミニ・カミオカンデ」問題などのいろいろな拡張問題

本論文の中でこれまで検討してきた数学的モデルは、全方向に完全に対称的に拡がって いる古典物理学的な力(光、重力、クーロン電磁気力)のすべてに適用できる。 [例 1.8.1] (「ミニ・カミオカンデ」問題) 三角形をした観測地域にクーロン電荷センサ

ーを置いたとしよう。宇宙からは電荷を帯びた微粒子が降ってくる。電荷の強さ(と言う よりむしろ電荷の弱さ)と落下地点はまったくランダムであり、確率的にしか決まらない。 センサーは自分と電荷を帯びた微粒子の間に働くクーロン電荷引力あるいは斥力が一定の

24

閾値を超えた時に電荷粒子の落下を感知する。確率的に見て、センサーを配置するべき最 適点は三角形の灯心である。 鍛冶静雄氏によって指摘されたことだが、「街灯」問題と「ミニ・カミオカンデ」問題は 複数の街灯あるいはセンサーを設置する場合には様相が全く異なってくる。「街灯」問題で は、2本の街灯を設置するのであれば、明るさの総計を最大にするには2本とも灯心に立 てるのがよい。明るさの総計は1本の時の2倍になる。「ミニ・カミオカンデ」問題では、 センサーは互いに独立して働くから、2台のセンサーは別々の場所においた方が良いこと は明らかである。(センサー間の相互作用は数学的な困難を生まないから、考えなくて良 い。)2台のセンサーを三角形(観測地域)の別々のポイントに置いた時には、2台を結ぶ 線分の垂直2等分線を引く。垂直2等分線は三角形を2つの部分に分割し、それぞれに1 台ずつのセンサーが配置されている。我々は、それぞれの地域で、それぞれのセンサーに よる「電荷の感知力」を積分して、2つの地域の積分値の和を求めればよい。従って、我々 の問題はこの和を最大にするような2点の対 (P1, P2) を求めることである。観測地が長方 形の場合には、鍛冶氏は2本の対角線のそれぞれの上の 1/4 点と 3/4 点の対が正解になるの ではないかと予想した。

[例 1.8.2]上記のほかにもいろいろな方面への拡張問題が考えられる。例えば、様々な平 面図形の灯心を決定する問題、さらに一般的には n 次元の連結凸領域の灯心を決定する問 題、あるいはミニ・カミオカンデ問題で n 台のセンサーを最適に配置する問題などである。

25

第2章

底灯心から出発して重心を目指す立体灯心の久遠の旅路

第2章では、本論文の「はじめに」の中で与えた公園内の各点の「明るさ」に対するも う一つの定義に従って計算を進めてゆき、三角形におけるその総和が最大となる点を求め る。 [定義 2.0.1]公園内の各点の明るさのもう一つの定義: 高さが s > 0 の街灯の設置地点から距離 r だけ離れた地点の明るさを cs / (s2 + r2)3/2 と 定義する。ここで c は r や s によらない正の定数を表す。定数 c の値は光源の光の強さ を表す。この明るさの定義は、高さのある街灯から斜めに照らされる地表面の明るさを表 す。 2.1

高さゼロの街灯の明るさ分布関数はディラックのδ関数になる

上で定義された高さ s > 0 の街灯の設置地点から距離 r だけ離れた地表面の明るさを f(r;s) としよう。すなわち、f(r;s) = cs / (s2 + r2)3/2 である。 この式で高さ s を限りなくゼロに近づけてゆくと、 f(r;s)  c・0 / (0 + r2)3/2 = 0 となる。 これは、街灯の高さが限りなくゼロに近づくと、光線と地表面の傾斜が限りなく平行に近 づき、光が地表面とぶつからなくなるからである。街灯の設置地点だけが唯一の例外で、 実際、r = 0 とすると、f(0;s) = cs / (s2 + 0)3/2 = cs/s3 = c/s2  ∞ となる。さらに、以下の 節で見るように、この関数を全平面で積分すると 2πc という有限の値になる。従って、 正規化された関数 f(r,s)/ 2πc はディラックのδ関数になる。ディラックは原子の確率的な 振る舞いを記述するためにδ関数を考案したのである。 2.2

高さ s > 0 の街灯に照らされた公園内の各地点での地面の明るさを積分する

第1章でのやり方と全く同様に、⊿ABC 内の街灯の設置地点 P から辺 BC, CA, AB に垂線 PH, PJ, PK を引いて⊿ABC を6個の直角三角形に分割する。明るさの積分はそれぞれの 部分三角形の上で行い、結果を合計する。例えば、⊿PJA の上の積分は、垂線の長さ |PJ| を j 、∠APJ をαと記すとき、

26

積分計算は以下のようになる。 

  0

j / cos 

 cs rdrd    [ 2 3/2 0 (r  s ) 2

0



1

  cs  {

( j / cos  ) 2  s 2

0

 c   cs 

cos 



j 2  s 2 cos 2 

0

ここで  x 



j  s2

cos 



j 2  s 2  s 2 sin 2 

0



s 2



0

s j2  s2



s

j2  s2

sin 

2

] 0j / cos  d 

1 }d  s

sin   と置くと  d

j2  s2 s

1  [arcsin x ] 0 s

r s 2

d

j2  s2

sin 

 cs

1  x2 

dx

1 arcsin( s

s sin  j2  s2

)

従って、⊿PJA での積分は

となり、6 個の部分直角三角形での積分の総和を取ると、⊿ABC (公園)の地表面の明る さの総和 F(P;s) は、

となる。この結果は、高さ s が限りなく大きな値となってゆくとき、公園の表面の明るさ の総和 F(P;s) は、F(P;s)  2πc – c[2π] = 0 となることを示しており、直感と一致する。

27

2.3

地面の明るさの総和を街灯の高さ s で偏微分してみる

街灯の高さをどんどん高くして空の上のほうまで伸ばしてゆくと、公園の地表面全体の明 るさの合計 F(P;s) はどうなるだろうか?

前節で F(P;s) の値は計算してあるから、光源

の高さ s でそれを偏微分すればよい。高さ s は三角形 ⊿ABC の形や街灯を設置する位 置 P とはまったく独立に決めることが出来る点に注意する。偏微分の計算を実行すると、

F j 2 sin 2  j 2 sin 2    c[  s ( s 2  j 2 ) s 2 cos 2   j 2 ( s 2  j 2 ) s 2 cos 2   j 2            

k 2 sin 2  ' ( s 2  k 2 ) s 2 cos 2  ' k 2 h 2 sin 2  ( s 2  h 2 ) s 2 cos 2   h 2

 

k 2 sin 2  ' ( s 2  k 2 ) s 2 cos 2  ' k 2 h 2 sin 2  ( s 2  h 2 ) s 2 cos 2   h 2

]

0 となる。これもまた直感に一致する。光源と地表面との距離が大きくなればなるほど地表 面(公園)の明るさは単調に減少してゆく。公園の地表面全体の明るさの総和を大きくし たければ、出来る限り光源を地表面に近づけるほうが良い。しかし現実の社会では、人々 が簡単に電球に手が届かないように、やや高い位置に光源がセットされている。 2.4

地面の明るさの総和を底辺に平行な方向に偏微分すると狭義凸性が分かる

以下、第 1 章でおこなった平面的(=2 次元的)明るさの総和の偏微分の場合とまったく同 様に、今度は立体的(=3 次元的)明るさの総和を水平方向に偏微分する。

図 2.1 街灯の足 P と高さ s > 0 の光源 P* の水平方向の移動 頂点 A から底辺 BC に下ろした垂線の足を D とし、角 ∠DAP を θ

( -∠A2 0 の位置にある光源を P* で表すとき、偏 微分の計算は

| BK | cos A2 | AJ | cos A1 | CJ | cos A1 cs (| AD | h ) | AK | cos A2   {    } 2 2 2 2 cos  | AP* || P * K | | P * B || P * K | | AP* || P * J | | P * C || P * J |2 のようになる。 以下に、街灯の足 P が左から右へ水平に移動してゆくとき、すなわち辺

AB の近くか

ら AC の方向に移動して行くとき、上式の値が単調に減少することを証明する。水平な線分

29

B1C1 上の相異なる任意の 2 点を P1, P2 とする。∠BAP1 < ∠BAP2 と仮定して一般性を 失わない。P1, P2 の上空の高さ s の点をそれぞれ P1*, P2* と書くことにする。三垂線の 定理によって、P1*K1, P2*K2 はそれぞれ P1K1, P2K2 と同様に辺 AB に垂直に交わってい る。我々は、3 次元空間の中で ∠AP1*K1 と ∠AP2*K2 のどちらが大きいかを知りたい。 点 A を頂点とし、半直線 AB を中心軸、半直線 AP1* を母線とする三角錐を考えよう。

上空の点 P2* は明らかにこの円錐の外にあるから

∠P1*AK1 < ∠P2*AK2 が成り立つ。

したがって、それらを含むそれぞれの直角三角形での補角については、その反対向きの不 等式

∠AP1*K1 > ∠AP2*K2 が成り立つ。よって、sin(∠AP1*K1) > sin(∠AP2*K2) すな

わち |AK1|/|AP1*| > |AK2|/|AP2*| が成り立つ。同様にして、点 A を頂点として、半 直 線 AC を 中 心 軸 、 AP2* を 母 線 と す る 円 錐 を 考 え て 不 等 式 |AJ1|/|AP1*| < |AJ2|/|AP2*| を得る。これら2つの不等式をあわせて |AK1|(cos∠A2)/(|AP1*||P1*K1|2) - |AJ1|(cos∠A1)/(|AP1*||P1*J1|2) > |AK2| cos∠A2/(|AP2*||P2*K2|2) - |AJ2| cos∠A1/(|AP2*||P2*J2|2). が得られる。同様にして |BK1|(cos∠A2)/(|BP1*||P1*K1|2) - |CJ1|(cos∠A1)/(|CP1*||P1*J1|2) > |BK2|(cos∠A2)/(|BP2*||P2*K2|2) - |CJ2|(cos∠A1)/(|CP2*||P2*J2|2). が成り立つことも分かるから、これらの不等式をすべて合わせて考えると、dF(P;s)/dθ は 点 P が辺 AB の近くから辺 AC の方向へ水平に移動するとき単調に減少することが分かっ

30

た。これは、明るさの総和関数 F(P;s) は底辺に平行な方向に関して狭義に凸であることを 意味する。偏微分 dF(P;s)/dθの値の符号を考えると、点 P が辺 AB の近くから三角形の内 部に向かって水平に移動しているときには正であり、三角形の内部の方から辺 AC に近づい ているときには負になっていることは明らかである。従って、底辺 BC から高さ h の位置 にある線分 B1C1 の内部に1つそして唯一つ偏微分 dF(P;s)/dθの値がゼロとなる点が存 在する。 [定義 2.4.1]上で説明した線分 B1C1 上で dF(P;s)/dθ= 0 となる唯一の点を「高さ s の 街灯のレベル h の照明中心点」と呼び、ls(h) と書くことにする。レベル h の値が 0 か ら |AD| まで動くとき、集合 {ls(h); 0 < h < |AD|} は 1 本の弧となり、レベル h の各水 平な線分とただ 1 点で交わる。この弧を「高さ s の街灯の、頂点 A に近づく灯心弧」と 呼ぶ。 照明中心点 ls(h) の位置は垂線 AD からの距離 x によって確定する。(ただし、 -|BD|(|AD|-h)/|AD| < x < |CD|(|AD|-h)/|AD|)。距離 x の値は高さ s とレベル h および三角形 ⊿ABC の形状から決まるパラメータを持つ x の逆三角関数に関する方程 式の解として与えられる。この解 x がパラメータ s と h に滑らかに依存することは明ら かである。 さて、頂点 A, B, C に近づく 3 本の灯心弧を考えてみよう。それらは 1 点で交わる。そ うでないと仮定すると、3 点で交わることになってしまい、例えば P1, P2 , P3 で交わった とすると、照明中心点の定義から F(P1;s) < F(P2;s) < F(P3;s) < F(P1;s) のような論理的に矛 盾する不等式が成り立ってしまうことになる。 [定義 2.4.2]頂点 A, B, C に近づく 3 本の灯心弧が交わる点を「高さ s の立体灯心(3 次 元灯心)」と呼ぶ。高さ s の街灯はこの地点に設置されるときに、三角形をした公園の地表 面全体を最も効果的に照らす。立体灯心の位置は光源の高さ s に依存する。

2.5

地面の明るさの総和と三角形の対称軸

三角形 ⊿ABC において |AB| = |AC| が成り立つとき、⊿ ⊿ABC は頂点 A と底辺 BC の中点 M を通る直線 AM を対称軸とする二等辺三角形となる。 前節で求めた dF(P;s)/dθの展開式の中の最後の式を見ると、二等辺三角形の場合にはこ の式が対称軸に関して対称になっている。変数 θ を –θ で置き換えると、対称軸に関し て鏡像の位置にある点の式に変換される。したがって [dF/dθ][-

θ]

= - [dF/dθ][θ] であり、

特に [dF/dθ][θ=0] = 0 である。故に、頂点 A に近づく高さ s の街灯の灯心弧は、AM が対 称軸になっている二等辺三角形の場合には、対称軸そのものに含まれている。言い換えれ ば、二等辺三角形の場合には、対称軸上の点から街灯の足 P を辺AB,ACのどちらの方

31

向へ水平に移動させても明るさの総和関数 F(P;s) は単調に減少する。 したがって、正三角形の場合には次の命題が高さ s > 0 の如何にかかわらず成り立つ。 [命題 2.5.1]正三角形の場合には、街灯の高さ s > 0 の如何にかかわらず、街灯を対称の 中心においたときに、三角形全体の地表面が最も効果的に照らされる。 2.6.

対称軸に沿って地面の明るさの総和を垂直方向に偏微分する

前節において、二等辺三角形をした公園の場合には、左側の辺ABから右側の辺ACに 向かって街灯の足Pを水平に移動させると、地表面の明るさの総和関数 F(P;s) は対称軸を 通過するときに最大値を取ることを示した。そこで次には、対称軸に沿った F(P;s) の偏微 分を計算して、対称軸上で最大値を取る点を求める。(高さ s の立体灯心) 明るさの総和積分の展開式の対称性から、それは対称軸上では次のようになる。

頂点Aから街灯の足Pまでの距離を t > 0, すなわち t = |AP| とする。第 1 章で平面灯 心の位置を計算したときとまったく同様に、合成関数の微分法を用いて F(P;s) を t で微分 する。まず、パラメータとなっている角の大きさや辺の長さを t で表して、t で微分しよ う。 α= π/2 - A/2 = B;

t によらず一定。 j = t・sin(A/2),

h = |AM| - t,

h・tanγ= |BM|; t によらず一定。β= π/2 + A/2 –γ. したがって

dα/dt = 0,

dh/dt = -1,

dj/dt = sin(A/2) > 0 ,

dγ/dt = - dβ/dt = sin(γ)cos(γ)/h = sin(2γ)/2h > 0. これらの等式を偏微分の展開式

1  ( j / s) 2 d sin  F ( P; s ) 1 1 2( j / s )( dj / dt )  2c[  (sin  )(  ) } {( ) dt t 2 (1  ( j / s ) 2 ) 3 / 2 cos 2   ( j / s ) 2 1  ( j / s) 2                  

1  ( j / s) 2 cos 2   ( j / s ) 2 1  (h / s) 2 cos   ( h / s ) 2

2

{(

{(

d sin  1 1 2( j / s )( dj / dt ) }  (sin  )(  ) ) dt 2 (1  ( j / s ) 2 ) 3 / 2 1  ( j / s) 2

d sin  1 2( h / s )( dh / dt ) 1 } )  (sin  )(  ) 2 dt 2 (1  ( h / s ) 2 ) 3 / 2 1  (h / s)

に代入すると

32

F ( j / cos  ) sin( A / 2) (sin  )( j / cos  )  cs[(sin B )  (cos B ) t s 2  ( j / cos  ) 2 ( s 2  j 2 ) s 2  ( j / cos  ) 2 ( s 2  j 2 )    

sin(2 ) 2h s  ( j / cos  )

    cs[

2

2



(tan  )h s  ( h / cos  ) ( s  h ) 2

2

2

2



sin(2 ) 2h s  ( h / cos  ) 2 2

]

| PJ | sin C | CJ | cos C | CM |   ] 2 2 | P * A || P * J | | P * C || P * J | | P * C || P * M |2

となり、対称軸上の点 P が明るさの総和 F(P;s) を最大とする点であるためには、 |PJ|(sin C) / (|P*A|・|P*J|2) + |CJ|(cos C) / (|P*C|・|P*J|2) - |CM| / (|P*C|・|P*M|2) = 0, が成り立つことが必要十分である。ただし、P* は点 P の上空、高さ s > 0 の位置にある 光源をあらわす。この式を共通分母に通分して分子を取ると、分子は次の 2 つの式 f1(t) と f2(t) の和となる。

関数 f1(t) は点 P が外心よりも上にあれば正の値を取り、外心よりも下にあるときは負とな る。関数 f2 (t) は点 P が内心よりも上にあれば正の値を取り、内心よりも下にあるときは 負となる。 この2つの条件は街灯の高さ s の値の如何にかかわらず成り立つ。故に、頂点 A から底 辺 BC に向かって対称軸上を点 P が移動して行くと、地表面の明るさの総和 F(P;s) は街灯 の高さの如何にかかわらず、点 P が外心および内心よりも上にあるときは単調に増加し、 点 P が外心および内心よりも下にあるときは単調に減少する。言い換えれば、最大値を取 る点は、街灯の高さの如何にかかわらず、外心と内心の間に存在する。

2.7

対称軸上での明るさの総和関数の狭義凸性

前節の結果によれば、地表面の明るさの総和関数 F(P;s) が対称軸に沿って上に狭義凸で あること、すなわち dF(P;s)/dt が外心と内心の間で単調減少であることを示すには、2つ の導関数の和 f1’(t) + f2’(t) の値が負であることを示せば十分である。

33

f 1 ' ( t )  (sin B )(cos B ){ s 2  (| AM |  t ) 2  | CM |2   (| AM |  t )

    t (sin B )(cos B ){

s  (| AM |  t )  | CM | 2

2

2

t



s t 2

 t (sin B )(cos B ){ s 2  (| AM |  t ) 2  | CM |2     f 2 ' ( t )  | CM | [       

t s t 2

2

s 2  t 2 }{ s 2  (| AM |  t ) 2 } 2

}{ s 2  (| AM |  t ) 2 }

s 2  t 2 }{  2 (| AM |  t )}

{(| AM |  t ) 2  ( t cos B ) 2 }

s 2  t 2 {  2 (| AM |  t )  2 t cos 2 B }]

だから、 f1 ' (t )  f 2 ' (t )  (sin B )(cos B ){(| AM |  t )( 3t  | AM |)  s 2 }{ s 2  t 2   t (sin B )(cos B ){ 

| CM | s t 2

2

(| AM |  t ) s  (| AM |  t )  | CM | 2

2

2



t s t 2

2

s 2  (| AM |  t ) 2  | CM |2 }

}{ s 2  (| AM |  t ) 2 }

{(| AM |  t )(| AM |  3t ) t  3t 3 cos 2 B  2 s 2 (| AM |  t sin 2 B )}

上式の右辺が常に負であることを示すために2つの場合に分ける。 (ケース 1) ∠A > π/3 の場合 上式の最後の行にある (|AM| - t)(|AM| -3t) について考えてみよう。点 P は内心より も下にあるから t > |AM|/(1 + cos B) > |AM|/2 > |AM|/3 が成り立つ。だからこの項は 負である。他方、点 P は外心より上にあるから t2 < (|AM| - t)2 + |CM|2 が成り立ってい る。故に、上式の右辺の中の s2 を因子に含まない項はすべて負である。残りの項は

となっているから、共通分母にして通分して分子を取ると、

34

(sin B )(cos B ){s 2  ( 2t  | AM |)(| AM | t )  | CM |2 } s 2  t 2  {(sin B )(cos B )( s 2  2t 2 )  2 | CM | (| AM | t sin 2 B )} s 2  (| AM | t ) 2  | CM |2      (sin B )(cos B ){s 2  2t 2  3(tan B ) | CM | t  (tan 2 B ) | CM |2  | CM |2 } s 2  t 2  {(sin B )(cos B )( s 2  2t 2 )  2 | CM | ((tan B ) | CM | t sin 2 B )} s 2  t 2        {(tan B ) | CM |2  (sin 2 B ) | CM | t} s 2  t 2   0 となって、これらの項の合計も負になっていることが分かる。以上で、 dF(P;s)/dt が外心 と内心の間では負になっていることの ∠A > π/3 の場合の証明が完結した。 (ケース 2) ∠A < π/3 の場合 この場合には、点 P が内心よりも上にある場合を考えればよいから、

| AM | | AM | | AM |  t 2 1  cos A 1  cos B であり、また外心よりも下にある場合を考えればよいから、 t2 > (|AM|- t)2 + |CM|2 が 成り立っていると仮定してよい。このケースでは、上で計算した f1’(t) および f2’(t) のそれ それが負であることが以下のようにして簡単にわかるから、明らかに f1’(t) + f2’(t) < 0 がな りたつ。

f 1 1  { s 2  (| AM | t ) 2  | CM |2  s 2  t 2 }s 2 (sin B )(osB ) t {     

t (| AM | t ) s  (| AM | t )  | CM | 2

2

2



t2 s t 2

2

}s 2

 { s 2  (| AM | t ) 2  | CM |2  s 2  t 2 }(| AM | t )(3t  | AM |)    {   

| AM | t s  (| AM | t )  | CM | 2

2

2



t s t 2

2

}t (| AM | t ) 2

     0 また、

1 f 2  2 s 2 (| AM | t sin 2 B ) ( 2  sin 2 B )t 2 4 | AM | | AM |2 (t  )   t | CM | t 2  sin 2 B 2  sin 2 B s2  t 2 s2  t2 であり、上式の最後の、t に関する 2 次式は |AM| / 2 ≦ t ≦ |AM| / (1 + cos B) の範 囲では負であることが容易に分かるから、この範囲で f2’(t) < 0 であることが証明された。 上に得られた2つのケースの結果を合わせて、次の命題を得る。

35

[命題 2.7.1] |AB| = |AC| である二等辺三角形 ⊿ABC においては、地表面の明るさ の総計関数 F(P;s) は対称軸 AM 上の、外心と内心の間のただ 1 点において最大値を取る。 この事実は街灯の高さ s の値の如何によらず成り立つ。 [定義 2.7.2]高さ s > 0 の街灯が三角形の地表面を最も効果的に照らす上記の点を高さ s の立体灯心(3 次元灯心)と呼び L(s) と表す。点 L(s) の位置は高さ s の値に依存する。 第 1 章で求めた灯心をこの立体灯心と区別する必要があるときは、前者を平面灯心(2 次元 灯心)と言う事にする。 2.8

f1(t) + f2(t) の特別に重要な重心での値

前節において我々は、f1(t) + f2(t) の正負、すなわち dF(P;s)/dt の正負が外心と内心の間 では正の値から出発して単調に減少して負の値にいたることを証明した。外心と内心の間 にある重心は本質的に重要な役割を果たしている。重心における f1(t) + f2(t) の値、すなわ ち f1(2|AM|/3) + f2(2|AM|/3) を計算しよう。

2 2 | AM | 1 1 f1 ( | AM |)  f 2 ( | AM |)  (sin 2 B ){s 2  | AM |2 } s 2  | AM |2  | CM |2 3 3 3 9 9 | AM | 1 4 | AM || CM | 3 4 {(sin 2 B )( s 2  | AM |2 )  (sin 2 B  )} s 2  | AM |2 3 9 3 4 9 4 | AM | 2 | AM | 1  (sin 2 B ) 2 {s 4  | AM |2 s 2  }{s 2  | AM |2  | CM |2 } 3 9 9 81 4 | AM | 2 | AM |  } [(sin 2 B ) 2 {s 4  | AM |2 s 2  81 3 9 8 sin 2 B 3 1       | AM || CM | (sin 2 B  )( s 2  | AM |2 ) 3 4 9 2 2 16 | AM | | CM | 3 4       (sin 2 B  ) 2 ]{s 2  | AM |2 } 9 4 9 1 1 /  (sin 2 B )( s 2  | AM |2 ) s 2  | AM |2  | CM |2 9 9     {

    {(sin 2 B )( s 2 

1 4 | AM || CM | 3 4 | AM |2 )  (sin 2 B  )} s 2  | AM |2 9 3 4 9

根号の差の正負を判定したいので、 「分子の有理化」をおこなった。 ただし、sin2 B > 3 / 4 の場合、すなわち ∠A < π/3 の場合には、 s  2

4 | AM |2 の 9

係数が正になる可能性があるので、そうなれば有理化するまでもなく f1(t) + f2(t) の値はあ きらかに正である。有理化した式の分子の正負を計算する前に、この可能性を検討してお こう。すなわち、ある ∠B と、ある s > 0 に対して

36

(sin 2 B )( s 2 

1 4 | AM | CM | 3 | AM |2 )  (sin 2 B  )  0 9 3 4

が成り立っている場合を考える。この式から簡単に ∠B > π/ 3 すなわち、0 < ∠A sin2 B > 9 / 10 すなわち、1 / 10 > cos2 B > 0 かつ、0 < s2 < (0.48)|AM|2 が言える。このときは、有理化するまでもなく f1(t) + f2(t) の値は正である。 以下、それ以外の場合を考えてゆくので、上で有理化をした結果の式の分母は明らかに 正であり、分子のほうをもう少し簡略にしておくと、共通因子 |AM| / 3 を除いて書くと 次のように成る。

2s 2 | AM |4 | AM |2 | AM |2  )(  ) 9 81 3 2s 2 | AM |4 cos 2 B | AM |2  )( 2 | AM |2 )     (sin 2 B ) 2 ( s 4  9 81 sin B 2 4 16(cos B ) | AM | 3 (sin 2 B  ) 2 { 2 9(sin B ) 4

(sin 2 B ) 2 ( s 4 

    16 sin B cos B{s 2 

| AM |2 (cos B ) | AM |2 3 4 } (sin 2 B  )}( s 2  | AM |2 ) 9 3 sin B 4 9

上式の s4 の係数を計算すると、

(sin 2 B ) 2 cos 2 B (cos B ) | AM |2 3 2 | AM |2 (sin 2 B ) 2 | AM |  16 sin B cos B (sin 2 B  ) 2 3 sin B 3sin B 4 0



であり、s2 の係数を計算すると、

| AM |2 8 sin 2 B cos 2 B 2 cos 2 B | AM |2  ( 4 sin 2 B cos 2 B ) | AM |2 ( 2 | AM |2 ) 3 9 9 sin B 2 cos B 3 4 sin B cos B (cos B ) 3 | AM |4 (sin 2 B  )  | AM |2 | AM |2 (sin 2 B  )  4{ 2 9 sin B 4 9 3 sin B 4 2 (cos B ) | AM | 3 4 (sin 2 B  ) | AM |2 }     4 sin B cos B 3(sin B ) 4 9 



4 | AM |2 | CM |2 3 (1  2 sin 2 B )(sin 2 B  ) 27 4

となり、同様にして s0 の係数、すなわち定数項を計算すると、

37

| AM |4 (cos 2 B ) | AM |2 | AM |4 | AM |2 ) ( )  ( 4 sin 2 B cos 2 B ) ( sin 2 B 81 3 81 3 3 3 16(cos 2 B ) | AM |4 { {sin 2 B(sin 2 B  )  (sin 2 B  ) 2 4 4 4 9 sin B 2 2 3 4 | AM | (cos B ) | AM |  (16 sin B cos B )    (sin 2 B  )}( | AM |2 ) 4 9 9 3 sin B 4 2 16 | AM | | CM | 3  (cos 2 B )(sin 2 B  ) 27 4

( 4 sin 2 B cos 2 B )

となるので、結局、有理化の分子は、

4 | AM |3 | CM |2 3 {(1  2 sin 2 B ) s 2  4 | AM |2 cos 2 B}(sin 2 B  ) 81 4 と表すことができる。この式は、f1(2|AM|/3) + f2(2|AM|/3) の正負が街灯の高さ s によ らず ∠B の大きさのみによって決定されることを示している。すなわち ∠A > π/3 なら 負であり、∠A < π/3 なら正である。これは外心の場合とまったく同じだから、灯心の存 在範囲について、前節よりも更に精密な結果が得られた。 [命題 2.8.1] |AB| = |AC| である二等辺三角形 ⊿ABC においては、地表面の明るさ の総和関数 F(P;s) は街灯の高さ s > 0 の値の如何によらず対称軸 AM 上の内心と重心の間 にある唯 1 点において最大値を取る。

図 2.2. 立体灯心は街灯の高さ s の値の如何によらず、内心と重心の間にある。

2.9

立体灯心の高さゼロと高さ無限大の場合の極限値

38

第2.2節において我々は、高さ s の街灯の足から距離 r の位置にある地点の明るさの 分布を表す関数 f(r;s) = cs / (s2 + r2)3/2 は s がゼロに限りなく近づいてゆくとき、ディラッ クのδ-関数に収束することを説明した。それでは、高さ s の街灯の立体灯心 L(s) は s が ゼロに限りなく近づいてゆくときどうなるのだろうか?

第2.5節において、対称軸上

の点が立体灯心であるための必要十分条件が |PJ|(sin B) / (|P*A|・|P*J|2) + |CJ|(cos B) / (|P*B|・|P*J|2) - |CM| / (|P*C|・|P*M|2) = 0, という等式を満たすことであることを示した。ただし P* は高さ s > 0 の光源の位置を表 す。高さ s が限りなくゼロに近づいてゆくとき、上空の点 P* は地表面の点 P に限りな く近づいてゆく。上の等式内の P* を P で置き換え、等式 |PJ| = |PA|cos B, |PB| = |PC|, |CJ| cos B = |CM| - |PA|(cos B)(sin B) を用いると、

tan B 1 1 | CM | 1 1 (  ) (  )0 2 2 | PA | | PA | | PC | | PC | | PA | cos B | PM |2 と表され、第 1 項は、街灯の足 P が外心より上にあれば正、下にあれば負となり、第 2 項 は P が内心より上にあれば正、下にあれば負となる。 この等式を満たす点 P を我々は「底灯心」と呼ぶことにする。 上式の左辺の値を重心で評価してみるため、|PA| = 2|AM| / 3, |PM| = |AM| / 3, |CM| = (cosB) |AM| / (sin B), |PC|2

27(tan 2 B  3) 2

4 | AM |

9  tan B 2

{9 

= |PM|2 + |CM|2 を代入して変形すると、

tan B 9  tan 2 B  2 tan B

}

となる。この式の値は、tan2 B > 3 のとき、すなわち、∠B > π/ 3 ( i.e. ∠A < π/ 3 ) の ときは正、tan2 B < 3 のとき、すなわち、∠B < π/ 3 ( i.e. ∠A > π/ 3 ) のときは負とな るから、底灯心は重心と内心の間にある。この点については、第 1 章で考察した「平面灯 心」と同様であるが、底灯心と平面灯心の位置関係については未解決の問題である。 逆に、街灯の高さがどんどん高くなって、高層ビルよりも高く、月よりも高く、太陽系 を通り過ぎ、銀河系の端を超えて宇宙の果てまで高くなったら、立体灯心 L(s) はどうなる のだろうか?

その場合には、街灯から来る光は次第に平行光線に近づいてゆき、三角形

内のすべての点の明るさはほとんど等しくなる。そのような場合には、各点の明るさはほ とんど各点の質量に比例するわけだから、このような場合の臨界点はバランスの中心であ る重心になる可能性が高いと推測される。以下に、この推測が正しいことを 2 通りのやり かたで証明する。 [L(∞) = 重心であることの第1の証明] 2.6 節の結果により、点 P で F(P;s) が最大値を取るには等式 f1(t) + f2(t) = 0 が成り立た

39

なければならない。ただし、 t = |AP| は頂点 A から点 P までの距離であり、関数 f1(t), f2(t) は 2.6 節に定義されている。 等式 f1(t) + f2(t) = 0 の左辺の中の根号の差の部分を有理化し、共通因子 s > 0 で割ると、 t(sin B)(cos B){(|AM| - t)2+|CM|2- t2}{1 + (|AM| - t2)/s2} / {(1 + (|AM| - t)2 /s2+ |CM|2/s2)1/2+(1 + t2/s2)1/2} + |CM|(1 + t2/s2)1/2{(|AM| - t)2- (t cos B)2} = 0 となるから、s > 0 が限りなく大きくなってゆくと、この等式は限りなく t(sin B)(cos B){|AM| - t}2+|CM|2- t2} / 2 + |CM|{(|AM| - t)2- (t cos B)2} = 0 に近づいてゆく。これに等式 (cos B)|AM| = (sin B)|CM| を適用すると、唯一の解 t = 2|AM| / 3 が得られ、これは点 P が重心であることを示す。 [L(∞) = 重心であることの別証明] 第 2.8 節において我々は f1(2|AM|/3) + f2(2|AM|/3) の値を計算した。そこで計算した 結果を眺めてみると、分子の式は重心においては、高さ s > 0 について、s4 の係数が消え て s2 から始まる 2 次式になっており、他方、分母は s の 4 次式である。したがって、 f1(2|AM|/3) + f2(2|AM|/3) の値は s が限りなく大きくなってゆくにしたがって、限りな くゼロに近づいてゆく。これは、t = 2|AM|/3 が方程式 f1(t) + f2(t) = 0 の解に限りなく近 づいてゆくことを示している。証明おわり。 我々は高さ s の立体灯心 L(s) が、s > 0 が限りなくゼロに近いときには内心に限りなく 近い位置にあり、s が限りなく大きくなってゆくと重心に限りなく近づいてゆく、という移 動をすることを示した。それでは、L(s) は旅路の途中で何回か方向転換をするのだろうか、 それとも重心に向かって一直線に進んでゆくのだろうか?

我々は微分の計算をすること

によって、L(s) が一度も方向転換をすることなく、また途中で一休みすることもなく進ん でゆくことを示す。街灯の高さが宇宙の果てまで高くなってゆくとき、立体灯心 L(s) はゆ っくりだが着実に、一路重心に向かって進んでゆく。 2.10 街灯の高さを高くしてゆくと立体灯心の位置はどのように移動するか? [t(s) = |AL(s)| を s > 0 で微分する計算] これまでしばしば述べてきたように、頂点 A から立体灯心 L(s) までの距離 t(s) は方程 式 f1(t) + f2(t) = 0 の唯一の解である。この方程式の両辺を s の関数とみなして、合成関数 の微分法を用いて s で微分する。微分計算の第 1 歩は次のようになる。

40

上の分数式を共通分母に通分して分子を取ると、

式 2.9.1

微分 t’(s) = d(|AL(s)|)/ds の計算

まず最初に、t’(s) を因子に含む項を取り出して計算しよう。

41

∠A = π/3 のときは、∠B = π/3 となって、cos B = 1/2, sin B = √3 /2, さらに s > 0 の 値の如何にかかわらず t(s) = (2/3)|AM| であるから、この場合には t’(s) の係数の総和は

上式の t’(s) の係数の符号は s の値の如何にかかわらず負である。連続性によって、∠A が π/3 に近いときには t’(s) の係数の符号は負である。2.7 節の結果から、我々は立体灯心 L(s) は内心 I と重心 G を結ぶ線分 IG の内部だけを移動することを知っている。故に、 t’(s) = d(|AL(s)|)/ds の値は有界である。したがって、∠A の大きさが変化するとき、t’(s) の係数の値は限りなくゼロに近づくことは出来ない。これらの考察から、∠A の大きさが 変化するとき、上式の t’(s) の係数の符号は s の値の如何にかかわらず常に負である。こ のことは、t’(s) 自身の符号は、上の式 2.9.1 において t’(s) を因子として含まないすべての 項の総和の符号に等しいことを意味する。その総和は以下のようになっている。

最初の根号の係数は明らかに正である。2 番目の根号の係数のかぎ括弧[ ]内の部分は、∠A > π/3 の場合には内心条件から (|AM| - t(s))2 - (t(s) cos B)2 < 0 が成り立つから正である。

42

∠A < π/3 の場合には、重心条件から t(s) > (2/3)|AM| が成り立つから、上の式の 2 番 目の根号の係数の括弧内の最後の項とその直前の項の和は以下のようになる。

故に、2 番目の根号の係数の括弧内の項の和の符号も、∠A の大きさにかかわりなく正とな る。これに –s が掛かっているわけだから、t’(s) の符号は2つの根号の項の差を有理化す れば分かることになる。明らかに正である因子 s を除いて有理化すると、分母は当然正で、 分子は以下のようになる。

この有理化された分子の各項は以下の3つのカテゴリーに分類することが出来る。 (1) s4 を因子に持つ項。これらの項は高さ s の値が非常に大きいときに支配的な役割 を演ずる。これらは一種の Fernwirkung (遠隔力) であり、非常に遠方から立体灯 心を重心の方向に引っ張る。 (2) s2 を因子に持つが s3 は因子に持たない項。これらは一種の Mittelwirkung (中間 力) である。

43

(3) s を因子に含まない項。これらは一種の Nahewirkung (近接力) であり、高さ s の 値が非常に小さいときに支配的な力となる。 [s4 を因子に持つ項の計算] s4 を因子に持つ項たちは次のようにまとめなおすことが出来る。

重心条件により、最後の行は∠A < π/3 ならば負であり、∠A > π/3 ならば正である。こ れは、s4 を因子に含む項は ∠A の大きさや高さ s の値にかかわらず、常に立体灯心を重 心の方向に引っ張っていることを意味している。 [s を因子に含まない項の計算] 次に、s を因子に含まない項(近接力)の正負を計算する。

内心条件 (|AM| - t(s))2 – (t(s)cos B)2 を含む項は以下のように書き直すことが出来る。

|AM| > t(s) > |AM|/2 だから、この部分については、∠A < π/3 ならば負であり、∠A > π/3 ならば正である。残りの項は、以下のように書き直すことが出来る。

44

上のすべての項は t(s) - 2|AM|/3 (あるいは、同じことだが、 3t(s)2/4 - |CM|2 ) に関 する重心条件によって、∠A < π/3 ならば負であり、∠A > π/3 ならば正である。 以上をまとめると、s を因子に持たない項全体は、立体灯心を一貫して内心の方から重心の 方へプッシュし続けていることが証明された。 [s2 を因子に持つが s3 は因子に持たない項の計算] 最 後 に s2 を 因 子 に 持 つ が s3 は 因 子 に 持 た な い 項 ( 中 間 力 ) を 計 算 す る 。

これらの項は次のようにまとめなおすことが出来る。

t(s) - 2|AM|/3 に関する重心条件から、上の式の各項が∠A < π/3 ならば負であり、∠A >

45

π/3 ならば正であることが容易に分かる。 従って、中間力 (s2 の項)も遠隔力(s4 の項)や近接力(s0 の項)と同様に、立体灯心を内心 の方から重心の方向に押し続ける。立体灯心の位置は、街灯の高さが高くなり続けるとき に、常に、単調に、重心の方向に移動し続ける。 2.11 一般三角形の立体灯心 2 次元灯心(平面灯心)の場合と 3 次元灯心(立体灯心)の二等辺三角形の場合が解決でき たので、3 次元灯心の一般三角形の場合については、つぎのように予想することが出来る。 [予想

2.11.1]任意の三角形 ⊿ABC に対して正の数 s を一つ任意に定めると、高さ s

の街灯を底辺 BC からの距離 h > 0 を保って水平に移動させるとき、三角形全体を最も明 るく照らす位置がひとつ、そして唯一つ定まる。 (第 2.4 節で証明した。)この点を ls(h) (0 < h < |AH|) と記すことにすると([定義 2.4.1]の再録)、s をパラメータとする曲線弧の族 が得られる。s がゼロに近づいてゆくと、曲線弧 ls(h) は頂角 ∠A の二等分線に限りなく 近づいてゆく。s が限りなく大きくなってゆくと、曲線弧 ls(h) は頂点 A と底辺 BC の中 点 M を結ぶ線分に限りなく近づいてゆく。

46

(詳細は近々中に別の場所に公開される。)

第3章

ポテンシャル論におけるα次のポテンシャルと素粒子論物理学における 発散積分のカットオフとによって定義される三角形の対称中心の1助変数族

3.0.概要 2 次元ユークリッド平面内の任意の点Pおよびコンパクト可測集合 E と任意の実数α(- ∞ 0 の場合には、 その極限はε = 0 の場合、すなわち通常の E のα次のポテンシャルのものと一致する。 E が三角形の場合、すべてのα(-∞ 0 で定義された関数φ(r), た だし limφ(r), r → 0 が存在して有限または+∞、を用いて K(P,Q) =φ(rPQ) と表現される。 距離核ポテンシャルは

  (r

PQ

)d (Q )

49

という形で書かれる。 (途中省略) 定義

Riesz-Frostman の核

1・2・6

K ( P, Q )  rPQ

Rm において核

 m

をα次の核という。この核によるポテンシャルをα次のポテンシャルとよぶ。0 < α < m なるとき、α次のポテンシャルは M. Riesz と O. Frostman によって 1930 年代に深く研 究され近代ポテンシャル論の発端となったので、0 < α < m なるα次の核は特に Riesz-Frostman の核 とよばれることが多い。α≦0 なるときは後述(たとえば定理 3.1.1 あるいは定理 3.4.8)のようにα次のポテンシャルは興味のないものになる。したがって、 ポテンシャル論の研究対象としてはα > 0 の場合に限られる。 (柴田の注:このことが、我々 が発見した灯心、これは α = 0 の場合に相当する、がこれまで数学者たちによって研究さ れてこなかった基本的な理由であると思われる。) 定義

1・2・7

Newton 核

上の例において m≧3 なるとき、α = 2 に対する核を

Newton 核 とよび、この核によるポテンシャルを Newton ポテンシャル とよぶ。したが って Rm (m≧3) において、測度μの Newton ポテンシャルは

U  ( P)  

1 d (Q ) ( rPQ ) m 2

と書かれる。m = 3 ならば古典的によく知られた形である。 定義

1・2・8

Rm において核

対数核

K ( P, Q )  log

1 rPQ

を対数核とよび、この核によるポテンシャルを対数ポテンシャルとよぶ。対数ポテンシャ ルは m = 2, すなわち平面上で考えるとき大変興味深く応用も広い。対数ポテンシャルは符 号一定でなく、また無限遠点で-∞ になるので、その研究には独特の困難がある。 (途中省略) 定義6.3.2

湯川ポテンシャル

 ( r )  re

m = 3 なるとき、関数

  / r 

   (   0)

を核とするポテンシャルは湯川ポテンシャルとして知られている。 (二宮信幸「ポテンシャル論」からの引用・紹介終わり)

3.2.α次のεポテンシャル R2 の有界なボレル集合 E に対して、通常の R2 の測度μを集合 E へ制限したものを 考える。微小な正の数εを任意に1つ選んで固定する。点 P を中心とする半径εの微小開 円盤を D(P;ε) と表す。また、E’ = E / D(P;ε) と定義する。ただし、/ は R2 におけ る右辺の補集合との共通部分を取る演算を表す。

50

[定義2.1]

集合 E のα次のεポテンシャル UE(α)(P;ε) を

U E (  ) ( P;  )      ( rPQ )

 2

E'

d (Q )

と定義する。dμ(Q) は点 Q の R2 における微小近傍面積要素である。上の積分はすべての α ( -∞ < α < +∞ ) に対して有界集合上の有界な正値関数の積分だから、有限の正の 値に確定する。 上の積分値は、α ≧ 2 の場合には、点 P が集合 E のε内包にある時は、ε=0 による 通常のα次のポテンシャル関数よりも

2

  0



0

r   2 rdrd   

2

0





0

r   1 drd   

2

0

[

r



] 0 d  



2

0

 d   2  



/

だけ小さい値になっている。また、積分の台 E が三角形の場合、点 P が辺の上にあって、 両端の頂点のどちらからもε以上離れていれば、πεα/α だけ引かれており、角度がξ ラジアンの頂角の頂点であればξεα/α だけ引かれている、という具合になっている。

このように、我々のε-カットオフはエネルギー値がεα-2に満たない(α-2 < 0 の 場合にはεα-2

==

1 / ε2-α を超える)エネルギー部分を無視(カットオフ)して積分す

るものである。素粒子論物理学においては、しばしば発散積分の繰り込み(カット・オフ) をおこなうようであるが、私のこの研究のように、発散しない積分に繰り込み(カット・ オフ)を行った人は今までにいなかったのではなかろうか?

積分はもともと有限の値に

収束しているのだから、繰り込みなぞやらなくても値は求まっているのである。そこを敢 えて繰り込み(εカット・オフ)をおこなうのは、値を求めるのが目的なのではなく、α > 0 の場合とα ≦ 0 の場合をまったく区別することなく自由に扱えるようにするためであ る。また、物理学的なカット・オフの場合には、観測装置を考慮するから、カット・オフ の境界値のエネルギーは測定上の意味のある数値になるであろうが、我々の場合には幾何

51

学的な考察のためのカット・オフなので、1 / ε2-α のように、切り取る円盤の半径を一定 にして、境界のエネルギー値そのものはαによって変化する変数となっている。そう言う 意味で、普通のカット・オフ(物理学的なカット・オフ)とは区別して「幾何学的カット・ オフ」と呼ぶ方がよいかもしれない。

α < 2

の場合は下図のようになっている。α = 0 の場合には対数関数が出てくるの

で図示してある関数名を書き換える必要があるから除いたが、原理的にはまったく同様で ある。

U(α)(P;ε) : α次ポテンシャルのグラフ曲面:

α < 2 (α ≠ 0) の場合

U(α)(P;0) : α次ポテンシャル(ε = 0)のグラフ曲面 ここで重要なのは、E のα次のεポテンシャル UE(α)(P;ε) のグラフ曲面は E のε-内 包の上では高さが 2π/ε|α||α| の台(ただし、0 <α <2 のときは高さが負の-2π εα/αの台 = 有限の最大値から切り取った高さ)の上に乗っており、ε > 0 の値をど んどん小さくしてゆくと、グラフ曲面は、最初のεの時のε-内包上では曲面の形を保っ たまま、高さがどんどん上昇して行き、ε→ +0 のとき高さ→ +∞ となって、地上からは 見えなくなってしまう、ということである(ただし、これは α < 0 の場合)。ε-内包

52

とε-外包の中間の帯状地帯では、εが三角形 ABC のサイズに比べて極めて小さいとき、 ε-内包からε-外包へ向かう方向での平均減少率は -π/ε|α|+1|α| と極めて大きく、 ほとんど線形に急減少する。ε-外包の外部では distance(P , △ABC) が増大するに従っ て単調に減少し、distance(P , △ABC) → ∞ のとき UE(α)(P;ε) → 0 となる。 故に、α次のεポテンシャル UE(α)(P;ε) の極大点、極小点を求めるには台 E のε-内包 上で考えれば十分である。 言い換えると、α > 0 の場合もα ≦ 0 の場合も、あるεよりも小さな任意のε’ > 0 を取ると、UE(α)(P;ε) と UE(α)(P;ε’) の gradient ベクトル場の水平面への射影は最初の ε内包の上では完全に一致している。そしてα > 0 の場合にはそれが UE( α )(P;0) の gradient ベクトル場の水平面への射影とも一致するが、α ≦ 0 の場合には積分が発散す るので UE(α)(P;0) が定義されない、というわけである。これは、f(x) = x + 1, g(x) = (x – 1)(x + 1) / (x – 1) であるとき、 lim x 1 f ( x )  2  f (1) かつ lim x 1 g ( x )  2 で あるが、g(1) は定義されていない、というのと同様の状況である。故に、α ≦ 0 の場合 には、ポテンシャル UE(α)(P;0) の gradient ベクトル場の水平面への射影を、E のε内包 の上およびε外包の外では UE(α)(P;ε) の gradient ベクトル場の水平面への射影と定義 すれば well-defined になる。 以下の節では、積分の台 E は三角形 ABC に限定して計算を進めてゆく。

3.3 α ≧ 2 の場合のα次のポテンシャル(下に凸のグラフ曲面) それでは、α ≧ 2 の場合の、三角形 ABC に関する UABC(α)(P;0) = UABC(α)(P) を計算 しよう。この場合には積分は収束するので、εカットの必要は無い。しかし、α次のポテ ンシャルの極値を求めるには、あるε内包の上で考えれば十分なので、点 P が三角形 ABC のε内包の上にある場合だけを計算する。 我々が灯心の計算[2]でおこなったように、点 P から各辺 BC, CA, AB に下ろした垂線の 足を H, J, K とし、ABC を 6 個の直角三角形に分割する。それぞれの直角三角形が点 P を 中心として作る 6 個の角の大きさを、下図のように向きを付けて、α、α’、β、β’、γ、 γ’ とする。鈍角三角形の場合には、垂線の足が対辺の延長上に来ることがあり、そのとき は下図とは角の向きが反転することがある。この場合には、角の大きさを負とすることに よって、α + α’ + β + β’ + γ + γ’ = 2π が常に成り立っているようにできる。

53

上の説明図では、 「α次のポテンシャル」というときの「α」と同じ文字を 6 個の中心角 の1つとして使用しているので紛らわしいが、ご容赦いただきたい。w = α - 1 と置い て、「α次のポテンシャル」の代わりに「w + 1 次のポテンシャル」と書くようにして、少 しでも混乱を避けるようにする。w ≧ 1 とする。直角三角形△APJ の上での積分は、 

  0

j / cos

r

w1 2

     



rdrd  

0



j / cos



r drd   w

0

j / cos

r w1 [ ] w 1 

d

 w1 j w1  1  d    1 0 cos w1  w 1

となるので、6 個の直角三角形での積分をすべて足し合わせて、 UABC(w+1)(P) =  ' j w1  d d k w1  ' d d    { } { } w 1 w 1 w 1    0 0 0 0 w 1 cos  cos  w 1 cos  cos w1  ' h w1  d d 2 w1            { } w  1 0 cos w1  0 cos w1  w 1

となる。ただし、α = 2 の場合には、このポテンシャルは以下のように定数関数になる。

54

 r 2 j / cos j2 2 d    ] {  0  0 2 cos2  2 }d 0  0 2 j 2  d  2 j 2 tan   2 j 2  2  2      APJ  1dt  tan   2 0 cos 2  2 2 0 2 2 2 2 

j / cos



r 0 rdrd  

j / cos



rdrd   [

故に、UABC(2)(P) = ABC   となる。 2

そこで、α > 2 の場合に、底辺 BC からの高さ h を一定にして、水平方向に偏微分 してみる。  d  ABC j  d } U ( w1) ( P )  j w ( ){  w 1  0 0 cos  cos w1  x x 1 1 j w1   { w1 ( )    w1 ( )}              cos  x w  1 cos  x ' d k  ' d }            k w ( ){ w 1  0 0 cos  cos w1  x 1 1 k w1  '  ' ( )} ) { w1 (              w 1 cos  ' x w  1 cos  ' x

1 1 h w1   ' ( )} { w1 ( )  w 1 cos  ' x w  1 cos  x   d d      (sin C ) j w {  0 cos w1  } 0 cos w 1  1   {| AP |w1 ( ) | CP |w1 ( )}            w 1 x x ' '  d d }       (sin B )k w {  0 cos w 1  0 cos w 1  1  '  ' {| AP |w1 ( )  | BP |w1 ( )}            w 1 x x 1   ' {| CP |w1 ( )  | BP |w1 ( )}           x x w 1   d d  (sin C ) j w {  }   0 cos w 1  0 cos w 1  ' ' d d  (sin B )k w {  }    1 w  0 cos  0 cos w1            

となる。 上式は∠B と∠C に関して対称になっているから、∠B=∠C である二等辺三角形の場合 には、常に対称軸上でゼロとなり、最小値は対称軸上にあることが分かる。 また、一般に、w ( = α - 1 )> 1 と仮定しているから、点 P が辺 AB の近くにあ るときは垂線の長さ k がゼロに近い値だから上式の符号は負であり、点 P が水平に辺 AC の方向へ進むと単調に増大し(2次の偏微分が常に正となる)、辺 AC に近づくと垂線の長 さ j がゼロに近い値になって行くから、上式の符号は正となっている。実は、上の議論で

55

は、点 P が辺 AB あるいは BC にかぎりなく近づくとき、垂線の長さはゼロに近づくこと だけを根拠にして判断しているが、このとき同時に、積分値が限りなく大きくなっていく から、それらの積は必ずしも小さくはならないという疑問や批判がありうるであろう。し かし、頂点 A と底辺 BC との中間部分の高さで偏微分する場合には、上に述べた推論は基 本的に正しいものとなる。その状況を我々は α = 4 の場合(重心の場合)について具体的 に計算で示す。また、第 6 節では、一般のαについて、積分の値を有限級数の形で explicit に表現する。 さらに、我々が実行したεカットオフの効果を考慮すると、三角形の頂点や辺のε近傍 においては、カットオフ効果が現れて、ポテンシャルの値は三角形の内側に向かっていっ そう減少する。「積分値が有限の値に収束しているにもかかわらず、εカットオフを実行す る」ということの「現実的な効果」がこんなところにも効いているのである。 以上のことをまとめると、次のようになる。

命題3.1 ル

実数 α = w + 1 が2以上のときは、三角形 ABC の w + 1 次εポテンシャ

UABC(w+1)(P;ε)

を、底辺 BC からの高さ h を一定にして、水平方向に辺 AB から辺

AC の方向に向かって偏微分すると、三角形 ABC のε内包の上では、    ABC d d  } U ( w1) ( P;  )  (sin C ) j w { w 1  0 0 x cos  cos w1  ' ' d d            (sin B )k w {  0 cos w1  } 0 cos w 1 

となる。 従って、このポテンシャル関数のグラフ曲面を三角形 ABC のいずれかの辺に平行な垂直 平面で切断すると、α = w + 1 が2のときは、3辺のイプシロン近傍以外は定数関数とな り、α = w + 1 が2より大きいときは、必ず三角形の中央部に唯一つの最小点が存在する、 下に凸の曲線が現れる。 それでは、その最小点の位置を具体的に計算してみよう。上式に具体的にα = w + 1 = 4 を代入して、積分を計算する。

d t3 2  ( 1  )   (t = tanθ) だから、 t dt t  cos4   3 UABC(4)(P) = -(sin C)j3{tanα+ (tan3α)/3} + (sin B)k3{tanβ+( tan3β)/3} となる。ただし、ここでは、このポテンシャルの最小点を求めるために必要となるε内包 での計算を示す。 下図のように、点 P が高さ h の位置を底辺 BC に平行に動くとき、辺 AB,垂線 AD, 辺 AC と交わる点をそれぞれ、B1,D1,C1 とする。

56

このとき、 -(sin C)j3{ tanα+ (tan3α)/ 3 + tanβ + ( tan3β)/ 3 } + (sin B)k3{ tanα+ (tan3α)/ 3 + tanβ + ( tan3β)/ 3 } = -(sin C){ j2|AJ|+|AJ|3/ 3 + j2|JC|+|JC|3/ 3 +(sin B){k2|AK|+|AK|3/ 3 + k2|BK|+|BK|3/ 3 ここで上式に相似比 |AD1| / |AD| = |D1C1| / |DC| = |B1D1| / |BD| = μ を代入して 計算すると、上式は、

1 )[{ | AD |  | PC1 | sin C cos C}3 2 3 sin C                 {(1   ) | AD |  | PC1 | sin C cos C}3 ]

  | AD || PC1 |2 sin 2 C  (

1 )[{ | AD |  | B1 P | sin B cos B}3 3 sin 2 B                 {(1   ) | AD |  | B1 P | sin B cos B}3 ]

    | AD || B1 P |2 sin 2 B  (

  | AD | {| PC1 |2  | B1 P |2 } | AD |2 {(1  3  3 2 ) | AD | 3(1  2  ) | PC1 | sin C cos C} 2 3 sin C | AD |2     {(1  3  3 2 ) | AD | 3(1  2  ) | B1 P | sin B cos B} 2 3 sin B

   

ここで、|B1P| = ρ|B1C1| =ρμ|BC| と置くと、|PC1| = (1 – ρ) |B1C1|= (1 – ρ)μ|BC| となり、また、0 < ρ < 1 のとき、そのときに限り、点 P は⊿ABC 内に ある。これらを上の水平方向の偏微分の式に代入して整理すると、

U ( 4 )

1 1 | AD |3 {(   ) cot 2 C  {(1   )   } cot 2 B  (1  2  )  (cot C )(cot B )} x 3 3

となる。従って、∠B = ∠C であれば μ の値の如何にかかわらず、ρ = 1 / 2 が水平方 向の偏微分のゼロ点であることが再確認できる。また、μ = 2 / 3 のときは、∠B と ∠C の

57

大小関係の如何にかかわらず、ρ = 1 / 2 がゼロ点であることが分かる。これが⊿ABC の

重心である。 このゼロ点が⊿ABC の外に出てしまうのは ρ < 0 および 1 < ρ のときで、ρ = 0 および 1 = ρ のときに三角形の周上にある。 上式で ρ = 0 と置くと、μ(cot B) = (cot B – cot C) / 3 となり、 ∠B < ∠C の場合には、 ∠C < π / 2 なら μ= (cot B – cot C) / 3 cot B < 1 / 3 ∠C = π / 2 なら μ=

1/3

∠C > π / 2 なら 1 / 3 < μ = (cot B + |cot C|) / 3 cot B < 2 / 3 また、ρ = 1 と置くと、μ(cot C) = (cot C – cot B) / 3 となり、 ∠B < ∠C の場合には、 ∠C ≦ π / 2 なら解なし。 ∠C > π / 2 なら μ= (cot B + |cot C|) / 3|cot C| > 2 / 3 となる。以上を図示すると、下のようになる。赤い矢印は、水平方向偏微分がゼロになる 点から出る最大傾斜方向ベクトルを表す。

以上の計算ではεカットオフの効果を無視した通常のポテンシャルについて計算してき たが、我々の場合にはカットオフ効果によって、水平偏微分のゼロ点が三角形の外部に出 てしまう領域はずっと減少する。 ★重心の新しい「社会的」意味づけ イギリスでは、青少年の耳には非常に嫌な音に聞こえるが、中高年の人の耳には聞こえ ない音波を発する機械が発明されて、夜の公園で「騒音」を発して騒ぎ立てる若者たちを 締め出すために利用されて、物議を醸した。「青少年に対して」というのは、いろいろ議論 が分かれると思うので、以下では、 「人間に有害な微生物に対して」という風に問題設定を 変更して考えてみよう。 [三角形の公園で、有害微生物の発生を出来るだけ抑制する問題]人間に有害なある微生

58

物が嫌悪する超音波の波長が発見された。この波長は人間には無害であるとする。この超 音波の発生源の近くでは、この微生物の増殖率は抑制され、超音波の発生源から遠ざかる に従って、その微生物の増殖率は距離の自乗に比例するように増大するという。超音波発 生装置が 1 台だけしか設置できない場合、公園全体での微生物の増殖をできるだけ有効に 抑えるためには、装置はどこに設置したらよいでしょう。

[正解]三角形の重心に置けばよい。

3.4.α < 2 の場合のα次のポテンシャル(上に凸のグラフ曲面) この節では、α < 2 の場合

(ポテンシャルのグラフ曲面が上に凸となる場合)につい

て計算してゆく。ただし、変数名αは三角形の角度にも用いるので、記号の混乱を避ける ため、w = -α > -2 ( w ≠ 0 )を用いて距離の巾(べき)を表すことにする。 まずは、前節のα ≧ 2 の場合と全く同様にして、一般の w

> -2 ( w ≠ 0 )につ

いて、三角形 ABC のポテンシャル関数の値を計算する。ただし、w = 0 の場合には対数関 数が現れるので、基本的には他の場合と同じなのだが、関数名の見かけが若干異なるので、 後で別途、詳しい計算を示す。



  0

j / cos

r  w2 rdrd  



0



j / cos

1 r

1 w



drd   [ 1 / wr w ]j / cos d  0

1   w w w wj





0

cos w d

  ' ' 2 1 1  w { cos w d   cos w d }  { cos w d   cos w d } w w 0 0 0 0 w wj wk  ' 1 w           { cos  d   cos w d } w 0  0 wh

U (  w ) ( P;  ) 

となるから、点辺 BC に平行に水平微分すると、

59

U (  w)

 1 j  1   { cos w d   cos w d }  w {(cos w  ) (cos w  ) } w 1 0 x x 0 x x j wj ' 1 k  ' 1   '     { cos w d   cos w d }  {(cos w  ' ) ' (cos w  ' ) }  w1 w 0 0 x x x k wk 1   '             {(cos w  )   (cos w  ' ) } w x x wh   sin C  1  1      w1 { cos w d   cos w d }  {  } w w 0 0 j w | AP | x w | PC | x ' sin B  ' 1  ' 1  '     w1 { cos w d   cos w d }  {  } w w 0 0 k w | AP | x w | BP | x 1  1  '          {  } w w w | PC | x w | BP | x  '  sin C  sin B  '  w1 { cos w d   cos w d }  w1 { cos w d   cos w d } 0 0 0 0 j k



となる。 上式は∠B と∠C に関して対称になっているから、∠B=∠C である二等辺三角形の場合 には、常に対称軸上でゼロとなり、最大値は対称軸上にあることが分かる。 また、一般に、w = -α > -2 ( w ≠ 0 ) と仮定しているから、点 P が辺 AB の近 くにあるときは垂線の長さ k がゼロに近い値だから上式の符号は正であり、点 P が水平に 辺 AC の方向へ進むと単調に減少し(2次の偏微分が常に負となる) 、辺 AC に近づくと垂 線の長さ j がゼロに近い値になって行くから、上式の符号は負となっている。その状況を 我々は α = 0 の場合(「灯心」の場合)について具体的に計算で示す。 さらに、我々が実行したεカットオフの効果を考慮すると、三角形の頂点や辺のε近傍 においては、カットオフ効果が現れて、ポテンシャルの値は三角形の内側に向かっていっ そう急速に増大する。 以上のことをまとめると、次のようになる。

命題4.1

実数 α = -w < 2 のときは、三角形 ABC の -w 次εポテンシャル

UABC(-w)(P;ε) を、底辺 BC からの高さ h を一定にして、水平方向に辺 AB から辺 AC の 方向に向かって偏微分すると、三角形 ABC のε内包の上では、   ABC  sin C  U (  w) ( P;  )  w1 { cos w d   cos w d } 0 0 x j ' sin B  '               w1 { cos w d   cos w d } 0 0 k

となる。 従って、このポテンシャル関数のグラフ曲面を三角形 ABC のいずれかの辺に平行な垂直

60

平面で切断すると、必ず三角形の中央部に唯一つの最大点が存在する、上に凸の曲線が現 れる。 それでは、その最大点の位置を具体的に計算してみよう。上式に具体的にα = w = 0 を 代入して、積分を計算する。この場合だけが例外的に対数関数が現れるが、グラフ曲面の 様相は他の場合と基本的に同じである。 

 

j / cos 

0



r  2 rdrd  

0



j / cos 

  1 drd   [log r ]j / cos  d   [log( j / cos  )  log  ]d 0 0 r

  1          {log( )  log j  log(cos )}d   log(1 /  )   log j   log(cos  )d



0

0

U ( 0 ) ( P;  )  2 log(1 /  )  (log j )(   )  (log k )( '  ' )  (log h)(   ' ) 



'

'

0

0

0

0

     log(cos )d   log(cos )d   log(cos )d   log(cos ) d 

'

0

0

           log(cos )d   log(cos )d となるから、点辺 BC に平行に水平微分すると、

U ( 0)

1 j 1 k    '  ' {   )  (log j )( { '  ' )  (log k )( }  }  j x k x x x x x x   '    ' }  log(cos  )       (log h)(   log(cos  )  log(cos  ' ) x x x x x  '   '       log(cos  ' )  log(cos  )  log(cos  ' ) x x x sin B  '  sin C  {   )  { '  ' )  log(| AP |)  log(| AP |)     x x j k    '  '  log(| PC |)  log(| PC |)  log(| BP |)  log(| BP |)     x x x x  sin C sin B  {   )  { '  ' )    j k 

この偏微分がゼロとなるのは、頂角 A の2等分線と、頂点 A と対辺 BC の中点を結ぶ線分 の中間であることを我々は第1章において詳細に検討した。 [定理 1.6.1](「灯心定理」)

61

任意の三角形 ⊿ABC において、次の等式を満たす内点 L がひとつ、そしてただ一つ存 在する。点 L と各頂点 A, B, C を結ぶ直線が各対辺 BC, CA, AB と交わる点をそれぞれ X, Y, Z とすると、 ∠ALB /∠ALC = |BX|/|CX|, ∠CLA / ∠CLB = |AZ|/|BZ|. (従ってチェバの定理により、 ∠BLC / ∠BLA = |CY|/|AY| ) が成り立つ。内点 L に街灯を設置すると、三角形 ⊿ABC 全体を最も効果的に明るくする ことができる。内点 L は重心と内心を結ぶ線分の中点の近傍に位置している。

3.5.(-∞)次のポテンシャルを求める極限の計算(内心) 前節の命題4.1で示した

U (  w ) x



 '  sin C  sin B  ' { cos w d   cos w d }  w1 { cos w d   cos w d } w 1 0 0 0 0 j k

について、w が十分大きな値であるとき、この偏微分のゼロ点で成り立っている等式  ' sin C  sin B  ' { cos w d   cos w d }  w1 { cos w d   cos w d } w 1 0 0 0 0 j k

62

について考える。  ' ' j sin B  ( ) w1  { cos w d   cos w d } /{ cos w d   cos w d } 0 0 0 k sin C 0 j 1 sin B  log( )  [{log( ) k w 1 sin C 



'

'

0

0

0

0

         log{ cos w d   cos w d } /{ cos w d   cos w d }] 上式の最後の項が、w には依存しない2つの正の定数 A と B によって下と上から 



'

'

0

0

0

0

0  A  { cos w d   cos w d } /{ cos w d   cos w d }  B のように抑えられるならば、w → ∞ のとき log(j /k) → 0 となり、j/ k → 1 となる。 すなわち、

U (  w ) x

 0 となる点は、各レベル h (0 < h < |AD|) において頂角∠A の二等

分線に限りなく接近してゆくことになって、α次の心の α→ -∞ のときの極限は内心で あることが示される。 < α,β,

さて、α,β,α’,β’ はいずれも直角三角形の1つの内角であるから、0 α’,β’ < π / 2 が成り立っている。また、α+β=∠APC > ∠B,

α’+β’=∠APB >

∠C なので、max{α,β} > ∠B / 2、max{α’,β’} > ∠C / 2 である。これらのことから、



B/2

0

cos w d /{

 /2

0

cos w d  

 /2

0



cos w d }



'

'

    { cos w d   cos w d } /{ cos w d   cos w d } 0

0

      {

 /2

0

0

cos w d  

 /2

0

0

cos w d } / 

C /2

0

cos w d

ここで、m1 = [π / B],m2 = [π / C] とおく。ただし、 […]はガウス記号、すなわち、 … を超えない最大の整数値をあらわす。そうすると、



 /2



 /2

0

0

cos w d  

B/2

cos w d  

C /2

0

0

2B / 2

cos w d  

2C / 2

cos w d  ....  

B/2

B/2

0

cos w d  ....  

 /2

 /2

0

cos w d  

 /2

0

'

B/2

0

cos w d  ( m2  1) 

m 2(C / 2)

cos w d /{



cos w d  ( m1  1) 

m1( B / 2 )

C /2

    1 / 2( m1  1)   

 /2

cos w d  

cos w d

C /2

0

cos w d

cos w d }

'

    { cos w d   cos w d } /{ cos w d   cos w d } 0

0

      {

 /2

0

0

 /2

cos w d  

0

0

cos w d } / 

C /2

0

cos w d  2( m2  1)

ゆえに、w → ∞ のとき log(j /k) → 0 となり、j/ k → 1 となることが証明された。

3.6.(+∞)次のポテンシャル(「外包心」) 命題3.1で得られた w次の心に関する偏微分のゼロ点の判定式を w → +∞ として

63

ゆくと、どうなるだろうか。「街灯」問題の用語で言うと、光源の点Pからの距離rが少し でも大きくなれば、積分に関する寄与が極端に増大するから、そのポテンシャル関数を最 小とする点Pは、最大距離までの点を最小にする点である。これは、とりもなおさず、 mini-max 問題として考えた「街灯」問題の解答そのものである。すなわち、鋭角三角形で は外心、鈍角および直角三角形では最大辺の中点が第 1 候補として考えられる (補足2を 参照) 。 一般の三角形の場合には計算が難しいので、まず 2 等辺三角形の場合について計算して みる。 第 3 節の冒頭で求めた正の次数のポテンシャル(w ≧ 1) UABC(w+1)(P) =  ' j w1  d d k w1  ' d d { } { }    w 1 w 1 w 1    0 0 0 0 w 1 cos  cos  w 1 cos  cos w1  ' h w1  d d 2 w1 { }            w  1 0 cos w1  0 cos w1  w 1

は、三角形 ABC が AM を対称軸とする 2 等辺三角形のときは  2 j w1  d d 2h w1  d 2 w1 {  }   w  1 0 cos w1  0 cos w1  w  1 0 cos w1  w 1

となるので、対称軸 AM を y 軸として、これに沿った垂直方向の偏微分は、

U ( w1) y  2 jw(   

 2 j w1 1 1 dj  d d d d   ){ } {( w1 )( )  ( w1 )( )} w  w  1 1  cos  dy dy 0 cos  0 cos  w  1 cos  dy

 2h w     



0

2h w1 1 d d  ( w1 )( ) w1 cos  w  1 cos  dy

w1  j 2 dj  j w1d 2 d d  ( ){  } | BP |w1 ( )    w  w  1 1  j dy 0 cos  0 cos  w 1 dy

    

2  h w1d 2 d  (| BP |w1 )( ) w  1  h 0 cos  w  1 dy

 j w1d 2 dj  j w1d 2  h w1d  ( ){   }    j dy 0 cos w1  0 cos w1  h 0 cos w1 

となる。そこで、nを十分大きな自然数として、積分の漸化式を求める。 t = tanθ と置くと、

dt 1   1  t 2 だから、 2 d cos 

64





0

tan  tan  d   (1  t 2 ) n 1 dt   (1  t 2 ) n (1  t 2 )dt 2n4 0  0 cos

    

tan 

    

tan 

0

0

(1  t 2 ) n dt  

tan 

0

(1  t 2 ) n dt  [

(1  t 2 ) n t 2 dt

2 n 1 tan  (1  t ) (1  t 2 ) n 1 t tan  ( )]0   dt 0 n 1 2 2( n  1)

tan  tan  1 (tan  )(1  tan 2  ) n 1 )  (1  t 2 ) n 1 dt    (1  t 2 ) n dt 0 2n  2 0 2( n  1)  d tan  1 n 1 2n  2  d 0 cos2n4   2n  3 ( cos2  )  2n  3 0 cos2n2 

(1   



1  j 2 n 2 d j 0 cos 2 n 2 

    j (tan  ){

1 j 2n ( 2n ) j 2 j 2 n 2 ( 2n )( 2n  2)....2 j 2 n1 ( )  ( )  ....  2n  1 cos  ( 2n  1)( 2n  1) cos  ( 2n  1)( 2n  1)....3

これを、上で求めた垂直方向偏微分の計算式に代入すると、

U ( 2 w2 ) y (cos B ) | AK | 2w ( 2 w)...・4・2 2 w j ] [|| AP |2 w  | AP |2 w2 j 2  ....  2w  1 2w  1 ( 2 w  1)...・3・1 (cos B ) | KB | 2w ( 2 w)...・4・2 2 w     2 j ] [|| BP |2 w  | BP |2 w2 j 2  ....  2w  1 2w  1 ( 2 w  1)...・3・1 | BM | 2w ( 2 w)...・4・2 2 w     2 [|| BP |2 w  | BP |2 w2 h 2  ....  h ] 2w  1 2w  1 ( 2 w  1)...・3・1     2

となる。従って、 (1) 内心では h = j だから、|AP| と |BP| の大小関係によって上式の正負が決まり、 ∠B > π/3 なら負、∠B < π/3 なら正である。 (2) 鋭角三角形の場合、外心では |AP| = |BP| だから、h と j の大小関係によって 上式の正負が決まり、∠B > π/3 なら正、∠B < π/3 なら負である。 また、鈍角および直角三角形の場合には、点 P が最大辺の中点のときは h = 0 で、 第1式と第 2 式の級数の和の絶対値は第 3 式より大きいことが簡単に示せるから、 上式は負となる。 (3) 上の(1) (2)より、(2w+2) 次のポテンシャルが最小となる点は、三角形の内心 と「街灯」問題の mini-max 解(鋭角三角形では外心、鈍角および直角三角形では 最大辺の中点)の中間にあることが分かった。 (4) さらに、上で求めた垂直方向の偏微分の式の重心での値を計算してみると、 w = 1 のときは第 3 節で計算したように 0 となる。

65

w = 2 のときは、- (36 / 5)(cotB)h5(1 – 3cot2B) となって、これは、∠B > π/3 な ら負、∠B < π/3 なら正であり、内心の場合と同じ符合となる。 ある w ≧ 2 に対して垂直方向の偏微分の値が重心において - (1 – 3cot2B)Q(2w)h2w-1 ( Q(2w) > 0 for B ε (0, π/2) ) と表されたとすると、w+1 に対しても、

U ( 2 w 22 ) y  2[      2[  

(G )

(cos B ) | AK | j 2 ( 2W  2) j 2 w 2 ( 2 w  2)...2 {| AP |2 w 2  | AP |2 w ....  } ( 2 w  3) ( 2 w  1) ( 2 w  1)....3

(cos B ) | BK | j 2 ( 2W  2) j 2 w2 ( 2 w  2)...2 {| BP |2 w2  | BP |2 w ....  }] ( 2 w  3) ( 2 w  1) ( 2 w  1)....3

| BM | h 2 ( 2W  2) h 2 w 2 ( 2 w  2)...2 {| BP |2 w 2  | BP |2 w ....  }] ( 2 w  3) ( 2 w  1) ( 2 w  1)....3

j 2 ( 2 w  2) (1  3 cot 2 B ) B( 2 w ) h 2 w1 ( 2 w  3) (cos B ) | AK | {| BP |2 w 2  | AP |2 w2 }  2[    ( 2 w  3)



| BM | | BP |2 w ( 2 w)....2  ( h  j )( 2 w  2)  ....  { h 2 w }]      ( 2 w  3) 2 w  1 ( 2 w  1)....3・1 2

2

j 2 ( 2 w  2)  (1  3 cot 2 B ) B( 2 w ) h 2 w1 ( 2 w  3) (cos B ) | AK |  2[ 3(1  3 cot 2 B )h 2 {| BP |2 w  | BP |2 w2 | AP |2 .... | AP |2 w }    ( 2 w  3)  (sin 2 B )(1  3 cot 2 B )h 2 ( 2 w  2)   

| BM | | BP |2 w ( 2 w)....2 {  ....  h 2 w }] ( 2 w  3) 2 w  1 ( 2 w  1)....3・1

 (1  3 cot 2 B ) B( 2 w 2 ) h 2 w1 となるから、(2w+2) 次のポテンシャルの垂直方向偏微分の重心における符号も∠B > π/3 なら負、∠B < π/3 なら正であり、内心の場合と同じ符合となる。 以上により、(2w+2) 次のポテンシャルが最小となる点は、三角形の重心と「街灯」問題 の mini-max 解(鋭角三角形では外心、鈍角および直角三角形では最大辺の中点)の中間に あることが分かった。

66

上で計算した

U ( 2 n 2 ) y

の値の正負は、外心(鋭角三角形の場合)あるいは最大辺の中点

(鈍角および直角三角形の場合)の上では、いずれも重心における正負と反対になってい る。すなわち、遠心はこれら mini-max 解まで到達していない事が分かる。しかし、n → ∞ としてゆくとき、遠心が mini-max 解に限りなく近づいてゆくかどうかは、未だ分かっ ていない。 (5) そこで、

U ( 2 n ) y

=0 の解を与える点を Pn として、このときの h の値を hn、また

|APn| = λnhn とする。∠B > π / 3 ならば 1 <

1  cot 2 B < λn < 2 であり、 1  cot 2 B U ( 2 n 2 )

∠B < π / 3 ならば 2 < λn である。この点 Pn における

y

の値を計算し

てみると、

U ( 2 n 2 ) ( Pn ) y (cos B ) | AK | j 2 ( 2n ) j 2 n ( 2n )....2 2n 2 n 2 {| AP |  | AP | }  2[ ....  2n  1 2n  1 ( 2n  1)....3 (cos B ) | BK | j 2 ( 2n ) j 2 n ( 2n )....2 2n 2 n 2    {| BP |  | BP | }  ....  2n  1 2n  1 ( 2n  1)....3 | BM | h 2 ( 2n ) h 2 n ( 2n )....2 2n 2 n 2   {| BP |  | BP | }  2[ ....  2n  1 2n  1 ( 2n  1)....3

67

2 n 2

j j ( 2n ) (cos B ) | AK n | ( 2n  2)....2 )[ {| APn |2 n 2 ....  n }  2 ( n 2n  1 2n  1 ( 2n  3)....3 2

2 n 2

j (cos B ) | K n B | ( 2n  2)....2       {| BPn |2 n 2 ....  n }]  2n  1 ( 2n  3)....3 2 n 2

h jn ( 2n ) | BM | ( 2n  2)....2 )[ {| BPn |2 n 2 ....  n }] 2n  1 2n  1 ( 2n  3)....3 (cos B ) | AK n |    (| BPn |2 n  | APn |2 n )  2[ 2n  1 | BPn |2 n 2 ( 2n ) h 2 n 1 ( 2n )....2 | BM | 2           ( h  j 2 ){ }]   ....  2n  1 2n  1 ( 2n  1)....1 2

    2(

2

jn ( 2n ) ){0} 2n  1 (cos B ) | AK n | (| BPn |2  | APn |2 )(| BPn |2 n 2  | BPn |2 n 4 | APn |2 .... | APn |2 n 2 )  2[ 2n  1 2 | BM | 2 ( 2n ) | BP |2 n 2 ( 2n )( 2n  2) | BPn |2 n 4 hn 2 ( hn  jn ){  2[   .... 2n  1 2n  1 ( 2n  1)( 2n  3) ( 2n )( 2n  2)...2 2 n 2                       ...  hn }] ( 2n  1)( 2n  3)...3  2(

ここで、

(cos B ) | AK n | (| BPn |2  | APn |2 )  (sin B )(cos B )n (

n  1  1 3 ){1  ( n ) cot 2 B )}hn , n  1 n  1

2n 2n 2 3 (n  1){1  (n  1)) cot 2 B )}hn ,  (sin B )(cos B ) 2n  1 2n  1 ( 2n  2)....( 2n  2i ) 2i 2i 2i | BPn |2 n 2i | APn |2i  n | BPn |2 n 2i hn  | BPn |2 n 2i hn ( 2n  3)...( 2n  2i  1)

| BM | ( hn  jn ) 2

2

だから、∠B > π / 3 ならば G < P4 ∠B > π / 4 ならば G > P4 > P6 > ….. > O π / 4 > ∠B ならば G > P4 > P6 > ….. > M となる。

3.7.まとめと展望 我々は PISA「街灯」問題の模範解答の誤りを正すところから出発した。そして、 「街 灯」問題を「光のエネルギーの浪費を最小にする」という観点から捉えなおして、積分

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値を最小にする点として「灯心」の位置を求めた。 さらにそれを、今井淳氏(首都大学・東京)の研究に啓発されて、距離rPQ のα乗に 関するポテンシャル関数の最小(最大)問題と捉えなおし、α≦0 の領域も考察の対象に 取り込むためにεカットオフの手法をαが正負の全領域に渡って実行し、宇宙の果てまで 無限に伸びる数直線全体を小さな任意の三角形の中心部分に解析的に埋め込むことに成功 した。この数学的成果は、森や林や山河渓谷の雄大な自然を 1 杯の盆に取り込む盆栽や箱 庭の精神に通ずる。「小さきものを愛(め)でる」のはわが国の伝統的な美の心である。 我々は、最初に発見した「灯心」が重心と内心の間に位置することを示すために、三角 形の線分の二等分線と頂角の二等分線の間にあることを初等幾何的に示すための努力を行 った[1]。しかし、今となって見れば、これは α=0 次の心(灯心)がα=4 次の心(重 心)とα=-∞ 次の心(内心)の間にある、ということに過ぎない。 そして最後に、α=+∞ 次の心(「遠心」)について考察したところ、なんと、議論は巡 りめぐって振り出しの、mini-max 問題としての「街灯問題」に帰り着いてしまった。この mini-max 解は遠心の上界ではあるが、上限であるかどうかは未解決である。しかし、とも かく、輪廻転生のごとき結果となったのである。 同僚の山田直記氏(福岡大学)から、今回の考察を 3 次元にして、四面体について同様 の結果を示したら興味深いのではないか、というコメントを頂いた。たしかに、今回の考 察を一般化して、m 次元空間の一般の位置にある m+1 個の点が張る最小凸包体(m 次元単 体)についてのα次εポテンシャルの最小(最大)点を求める問題を考察するのは、たい へん興味のある問題である。そして特に、3 次元空間におけるこの問題は、我々の日常的な 社会生活に直接に関連する多くの最小(最大)問題の理論的解決を与えるだろう。21世 紀に入り、地球の限られた資源をいかに無駄を少なくして利用するか、という問題が多く の場面に現れてきている今日、我々がここに提起した考察は極めて実用的な意味を持つ問 題と考えられるのである。 我々は、PISA の「数学リテラシー」の模範例題である「街灯」問題から出発して、健全 なる学問精神を持ってこのような社会的な問題を「数学化」すると、どのような発展があ り得るのか、というひとつの Alternative を構成して見せた。もとよりこれは、あり得る多 くの Alternatives のひとつに過ぎないが、PISA を主催する人々の数学や科学の研究・教育 に関する思考や方法論とはいかに異なった立場があり得るかを理解していただくには十分 であろうと考える。

3.8.演習問題 (1) α次のポテンシャルを次の平面図形について計算せよ。 (i) 平行四辺形

(ii) 卵形曲線に囲まれた領域

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(2)三角形について、次のポテンシャル関数の様相を調べよ。 (i) 対数ポテンシャル log(1 / r) (ii)

湯川ポテンシャル re-λr

(3)α → 2 のとき、三角形のα次の心はどこに収束するか調べよ。予想としては、対 数ポテンシャルと同じ地点を心(最大・最小点)とするであろう。 (4)三角形は、代数的位相幾何学で言えば「2次元単体」である。それなら、 「3次元単 体」である四面体についても本論考と同様の理論が作れるであろう。四面体について、α 次のεポテンシャルを計算して、その最小・最大点の幾何学的な特徴づけを与えよ。例え ば、 「重心」や「灯心」の意味は物理的に明らかである。 「内心」は内接球の中心であり、 「外 心」は外接球の中心である。積分計算は、本論考で用いた極座標による方法をそのまま3 次元的に置き換えればよい。3 次元空間における計算には、物理学で、モーメントなどを計 算する際に重要になる「中心角」の概念が重要になるだろう。

【参考文献】 [1]二宮信幸, ポテンシャル論, 共立講座“現代の数学”21, 昭和 44 年 [2] K. Shibata; Objection to the Programme for International Student Assessment (PISA), (volume 4) Where should a streetlight be placed in a triangular-shaped park?, http://www1.rsp.fukuoka-u.ac.jp/kototoi/igi-ari-4_J2_E.pdf

第4章

結語

もっと、光を! 分裂を修復するために、 世に光、満ちよ、 天に、地に!

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補足1.灯心はいかにして発見されたか? 前節「街灯は公園のどこに設置すべきか(新たな対称中心の発見) 」について、広島大学 の松本眞さん(計算機数学・暗号理論)から、「ざっと眺めたのですが、非常に意外です。 ちゃんと計算できて、ユークリッド的に記述できるのも意外ですし、その記述の結果が「角 と長さの比」という余り見たことのないものであらわされるのはちょっとにわかには信じ られません。 」というお便りを頂きました。確かに、ユークリッド幾何学で良く知られてい る「内心」や「重心」ではなく、まったく新しい「灯心」が出てきたことは意外でした。 また、ユークリッド幾何学では角の2等分、3等分という話は出てくるので、角の整数比 の話はありますが、灯心を決定する条件の中に現れるような角の大きさの、一般の実数比 というのは、実数値の連続的な変化を研究する微分積分学の計算の結果であることを示し ていると思います。 また、「子どもの脳と仮想世界」(岩波書店)の著者である戸塚滝登さんからも、 「本当に 久しぶりに大学の数学研究室のセミナーに参加した気分で、先生 から頂いた証明を(やっ とのことで何とか)フォローできました!

返事に時間がとてもかかってしまいましたが、

これはぼくの頭がすっかり錆びついてしまったせいです。お許しください。(ただ、あまり にも 直観に反する解なのでとまどってしまったのが本音です。どこかに gap でもあるので はと慎重に読み進みました) あえて物理数学で使う数学範囲に限定して証明を構成してくださった配慮に感謝いたし ます。これなら物理学科の学生たちにも理解できるので はと思いました。」というメール を頂きました。 「gap が無いかどうか」まで丁寧にチェックして頂き、有り難うございました。戸塚さん の御著書の背表紙ウラに印刷されている略歴を拝見すると、「富山大学理学部物理学科卒」 とあります。物理学科のご出身なのですね。私の用いた証明では、理工系学部の1,2年 生向けの教養数学(基礎数学)としての微分積分以上のレベルのことはまったく使ってい ませんから、学生時代に授業で習った微積分のいくつかの定理を思い出していただければ、 十分フォローしていただけると思います。とは言え、そういう基礎的で単純なレベルの事 項を何段階にも渡って複雑に組み合わせてゆくので、これを全部フォローして頂くには相 当の時間とエネルギーがかかったと思うので、本当に有り難うございました。 私は10月11日から13日までの連休を利用して白内障の手術をしたのですが、その 前に同僚の田中尚人さん(微分方程式論)に、私の「灯心」計算のチェックをお願いしま した。毎年の大学入試問題の作成作業を通して、田中さんが三角関数や対数関数の微分積 分にめっぽう強い人であることを実感していたので、もしも私の計算の考え方や計算結果 にミスがあれば、田中さんならすぐに発見してくれるだろうと思ったからです。連休明け に、田中さんに私の手術が順調に済んだことを報告したら、「先生の計算はキッチリ出来て

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います。計算のテクニックに多少の改良の余地はありますが。」とお墨付きを頂いたので、 大いに安心しました。 カリフォルニア大学の小林昭七先生(微分幾何学)にも私のパワーポイント原稿のプリ ントアウトを見て頂いたのですが、 「c / r 2 で出てくる『明るさ』c の物理的実体は何ですか? エネルギーですか?

そうすると c / r 2 の物理的単位は何になるのでしょう?」という質問

を受けました。なるほど、これは数学計算を開始する以前の、私の数学化 (mathemaization) の物理学的意味づけを問う根本的な質問です。各点における『明るさ』とは何か、そして、 『明るさ』を足し合わせる(積分する)とは、どのような物理的操作をしていることにな るのか? 私も、余り深く考えずに計算を開始してしまったのですが、実は、この疑問は常にかす かに抱き続けていたので、小林先生にハッキリ質問されて、ドキリとすると同時に、よし っ、この機会にちゃんと考えてみよう、という気になりました。そこで、湯川秀樹が解説 しているニュートンの「プリンピキア」流に、と言うか、古代ギリシャのデモクリトスの 原子論風に、と言うか、はたまたアインシュタインの光量子風に、というか、それら全て を念頭に置いて、私流に解説してみます。 光源の中心 P から一定時間内に一定量の光の量子があらゆる方向に向かって放出され ているとして、その光量子の個数を n0 (個 / 秒)とします。1個の光量子が担っている光 のエネルギーを e0(ジュール / 個)とします。従って、この光源からは n0・e0 (ジュー ル / 秒)のエネルギーが放射されています。日常的に電灯の明るさを表す際に用いられる 単位の「ワット」というのがまさに「ジュール / 秒」のことです。物理的単位が(エネル ギー / 時間)となっているので、この電球を数時間、あるいは数秒間点灯して使用すると、 数キロワットアワーとか数ジュールの電力エネルギーが消費されることになります。 さて、この光源を中心とする半径 r の球面を考えます。さらに、その外側に半径 (r + Δ r) の球面を考えて、2つの球面の間に挟まれた領域を考えます。ちょうど地球の地核(マ ントル)みたいな感じの部分です。街灯から放出された多数の光量子が、この中間領域に 突入し、そして宇宙の彼方へ飛び去ってゆきます。

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ある瞬間に、この中間領域を飛行している光量子の総数を数えます。「光速で飛行してい る光の粒子なんか数えられる筈がない」と言われるかもしれませんが、実は、数えなくて も答は計算で出せるのです。いま、まさに半径 (r + Δr) の球面から飛び出そうとしている 光量子と、いま半径 r の球面に飛び込んだ瞬間の光量子には、わずかな年齢差があります。 つまり、内側の球面から飛び込もうとしている粒子は、街灯から放出された時刻が、わず かに遅いのです(つまり、若い光量子ということになります)。この若い光量子が幅 Δr の マントルを横切って外に飛び出すまでに Δr (m) / (光速度 c~ (m / sec)) (秒)だけ掛かりま す。いままさにマントルの外に飛び出そうとしている光粒子は、若い光粒子よりもこれだ けの時間だけ、早く街灯から飛び出して来たわけです。つまり、この時間間隔の間に街灯 から放出された光量子の全体が、このマントル内に現在存在している光量子です。その個 数は、 n0 (個 / 秒)・Δr (m) / (光速度 c~ (m / sec))(個) です。ところで、幅 Δr のマントルの体積は 4πr 2・Δr (m3)ですから、このマントル内 の光量子の密度は n0・Δr / (c~・4πr 2・Δr) = n0 (個 / 秒)/ 4πc~r 2 (m3 / 秒) = n0 / 4πc~r 2 (個 / m3) であり、これを光エネルギーの密度に換算すれば n0・e0 / 4πc~r 2 (ジュール / m3) となります。この「光エネルギーの密度」が、このマントル内の各点の「明るさ」の物理 的実体です。つまり、同じ量の光エネルギーであっても、ギューッと小さな体積の中に押 し込められていれば「明るい」し、広い体積の中に拡散してしまえば「薄暗く」なってし まうのです。 このように、「明るさ」の正体は「光エネルギーの密度」ですが、それならなぜ明るさは

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光源からの距離 r の3乗(体積)ではなく2乗(面積)に反比例するのか、また、光源か らのエネルギー供給量は n0・e0 (ジュール / 時間) と時間の次元が含まれているのに、明 るさはなぜ時間によらず一定なのか、という点が不思議でした。小林昭七先生からもこの 点を突かれ、「物理の次元解析が合っていませんよ。」と言われました。今回、上のように 初めてまじめに考察してみて、その次元のギャップを埋めるのが光速度 c~ (m / sec) とい う因子の介在に因ることを発見しました。私が「灯心の発見」で用いた「光源中心から距 離 r の点における明るさ」の定義は「c / r2」でしたか、この、距離 r によらない正の定数 c の正体は c = n0・e0 / 4πc~ のように、光速度 c~ (m / sec) を分母に含んでいるので、c の 物理的次元が (ジュール / m) となっていたのでした。 「灯心の発見」において、私が用いた「各点の明るさを積分する」という操作を今回の 光量子説で考えてみると、まず、十分小さな任意の正の数δを選んで固定し、三角形 ABC に高さδの厚みを付けます。つまり、ショートケーキのような三角柱を考えるわけです。 そして、各点 Q を含む微小な面積 dS の領域を底面として高さが微小なδの微小な立体の 中に含まれる光量子の個数を数えて、その個数を三角形全体で足し合わせることをやって いたのです。つまり、「明るさを足し合わせる(積分する)」とは、本質的に、光量子の個 数を数え上げる、ということだったのです。そして、その個数を数え上げたら、その領域 の体積で割って密度を求めるわけなので、分子にある光量子の個数も、分母にある領域の 体積も、任意に選んで固定した微小な数δを因子に含むから、それらを約分するとδは消 えてしまい、δの選び方によらず同一の結果が得られることが分かります。つまり、三角 形の厚みは考えなくとも良く、平面的に考えることが出来たのでした。 (1) この連載の第9回で「街灯」問題を解説して、私は「正解は内心ですが、きちんと証明 するには大学の教養課程で学習する微積分の知識が必要です。」と書きました。その時点で 私は、公園全体を出来るだけ明るくするには、公園内部に明るい部分を出来るだけ増やす こと、それを数学的に表現する(mathematize)には、光源から距離 r だけ離れた点におけ る明るさ c / r2 を公園(三角形)全体で足し合わせる(積分する)、そのようにして得られ た値が光源を移動させるとどのように増減するかを調べる(微分する)、ということが解法 の基本方針であり、その結果、「内心」が最大値を与えるだろう、という予想を持っていま したが、公務および私事多忙のため具体的な計算に取りかかる余裕がありませんでした。 (2) 5月になってから、ほぼ毎朝5時半に起床して、7時15分にNHKラジオ・ハングル 講座が始まる迄の間、「街灯」問題に取り組み始めました。 まず最初に出遇った困難は、c / r2 を三角形全体で積分しようとしても、光源(r = 0 の 点)で無限大に発散してしまうことでした。このような、積分が無限大に発散する困難は

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理論物理学ではしばしば起きるようです。それを巧妙に回避する方法が、問題ごとにいろ いろ考案されています。朝永振一郎の「繰り込み理論」などが有名です(ノーベル物理学 賞受賞)。「街灯」問題では、積分してゆくと出てくる無限大ではなく、初めから、積分し ようとする関数が無限大になる点が存在する( r = 0 ) という問題ですから、もっとずっと単 純な問題ではあります。 「街灯」の問題で私の指針となったのは、この連載シリーズの第1 5回で紹介した湯川秀樹のニュートン力学に対する解説です。 「現代の物理学の教科書で体 積がゼロの点(質点)に質量があるように定義してあるのは、ある意味ではおかしい。ニ ュートンでは質点ではなく微小な大きさの粒子を考えている」という主張です。同様に考 えれば、光源が大きさのない1点である、というのもおかしい。どんな小さな豆電球でも 大きさはある。その(公園の大きさに比較すれば)微少な電球の半径をε> 0 として、我々 は電球の外部の明るさを合計する、と考えた方が物理的に自然なのではないか、と考えた わけです。そして、 「光源からの距離 r」とは、厳密に言い直せば「光源の中心からの距離 」 と考えるわけです。このように考えると、3次元空間内の z = c / r2 のグラフ曲面で、無限 に高く伸びてゆく r = 0 の近傍を、半径がεになる部分でバッサリ切ってしまうことにな りますが、そんなことをしてもいいのだろうか、という不安はやはりありました。ちょう ど、円周率π= 3.14159265318979323846.... と無限に続いているのを、3.14 とか、ひどい 場合には単に 3 にしてしまうような、粗っぽい近似をすることになって、本質的な部分を 切り捨てることにならないか、という不安です。 しかし、実際に計算を始めて見ると、実は全く逆でした。無限に伸びる部分をバッサリ 切り捨てることによって本質が見えるようになったのです。いったん任意のε> 0 を固定し て点Pに光源を置いた時の公園全体の明るさ E(P;ε) を計算し、3次元空間内のグラフ曲 面 z =

E(P;ε) を考えると、その曲面の形は εの選び方には全く関係しないのです。ε

を別の ε' に取り替えると、あたかもこの曲面をエレベータに乗せて上下に運ぶように、 この曲面を保存したまま、水平面からの高さが変わるだけなのです。この曲面の水平面か らの高さが - (log ε)であり、εを別の ε' に取り替えると、高さが - (log ε') に変わ ります。そして、εを 0 に近づけてゆくと、曲面は無限に高い天の上に上昇してゆき、地 上の我々の目には見えなくなってしまいます。従って、各点の照明効率を表すこの曲面の 形は、何でもいいからεをひとつ選んで、各点Pに光源を置いた時の明るさのグラフ曲面 z = c / r2 の無限に高く伸びる部分をε半径でバッサリ切り捨てることによって始めて姿を現 す、εの選び方には全く関係しない三角形固有の曲面であることが分かりました。 (3) さて、このように、光源のε近傍を除いて積分すればよいことが分かったのですが、具 体的に三角形の上で積分するにはどうすればよいでしょうか?

これもまた、なかなか難

しいところですが、デカルトの「方法叙説」の基本原理である「困難は分割せよ」を採用 することにしました。デカルトの原理は時間的、空間的な意味づけが考えられます。解決

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が困難な一つの問題を、より簡単そうに見えるいくつかの複数のステップに分割すること、 あるいは、全体的に見ていると解決困難な問題は空間的に部分部分に分割して個別に解決 し、それからそれらの部分的な解決を全体的な解決に統合してゆくこと、などです。 「街灯」 問題では、三角形全体での積分の仕方が分からないので、6個の部分小三角形に分割して、 各小三角形ごとに積分することにしました。 (4)各小三角形に分割したので、それぞれの三角形ごとに角や辺の大きさを表す変数が 必要になりました。3本の垂線の長さと光源Pを中心角とする6個の角の大きさを変数に 取ることになりました。本当は、光源Pは三角形ABCの内部を移動するので2次元の変 化、すなわち自由度は2なのですが、9個の変数が必要になった、ということは7個も余 分に、本質的でない変数を導入したことになります。私の説明を聞いていた若い助教の松 浦望さんが思わず「9個も変数がいるんですか。」とつぶやいていました。自由度は2だか ら、これら9個の変数の間には相互の関係式があり、それを用いて変数の数を2個に減ら すことが原理的に可能です。多くの余分な変数を導入することは事態を複雑に表現するよ うにも見えますが、実際には、その逆なのです。いろいろな長さや大きさにそれぞれの変 数名を割り当てることによって、複雑な数式変形の途中の各ステップで、何が起きている のかを幾何学的な意味づけで理解・確認しつつ進んでゆくことができます。 多変数の関数の最大値・最小値(極大値・極小値)を求めるテクニックの一つにラグラ ンジュの未定係数法というのがあります。関数の極値を与える変数の組を求める際に、さ らにもう一つ余分の変数を追加し、新しい方程式をひとつ追加してやることによって、解 決がより簡単になってしまう場合があるのです。「街灯」問題の場合には、「もう一つ」ど ころか余分な変数を7個も追加して解くのです。これもデカルトの「困難は分割せよ」の 教えに合致した、変数の大インフレーションによる負荷分散と言えるでしょう。 (5) さて、そのように分割した1つの部分の直角三角形について積分してゆくと、log (cos θ) を積分することになります。ここまでは数十分の考察で一気にたどり着いたのですが、こ こでいったん頓挫しました。部分積分法やら置換積分法などをいろいろ試みたけれど、積 分を表す関数式が見つかりませんでした。後に、松浦望さんが数式ソフト「Mathematica」 を使って調べて、log (cos x) を複素関数として考えると、それを複素積分した関数は (ix2) / 2 - x log{1 + e2ix}} + x log(cos(x)) + i PolyLog[2, -e2ix] / 2 ただし、PolyLog[n,z] = Σ1 0 の位置に設置された街灯が、地表面を照らす斜め に照らす明るさの総量を最も有効に使う位置を計算してみましょう。この場合には、光源 の真下の位置にある点 P (r = 0) で既に光源の中心から距離 s だけ離れていますから、 我々が前回行った平面的な場合のように無限大という値がまったく出てきません。無限大 にまつわる困難が無いだけ問題として易しいか、というと全く逆です。無限大や無限小に 近づいて行く変数が存在する場合には、符号の判定や線分の比の増減の様子などが簡単に 一目で分かるのですが、全ての変数が有界な領域を動く時には、変化の様子が小幅なので、 なかなか増減の様子の特徴的な傾向が見えてこないのです。 この、高さ s から地表面を斜めに照らす「街灯」問題では、cos2θ を 1 - sin2θ に変 形すると、 「公園の地表面全体の明るさの合計」を計算する積分が (1 - x2 )(-1/2) の形にな って、これは大学の1年生で学習する arcsin(x) (サイン関数の逆関数)になります。こ れが極大値を取る点を探すために偏微分すると元に戻り、 (1 - x2)(-1/2) と、これに合成 関数の微分法で出てくる関数が掛かった形になります。この結果が二等辺三角形の場合に は中心軸に関して対称になっていることは一目で分かるのですが、増減の様子がいまいち スッキリしません。街灯の高さ s の大きさによって、いろいろ面倒なことが(計算の過程 で)起きます。これを基本的に解決した報告が本巻の第2章「内心から出発して重心を目 指す立体灯心の久遠の旅路」です。 【無限遠灯心】 昨年(2008年)12月に阿賀岡芳夫さん(広島大学・幾何学)にお会いしたときに、 「公園の街灯の高さを無限に高くしていくと、灯心はどこに行き着くのでしょうか?」と いう質問を受けました。 「さあ、ちょっと未だそこまでは計算が進んでいないので、...」ということで、お答え することができませんでした。 「うーん、無限に高くしてゆくと、どこにゆきつくのかなあ。知りたいなあ。」と阿賀岡 さん。 そこで、家に帰って考えてみて、次のような予想を立てました。 公園に設置する街灯の高さをどんどん高くして、東京タワーの高さを越えて更にどんどん 高くして、月よりも高くして、銀河系の果てを越えて、宇宙の果てまでどんどん高くして

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ゆくと、公園を照らす光はどうなるでしょうか? 「光、遠方より来る」という状態では、 やってくる光は平行光線に近くなります。そうすると、公園のどの点での明るさもほとん ど同じくらいになってしまいます。我々はもともと各点に「その点の明るさ」という重み を付けて積分したわけですが、その重みが皆ほとんど同一になるということは、単純に三 角形の面積(の正の定数培)を計算している状態に近づいているわけです。そういう状態 であれば、その対称性の中心(バランスの中心)は「重心」ではないだろうか?

と推測

しましたが、いやいや、待てよ。それなら f1(2|AM|/3) + f2(2|AM|/3) の値は s --> ∞ の とき 0 に収束しなければ成りません。前号で計算した結果を見ると、f1(2|AM|/3) + f2(2|AM|/3) は、有理化した分子が s2 の関数で、有理化の分母は s3 の関数ですから、s --> ∞ のとき 0 に収束します。すなわち、私が直感的に予想した通り、高さ s の場合の立体 灯心 L(s) は s --> ∞ のときに重心に収束します。 「無限遠灯心」の正体は「重心」でした。 さて、それでは、地上すれすれの位置から街灯の高さ s をどんどん高くしてゆくと、立 体灯心 L(s) は一路、重心に向かって進んでゆくのでしょうか。これは微分 d(L(s)) / ds を 計算すると分かるはずのことです。実は私はこの 2 週間あまり、睡魔と闘いながら深夜、 あるいは早朝、半狂乱になって、この微分の計算をしまくっているのですが、何回か、「で きたーっ!」と思ったことがあるのですが、よくよく計算を再吟味してみると、いつもど こかで計算ミスや勘違いが見つかり、探偵・金田一耕助のように頭髪をボリボリと掻きむ しって、やれやれ、また最初からやりなおしです。なにしろ三角関数がたくさん入った長 い長い無理式を延々と変形してゆくので、大学ノート数冊分の計算用紙を消費しています。 よくあるのが、ページが変わった瞬間に起きる転記ミスで、cos4B を cos2 B と誤記したり、 cot2 B を cos2 B と書いてしまったりして、それに気がつかずに延々と計算を続けて、「で きたーっ!」と思ってしまったりするわけです。 いまのところはっきりしているのは、街灯の高さが公園の三辺の長さを超えると、三角 形の形状の影響が弱くなり、立体灯心 L(s) は一路、重心に向かって限りなく接近してゆく ことです。しかし、街灯の高さが低い場合には、公園の三角形の頂角のサイン・コサインが 影響して、最大限 2 回の「重心に向かって行きつ戻りつ」の小さな U ターンを繰り返す可 能性を、計算上、否定し切れません。まあ、計算をやり抜くしかないでしょう。 ところで、公園の街灯の高さをどんどん高くしていって、月の高さを超えて銀河系の端 を越えて、さらにどんどん宇宙の果てまで高く伸ばしていくことにどんな意味があるので しょうか?

もちろん、現代の科学技術のレベルでは、そんなに高い街灯を設置すること

は不可能です。また、たとえ科学技術が飛躍的に進歩した数十年後の世界においても、公 園を照らすための街灯を銀河系の果てまで達する高さにすることにメリットがあるでしょ うか?

PISA の出題者なら、こう思うでしょう。「数学者というのは、なんと常識はずれ

の連中なのだろうか。いくら数学的には無限に高い街灯を考えることができるからと言っ

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たって、考えればそれでいい、というものではない。もっと実際の社会に役に立つ、具体 性のある考え方をしなければいけない。我々は仙人じゃないんだから。」 こういう「社会に出て実際の役に立つ常識的な考え方」は正しいのでしょうか。実は、 間違っているのです。現在、ナノ・サイエンスと呼ばれる分野の科学が急速に発展しよう としています。これは、分子・原子レベルの極微の世界の粒子を自由に操作できるように なってきた技術を、私たちの日常生活に役立つように応用できる様にしてみよう、という 研究です。たとえば、医学的な応用として、ガンの治療において、微粒子のビームを用い て患者の体内の特定のガン細胞の特定の遺伝子染色体をピンポイントで破壊する、といっ たことが技術的な課題となるかもしれません。それはまさに、銀河系の端から地球の公園 をねらい打ちする事に匹敵するような技術なのです。そして、このような微細なレベルで は、粒子には波動性が現れますし、ハイゼンベルグの不確定性原理といったものも考慮す る必要があるでしょう。理論的な計算ではじき出したピンポイントの狙い撃ちであっても、 粒子は計算上の目的のポイントの周りに確率的な雲の状態で拡がるでしょう。その確率的 な分布は log(cos θ) という関数を使って表されるかも知れません(光源に水平な向きに明 るさを測った場合の「灯心」を求めるときに使われた関数)。あるいは (s2 + r2 + ... )-3/2 と いうような形の関数になるかも知れません(斜め上から照らす場合の「立体灯心」を求め るために使われた関数) 。あるいは、もっと別の確率密度関数になるかも知れません。いず れにしても、銀河系の果てから地球の公園を狙い撃ちするような数学的モデルを研究する ことは「荒唐無稽」であるどころか、数十年後の科学にとっては「焦眉の課題」となる可 能性は十分にあるのです。 もちろん、数学者はそんなことを期待して研究しているわけではありません。数学的に 「 お も し ろ い か ら 」 研 究 し て い る だ け で す 。 ま た 、 こ の 連 載 の 第16回「PISA の基本方針を検討してみる。(その1)」で引用したポアンカレ「科学と方法

第3章



學上の發見」に書かれているように、 「一見數學の證明は知性以外には關係がないように思われるのに、これについて感受性を 引合いに出しては、人は或はおどろくかも知れない。しかし、これにおどろくことは數學 的優美の感、數と形式との調和の感、幾何學的典雅の感を忘れることであろう。これは、 すべての眞の數學者が知るところの眞の審美的感情であって、實に感受性に屬するものな のである。 さて、この優美、典雅の特質を歸すべき、また吾々の心に一種の審美的感情を起さしめ る力を持つ數學的事物とは、如何なるものであろうか。それは調和的に配置された要素か ら成り、吾吾の精神が細目に徹しつゝ全體を包容するのに、何等の努力をも要しないよう

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な事物のことである。この調和は、吾々の審美的要求に滿足を與えるのみならず、また吾々 の精神を助けてこれを指示し指導する。また同時に全體を吾々の眼下に整然と排列し數學 的法則を豫感せしめる。さて、上に述べた如く、吾々の注意を引く價値あり、また有用の ものたり得る唯一の數學的事實は、吾吾をして數學的法則を知らしめ得る如き事實である。 したがって吾々は次の如き結論に達する。すなわち、有用な組合せとは正にもっとも優美 な組合せである。 或はいいかえれば、彼の特殊な感受性をもっともよく魅することのできる組合せである。 この感受性はすべての數學者の知るところではあるが、しかも門外漢はこれを知らないた め往々にしてこれらをわらい勝ちである。」 という審美観に基づく「美の探求」として行われています。 ところが、 「数学」という学問の「凄(すご)み」のひとつは(正確に言えば「数学」に 限らず、あらゆる科学の分野に見られることですが)、数学者がまったく個人的な耽美心や 好奇心に基づいて行った研究が、数十年後、あるいは数百年後には、人類にとって必要不 可欠とも言って良い技術の発見に導くことがしばしば起こる、ということです。たとえば、 ラドンという数学者が研究した積分論の「ラドン変換」という理論は、本人が生きている 間は何の役にも立たない「理論のための理論」と思われていましたが(と言うより、特殊 な専門分野の数学者以外にはまったく知られていなかった)、驚くことに、これを勉強した 医学者がいて、異なったいくつかの平面の上で記述された関数を3次元的に積分して立体 図を書き上げることができるというこの理論を応用して、人体を切開・解剖しなくても、 異なった角度から何枚かのレントゲン写真を撮影すれば、ラドン変換の理論を応用してコ ンピュータグラフィックスを用いて患者さんの体内の様子を立体的に画像で表現できる 「CTスキャン装置」というものを開発してノーベル医学賞を受けました(医学部の学生 は数学も良くできる!) 。 「CTスキャン装置」は今日の先端医療では必要不可欠の装置と言って良いでしょう。 ラドン先生もこのような今日の様子を見たら、草場の蔭でビックリ仰天しているかもしれ ません。 現在の文部科学技術行政においては、「現在の実際の社会(人間の果てしなき欲望を駆動 力とするグローバル資本主義の社会)に即戦力として役に立つ科学技術の進展」が強く求 められています。私が専門として研究している自然言語処理・機械翻訳の世界でも、この ような傾向を強く感じます。 私と専門が隣接している同僚教授の首籐公昭さんが「最近の自然言語処理の研究が本来 の自然言語処理の研究だと信じて疑わない若い研究者が増えちゃっているけれど、本当に 不幸なことだよねえ。」とよく言っていますが、私も全く同感です。「子どもたちの学力低

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下」もさることながら、私は「最先端の研究に従事している科学者たちの学力低下」を強 く危惧しています。 [街灯の高さは何に因って決まるか?] 昨年(2008年)末に、福岡大学校内の書店で私の同僚準教授の赤星信さん(形象物 理学)とばったり出遇いました。「田崎先生から聞いたのですが、柴田先生は三角形の公園 のどこに街灯を立てたらよいか、という研究をしておられるそうですね?」と尋ねられま した。「はい、いろいろと計算しています。」「やっぱり、街灯の位置とか高さとかを調整し て最適な組合せを探るわけですか?」と問われて、「えっ?」と戸惑いました。「ひとには いろいろな考え方があるものだなあ。物理学者は、まず位置と高さの最適な組合せを考え るのか」と虚をつかれた思いがしたからです。 「私の場合には、高さを一定に固定しておい て、その高さで最適な位置を探っています。」と正直にお答えしました。「そうですか。ま た、なにか新しいことが分かったら教えてください。」「はい。よろしくコメントのほど、 お願いします。」と挨拶して別れました。 そして早速、研究室に戻って、三角形の地表面全体の明るさ F(P;s) を高さ s で偏微分 してみて、常に負であることが分かりました。 街灯の高さ s を増大させてゆくと、地表面の明るさは単調に減少していくのです。なー んだ、考えてみれば、それは当たり前で、「明るさ」は基本的に距離の3乗(光線の傾きが 垂直な点だけは距離の2乗)に反比例するのだから、街灯が高くなれば成るほど、単純に 暗くなっていくだけなのです。だから、地表面を明るくしたければ、街灯の高さを地表す れすれまで低くするのがいちばん正解だということになります。たったこれだけのことを 確認するために複雑な偏微分の計算をすることも無いような感じがしますが、計算の結果 が平凡な常識と一致する結果になったことは、この数式(数学化 = mathematization) の 正しさを示す状況証拠となっています。 さて、このように考えてみれば、一般に、街灯の照明効率をいちばん良くするには、予 定している照明対象と同じ高さに立てるのがいちばんよいことになります。例えば、ホテ ルの庭園などで観賞用の背が低い植物を照らす夜間照明灯は地表すれすれの位置に埋め込 まれています。 日本庭園などの石灯籠は、人間の顔くらいの高さに作られています。あるいは、これを 庭園の灌木くらいの高さだと考えても良いかも知れません。 ところが、現代の日本の街の中で見かける街灯の高さは、成人の背丈の2.5倍から3 倍くらいあるのではないでしょうか。こんな高いところにどんな照明対象を想定している

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のでしょうか?

これは、街灯の高さを決定する第1の基準が「照明効率」ではないこと

を示しています。おそらく、これは「安全性」 (セキュリティ)を第一に配慮しているから でしょう。人間の手が届く高さだと、酔っぱらいやぶち切れた人が棒を振り回したりして 街灯の電球をたたき割ってしまう恐れがあります。あるいは、手が届く高さだと、ちゃっ かりした人が電球をはずして「自宅用」に持って帰ってしまうかもしれません。あるいは、 酔っぱらいが顔をぶつけて電球が割れて、大けがをしたり、感電したりして、自治体は損 害賠償の裁判に訴えられるかもしれません。いろいろ考えれば、成人が棒きれを振り回し ても届かない高さにしておく方が安全です。しかし、高くすればするほど照明効率は落ち ますから、「安全性」と「照明効率」のトレードオフで、安全性を損なわない程度のぎりぎ りの高さで、なるべく低い位置に作って、照明効率もあまり落ち過ぎないようにする、と いう妥協点が現実の街灯の高さのようです。もちろん、現在の街灯の高さでも、コントロ ールの良い人が下から狙って石を投げれば当たる距離ですから、絶対に安全な高さとは言 えませんが、これ以上高くすると照明効率が悪く成りすぎると判断しているのだろうと思 います。

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補足2.「街灯問題の正解は外心」という幾何学的直感の錯覚 補足2-1. 「与えられた三角形を内包する最小の円は外接円」という錯覚 私がこの1年あまり、精力的に取り組んできた PISA の「街灯」問題の PISA 自身による 解説は次のようになっていました。 ――――――――――――――――――――――――――――― [数学問題例

1:

街灯]

町議会は、小さな三角形の形をした公園に一本の街灯を設置することにしました。その街 灯は公園全体を照らすものとします。 街灯はどこに設置したらよいでしょうか。 ――――――――――――――――――――――――――――― (中略) 2.公園を三角形で表現することができる。また、街灯についている電灯の灯りは街灯を 中心とする1個の円で表現することができる。 3.この問題は三角形に外接する円の中心を求める問題に変換される。 (後略) 私は、上記の2.から3.への唐突な移行が何故なのかがまったく理解できませんでし た。そして、 「おそらく、まったくデタラメの思いつきで、三角形と円が出てきたから苦し 紛れに外接円を持ち出したのか、あるいは初めから外接円の中心を求める数学の問題を出 すつもりで、後からそれに公園うんぬんの社会的状況なるものを付け足しただけではない か?」と単純に推測していました。 ところが最近、川崎徹郎さん(学習院大学;幾何学)からメールを頂き、PISA が何を考 えて上記のような解説を書いたのか、ようやく理解することができました。川崎さんは次 のように書いています。 「...これに、対立する考えですが、PISA の考え方であろう、と思いますが、公園のもっと も暗い点の明るさを公園の明るさと考えるものです。たとえば、確かめたわけではありま せんが、豊島区の条例では、公園の明るさは、なんとかルクス以上でなければならない。 というときには、もっとも暗いところでという意味だと思います。これも、僕自身の独断 ですが、社会的明るさと言わしてください。 社会的明るさを採用すると、光源を中心とするある大きさの円に公園を入れるためには 中心をどこにすればいいか、ということから、自然に外心が導かれます。

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また鈍角三角形の場合には、というリマークも自然です。ですから、これが、PISA の出 題者の考え方であろうと推測した次第です。 このように考えると PISA の用意した解答は合理的で、間違いとは言えないと思いま す。. ..」 恥ずかしながら、私は PISA の問題解説文を見たときに、これが「公園のもっとも暗い点 の明るさを公園の明るさと考えて、その明るさを最大にする地点を求める」という mini-max 問題として考察している、ということにまったく気が付きませんでした。赤面の 至りです。川崎さんのご教示に心から感謝いたします。 それでようやく、PISA の「数学的リテラシー」解説がなぜ2.から3.への移行に解説 あるいは証明を付けていないのかが分かりました。彼らは「証明する必要が無いほど明ら かである」と考えたのです。川崎さんの文章に即して言えば、「自然に外心が導かれ」てし まう、と考えたのです。実は、これは多くの三角形では成り立たず、まったくの勘違いな のです。今回はじめて分かったのですが、PISA の「街灯」問題とその解説は、教育的見地 から見ると、 「人間の幾何学的直感とはいかに間違いやすいものか」ということを証明する 類い希なる画期的な教材だったのです。 それでは、数学の世界で最先端の研究をしている多くのプロの数学者たちでさえ、簡単 に騙してしまった「三角形の最も暗い部分を一番明るくするには光源を外心に置けば良い のは明らかである」という錯覚を脳に生じさせるのはどのようなメカニズムなのかを具体 的に明らかにしてゆきましょう。 まず、仮定されているのは、 「各点における明るさは光源からの距離のみに依存し、光源からの距離が遠い点ほど暗く なる」 という条件です。従って、光源を中心とする同心円が、明るさの等高線となり、半径が大 きい円ほど明るさがより弱い点を含んでいます。 三角形が与えられたとき、まず、それを内部に完全に含む大きな円を描きます。大きな 円なので、非常に明るさが弱い点をたくさん含んでいます。そこで、円の半径を縮めてゆ きます。三角形の頂点が円の内部に含まれていれば、まだ円の半径をさらに縮めても、三 角形は依然として内部に含まれているから、三頂点が円周とぶつかる(円周上に来る)ま で円の半径を縮めます。 (注:実は、ここまでの議論で既に必ずしも正しくない推論をしているのですが、ひとま ず保留して、先に進みます。)

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三角形の3つの頂点がすべて円周の上にある時が外接円です。ここからさらに、半径を ほんの少しだけ縮めます。その縮めた長さがどんなに小さな値であっても、頂点はその縮 めた円周からはみ出してしまうことは明らかです。だから、与えられた三角形を含む最小 の円はその三角形の外接円であることは、あまりにも自明であるし、自然に導かれてしま うのです。 さあ、どうですか?

トリックが分かりましたか?

有名中学校を受験するくらい頭の

良い小学生ならきっと見破るでしょう。あなたも見破れないと、PISA にマインド・コント ロールされてしまいますよ!! 補足2-2.mini-max 問題としての街灯問題の正解 さて、前節では以下のような宿題を出しておきましたが、みなさん、 ちゃんと考えましたか? [前節の問題] 三角形の3つの頂点がすべて円周の上にある時が外接円です。ここからさらに、半径を ほんの少しだけ縮めます。その縮めた長さがどんなに小さな値であっても、頂点はその縮 めた円周からはみ出してしまうことは明らかです。だから、与えられた三角形を含む最小 の円はその三角形の外接円であることは、あまりにも自明であるし、自然に導かれてしま うのです.. . .. ..?? 上の推論は間違っています。

トリックが分かりましたか?

はい、トリックの正体は、 「外接円よりもごく僅かに小さな円を考えると」というときに、 その円の中心を相変わらず外心に置いて同心円を考えてしまう人が多いようです。そうす ると、当然、三角形の頂点は小さくした円の外にはみ出してしまいます。だから中心を少 し移動させて小さい円を描かなければいけないのですが、そこが先入観というか、固定観 念というか、思考のエアポケットになってしまうのでしょうね。少しだけ中心を移動させ て、少しだけ半径の小さい円を描くと、

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のようになります。外接円を黒い色で、それより少し小さい半径の円を赤い色で、中心を 少しずらして画きました。ほーら、三角形 ABC は小さい円の中にスッポリ入ってしまうで しょう。だから、直感的にはいかにも正しそうに見えたかも知れませんが 「* 与えられた三角形を内包する最小の円は外接円である」 という命題は自明では無いどころか、正しくもないんですよ。それで私はいろいろな図を 画いて、これを正しく訂正しようと試みました。 そして、下の命題を得ました。この命題は絶対に正しいと確信して証明しようとしたので すが、(私にとっては)意外にも簡単には証明できませんでした。 私が証明を見つけるのに手間取っている内に、この問題を一緒に考えて頂いていた松本 眞さん(広島大学)と鍛冶静雄さん(福岡大学)から同時に独立に証明が送られてきまし た。お二人の証明のアイディアに共通しているのは、「逆転の大発想」です。私が街灯を中 心とする等高線の図にとらわれていたのに対して、お二人は「街灯に照らされる3つの頂 点」を中心とする、半径が等しい3つの円を考えたのです。例えば、頂点 A が c/r2 以上の 明るさで照らされるためには、街灯は頂点 A を中心とする円の中に設置されなければなら ない、というわけです。頂点 B, C についても同様ですから、3つの頂点の全てが c/r2 以 上の明るさで1本の街灯によって同時に照らされるためには、これら3つの円で囲まれた 3つの領域が集合論的な意味で「共通部分」を持つことが必要十分です。これが分かれば 基本的に一件落着です。鍛冶さんの証明の表現法は「ヤング」らしく動画チックで高校生

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にも「受ける」と思うので、以下の証明では鍛冶さんの表現を使わせて頂きます。ほんの 少し私が補足説明を入れましたが、逆効果にならなければ幸いです。

[命題]街灯を1本立てて三角形の公園を照らすものとします。公園で一番暗くなる点の 明るさを最大にするのは、街灯の設置地点を (1) 鈍角三角形または直角三角形の場合には最大辺の中点 (2) 三角形が鋭角三角形の場合には外心に置く。 (証明 due to 鍛冶静雄) 三角形の三辺の内の最長辺を BC とし、それに対する頂点を A とする。3頂点 A, B, C を 中心にして、同一半径 r > 0 の3つの円を描く。r の値は t = 0 の時 r = 0 からスタート して、時間変数とともに増大して行くものとする。頂点 B を中心とする円と頂点 C を中 心とする円が辺 BC の中点 M で接する瞬間を考える。このとき、頂点 A を中心とする 円が M に既に到達しているかいないか、で3つの場合に分かれる。 (i)既に M を通り過ぎてしまっている場合 (ii)ちょうど M に到達している場合 (iii)未だ M に到達していない場合 これら3つのケースについて、個別に検討して行く。 なお、上記(i),(ii)の場合には、この瞬間の M が求める解になっていることは明らかで あろう。これ以前の時間の3つの円には共通部分が無いから、その時点の半径 r に対応す る強度の明るさで3つの円を同時に照らす街灯の存在できる領域が存在しないからである。 頂点 B を中心とする円と頂点 C を中心とする円は 中点 M で接して以降、2点を交点 としつつ、その2点の距離を増大させつつ拡大して行く。 (i)のケース: 一定時間の後に、B, C を中心とする2つの円の2つの交点の内、頂点 A から遠い方の 交点が頂点 A を中心とする円に追いつく。これが三角形 ABC の外心であり、明らかに三 角形の外部にある。角 A は鈍角である。 (これは、辺 BC の中点 M を中心とする半径が |BM| の円を描くと頂点 A がその円の内部に入ってしまうことからも分かる。) 光源を外心に置き、辺 BC の垂直2等分線に沿って辺 BC の方向へスライドさせると、 |PA|, |PB|, |PC| の全ての値が減少する。この減少は光源 P が辺 BC の中点 M に達 するまで続けることができる。それ以降は明らかに |PB|, |PC| の値が増大してしまうか ら、続けられない。以上により、鈍角三角形の場合の解は辺 BC の中点 M であることが 再確認できた。

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(ii)のケース:中点 M が外心になったわけだから、角 A はもちろん直角になっている。 このケースは、まあ、図を画けば「明らか」と言ってもよい。 (iii)のケース: 一定時間の後に、頂点 A を中心とする円は B, C を中心とする2つの円の2つの交点の 内、頂点 A に近い方の交点に達する。これが三角形 ABC の外心であり、明らかに三角形 の内部にある。角 A は鋭角である。3つの円の半径を少しでも縮めれば3つの円の共通部 分が空集合になってしまうから、街灯を置くべき地点がなくなってしまう。故に外心がこ の場合の解である。

(証明、終わり)

(注1)厳密に考えると、(iii)のケース(鋭角三角形)の場合にはやや不安が残る。頂点 A を中心とする円が外心に達する前に3円の共通部分が発生することが本当にないか? という点である。そうすると、「外心」は鋭角三角形の場合ですら正解ではなくなってしま う。 (注2)実は、上の注1で述べたような、頂点 A を中心とする円が、円 B と円 C の共通部 分のレンズ型の領域の境界円弧に接する可能性を(鍛冶さんではなく私が)見落としてい た。この場合には、接点を T とすると、T が頂点 B を中心とする円と頂点 A を中心とす る円の接点であれば、3点 A, T, B は1直線上にあり、|BT| = |TA| である。点 T およ び A から辺 BC に垂線を下ろすと、T から下ろした垂線の足が中点 M よりも頂点 C の 側にあるので、A から下ろした垂線の足は線分 BC の延長線上にある。

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従って角 C = 角 ACB は鈍角になってしまうから、鋭角三角形の場合には、この可能性 は現実化しない。同様にして、A を中心とする円が C を中心とする円と接する可能性は、 角 B が鈍角でなければ現実化しない。 以上の考察により、3つの角のいずれもが鋭角であれば、確かに外心が解となることが 証明された。 (2011年1月5日追記:

私は本年度の医学部1年生向け「数学入門」の授業で、こ

の「PISA の街灯問題」を題材にして、幾何学と重積分の解説をしました。私が上の注2の 証明を説明したところ、それを聞いていた学生の1人が突然挙手をして発言しました、「先 生、その証明は必要ありません。明らかです。」私がびっくりして、「えっ、どうして?」 と質問すると、彼は、 「辺 AB の長さを見てください。この辺上で2つの円が接しているの だから、辺 AB の長さは明らかにこれらの円の半径の2倍です。他方、辺 BC の長さは明 らかにこれらの円の半径の2倍よりも小さいから、辺 BC を最大辺とする、という仮定に 反します。すなわち、そういうことは起こりえないわけです。」「うわーっ、きみい、数学 の教授よりも頭、いいねえ。」その学生は、はにかみながら微笑んでいました。) PISA の模範解答では、「鈍角三角形の場合も数学的な正解は外心なのだが、現実に当て はめてみると妥当な解ではない」(つまり、数学的な解は必ずしも現実に有効ではない)例 としてこの問題を紹介していますが、これは PISA の「(鈍角三角形の場合の)数学的な解」 が間違っているだけで、上記の命題で示した数学的な正解は、PISA の評価基準からすれば 「現実に妥当する解」になっています。 以上で、「街灯」問題を、「いちばん暗くなる点の明るさを最大にする点を求めよ」とい う mini-max 問題として数学化した場合の正解が明らかになりました。これを見ると、 「街 灯」の問題を考察する際に、「外接円を考える」という直観は「非常に筋の悪い」直観であ ることが分かっていただけたでしょうか?

外接円を描いて、その図を眺めることからは、

「全ての三角形について、いちばん暗くなる点の明るさを最大にする点は外心である」と いう間違った錯覚しか生まれないからです。この「外接円」の図に捕らわれている限り、

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mini-max 問題として数学化した「街灯」問題の正解にすら絶対にたどり着くことができま せん。 「外接円」の図では、鋭角三角形と鈍角三角形の場合の違いが見えてこないからです。 この問題に対する「筋の良い幾何学的直観」とは、鍛冶静雄さんや松本眞さんが思いつ いたように、三角形の三つの頂点を中心とする三つの円をイメージすることです。ここで 初めて、鋭角三角形と鈍角三角形の状況が全く異なることが「直感的に」見えてきます。 実は、これとは別に、もう一つの「筋の良い幾何学的な直観」があります。それは松本 幸夫さんのアイディアなのですが、 「1つの円の中に含まれる線分の内で長さが最大なもの は、その円の直径である」という、初等幾何学で簡単に証明できる事実を用います。与え られた三角形を内部に含む円は、その三角形の最大辺を含むから、直径がその最大辺の長 さよりも小さくなることはないので、まずは最大辺を直径とする円を描いてみることから 出発しよう、というのです。その円の中に三角形が既に含まれてしまっていれば、その円 の中心、すなわち最大辺の中点が正解となります。この場合は明らかに三角形は鈍角ある いは直角三角形です。そうでない場合には、つまり頂角が鋭角の場合には、少し精密な論 理展開が必要となるので、松本幸夫さんも言うように、「高校生が自分でこの証明ができる ようになることを求めるのは無理である」というレベルです。 いずれにしても、「外接円を描いてみよう」という直感的な発想は「筋が悪」く、これを いったん頭から捨て去るか、あるいは初めから、3頂点を中心とする3つの円を描くか、 あるいは最大辺を直径とする円を描くところから出発する必要があります。 ところで、「鋭角三角形の場合には、mini-max 問題としての解は外心になる」というこ との厳密な証明を私に教えてくれた松本眞さん、松本幸夫さん(親族関係は無い)のご両 人とも、私に指摘されるまで、「鈍角三角形の場合には正解は外心ではない」ということに 気が付かなかったそうですから、PISA の文献に書かれている「街灯問題の数学的な正解は 外心である」という錯覚は、世界的な数学者たちも落ち込んでしまうほどの、実に巧妙な 落とし穴だったわけです。PISA の「街灯」問題は、幾何学的直観というものが、ベテラン 数学者たちも間違ってしまうような危険な落とし穴を含んでいることを理解させるための 類い希なる「反面教師」としての、第一級の価値がある教材だったわけです。 松本眞さんが1999年度の日本数学会・市民講演会で話された「リンゴが落ちたって 万有引力は発見できないさ



今の学問、社会のニーズに惑わされていない?― 」と題

する講演は、私にとって非常に興味のある内容です。俗に、「ニュートンはリンゴが木から 落ちるのを見て万有引力の法則を発見した」と言われてるけれど、そんなことはあり得な い、と松本さんは言っています。まあ、直感的に、「リンゴの実と地球が引き合っているの

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かなあ」というアイディアを得たとしても、 「その力が2つの物体の質量の積に比例し、かつ物体間の距離の2乗に反比例する」 という法則を発見するためには、ニュートンは4つの精密な天体観測の結果を必要とした、 と松本さんは解説しています。 (なお、このパラグラフの内容は、松本さんの講演を聞いたときの印象が私の頭の中に残 っている範囲で、私が勝手にまとめているので、ご本人の言いたかったことからずれてい るかもしれません。興味のある方は「数学通信」誌に載った原典に当たってください)。 アイディアや直観は単なる「思いつき」であり、それは結果的に正しいこともあるし、 間違っていることもあります。恐らく、研究者の直感的な「ひらめき」は、結果的に間違 っていることの場合が圧倒的に多く、それらの「ゴミの山」の中からたった一つの「宝石」 を拾い出せる能力があるかどうかが、その研究者の資質を決定するのだと思います。 実際、リンゴの実が落下しているのを見て、リンゴの実に何らかの力が下向きに働いて いる、と考えるだけならば、ニュートンよりも何百年も前の時代のスコラ哲学者たちにと っては常識的なことでした。彼らは、直観に基づいて、 「力は運動を起こさせる」 「運動が起きている場合には、何らかの力が働いている」 「力が働かなければ運動は起こらないし、運動は止まる」 と考えていました。むしろ、彼らにとって論争の的だったのは、放物体の水平運動でした。 人間が水平方向に石を投げると、手が石に水平方向の力を加えるので、石は当然水平方向 に向かって飛び始めます。しかし、人間の手を放れた瞬間以降は、飛んでいる石に何らか の力が(少なくとも水平方向には)働いているようには見えません。それなのに、しばら くの間、石は水平方向に飛び続けます。石を水平方向に動かしている「見えない力」は何 なのか? 初期には、「神の力」「神の意志」といった純然たる宗教的な解釈が提案されたようです が、スコラ哲学もだんだん洗練されてきて、「神の存在」を仮定しない客観主義的な解釈が 提唱されるようになりました。手が石を放す瞬間に、手は石の内部に水平向きの力を塗り 込めるのだ、というのです。石に込められた力を消費しながら、石はしばらくの間、水平 方向に跳び続けるのです。やがて、石の内部に込められた「ちから」が消費されきってし まうと、石は文字通り「力尽きて」ポトリと大地に落ちてしまうのだというのです。ニュ ートンより何百年も後の、古典物理学が既に完成に近づいていた19世紀でさえ、物理学 の大家が「力」「運動エネルギー」「運動量」「仕事」などの概念を未だ曖昧に使っていたこ

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とを思えば、スコラ哲学者の解釈において、「力」という言葉を「運動量」などと言い換え てみれば、21世紀の現代でさえ、多くの人は、「石を水平に投げると、石が手を放れる瞬 間に、手は石に水平方向の運動量を与えるので、その運動量が尽きるまで石は水平に跳び 続けるのです」という説明に納得してしまうのではないでしょうか。 このような直感的な常識を覆して、「力が働かなければ物体の運動は変化しない」という 「慣性の法則」を発見したのがガリレオ・ガリレイです。これは、日常生活で見聞する物 事の推移を直感的に眺めていたのでは発見できない原理です。なぜなら、日常生活の世界 では、特にガリレオの時代では、「力が働かない状態」というのを空想することはほとんど 不可能だったからです。例えば、振り子時計では、振り子に対して外力を加え続けなけれ ば振り子は止まってしまいます。実は、振り子の軸と軸受けとの間にはわずかな摩擦力が 絶えず働いていて、振り子が揺れ続けようとするのをじゃまする力になっているのですが、 そういう力は理性を働かせないと、肉眼で見ることはできません。また、さらに小さな妨 害力として空気抵抗もあると思いますが、我々を取り巻く「大気の力」が「発見」される のはパスカル以降です。 「力は運動を起こさせる」のではなく「力は運動の変化(加速度)を起こさせる」とい うのがニュートンの運動法則ですが、今日では最も基本的な原理として承認されているガ リレオの慣性法則やニュートンの運動法則も、それが発見された時代の常識からすれば、 現実にはあり得ない状態を思考実験で頭の中に作り上げて、現実世界のあらゆるノイズを 消去した観念の世界でのみ成り立つ原理でした。まさにプラトンの言う「イデア」の世界 であって、それが現実世界で実体化されるときには必ず様々なノイズが混入されますから、 現実を5感に基づいて常識的に、直感的に観察していたのでは絶対に到達できない原理で す。 たとえ天才の「直観」であっても、それはエジソンが言ったといわれるように、「最初の 1%」であって、その直感的なアイディアを現実化するための「99%の汗」がフォロー しなければ、空中楼閣として消えてしまうものです。 再び PISA の「街灯」問題に立ち戻って、これを「最も暗い点の明るさを最大にする」と いう mini-max 問題として数学化したとしても、三角形の「外心」を考えるという直観は、 「あらゆる三角形において正解は外心である」という錯覚を生ずるだけである、と上で述 べた点についてまとめてみましょう。確かに、結果だけから言えば、 「正解は外心である」 という主張は一部の三角形(具体的には、すべての鋭角三角形と直角三角形)については 正しかったのですが、それは、この直観(錯覚)からは生まれてきません。「外心」を思い ついてしまった人は、いったん、この外心の図を頭の中から消去して、別の観点から別の 図を描いてきちんと証明する努力をしないと、 「自分は図を見ただけで正解も証明も明らか

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になるすごい直感的な解法を発見したのだ」という自己満足的な錯覚に陥ったままで終わ ってしまうのです。この「街灯」問題を教育の現場で実際に使うとすれば、上に書いたよ うなアフターケヤが絶対に必要だと思います。

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補足3.双曲幾何学における「街灯」問題 §1.双曲幾何学における「街灯」問題 W. Thurston の幾何化予想によれば、すべての 3 次元多様体は適切に分割すれば、すべ ての部分が8つの幾何構造のどれかを持つようにできるという。この予想はポアンカレ予 想を含み、最近ロシアのペレルマンによって肯定的に解決された。8つの幾何構造のうち、 双曲幾何構造が現れる頻度が最も高いということであるから、我々が住んでいる 3 次元空 間の、銀河系付近の幾何構造は双曲幾何構造をしている可能性が高いのではあるまいか。 とはいえ、宇宙的なスケールに比べると人間の身体レベルのスケールはきわめて微小だか ら、r の値がそのようなレベルの微小な数値である場合には sinh r = r + …. のテイラー展 開において r2 以上の微小項を無視すれば、円周の長さは 2πr となり、円の面積は πr2 となって、人間生活のレベルでは我々の世界があたかもユークリッド幾何学に支配されて いるように見えるわけである。しかしながら、本論文では、ユークリッド幾何学的な近似 ではなく、厳密な双曲幾何学の問題として「街灯問題」を解明したい。すなわち、問題は 数学的に以下のようになる。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― [双曲的街灯問題] 双曲幾何学の世界にある町の町議会は、双曲的三角形の形をした公園に一本の街灯を設 置することにしました。その街灯は公園全体を照らすものとします。街灯はどこに設置し たらよいでしょうか。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― この問題を数学化するためには、街灯から距離 r の位置にある点の明るさを r の関数と して定義しなければならない。(K. Shibata: “Where should the streetlight be placed in a triangle-shaped park?” 参照)。「明るさ」は本質的に光エネルギーの密度であり、光は双 曲幾何学の世界においても光源からあらゆる方向に均等に、測地線(最短線)に沿って常 に同一の速度で進むものと考えられるから、まず半径 r の球の表面積を求める必要がある。 §2.初等双曲幾何の基礎の基礎(準備) 中岡稔「双曲幾何学入門



線形代数の応用

-」 (サイエンス社)から、本論文の考

察にとって必要となる部分を最初に引用しておく。 (p.38)

2葉双曲面の上半部分

Q  {( x1 , x 2 , x3 )  R 3 | x1  x2  x3  1,  x3  0} 2

2

2

を考えることにより、双曲幾何学が球面幾何学と同様に展開できる。

96

(中略) 双曲幾何学は Q 以外の図形を使っても記述できるので、Q を用いる記述法を双曲幾何の 双曲面モデルと呼ぶ。 双曲幾何では 3 角関数とともにまた双曲線関数がしばしば用いられるので、この関数に ついて述べておこう。

sinh x 

e x  ex e x  ex sinh x ,  cosh x  ,  tanh x  2 2 cosh x

で定義される関数 sinh x, cosh x, tanh x を双曲線関数とよぶ。 (中略) 次の諸公式は容易に示される。

cosh 2 x  sinh 2 x  1 (中略)

sinh 2

x 1 x 1 x cosh x  1  (cosh x  1),    cosh 2  (cosh x  1),    tanh  2 2 2 2 2 sinh x

(中略) (p.57)

双曲三角関数の基本公式(直角三角形の場合)

三角形 ABC において α = π/2 ならば、次の(i),(ii),(iii) が成り立つ。

(i) cosh a = (cosh b)(cosh c) (ii) sin β = (sinh b) / (sinh a),

cos β = (tanh c) / (tanh a)

tan β = (tanh b) / (sinh c) (iii) cosh b = (cos β) / (sin γ), cosh a = 1 / (tan β)(tan γ) (p.102)

円 点 AεQ と正数 r が与えられたとき、図形

C ( A, r )  { X  Q   ;    | AX |    r} を円とよび、A を中心、r を半径とよぶ。 (中略) (p.113) 定理3

円 C(A,r) の周の長さは 2πsinh r で与えられる。

[証明](引用省略) 定理41

円 C(A,r) の周上の 2 点 X1, X2 に対し、X1 および X2 を端点にもつこの円周上

97

の二つの弧を考え、これらの弧の長さの小さい方を |(X1,X2)| で表す。また、|∠X1AX2| = α とする。このとき、|(X1,X2)| = αsinh r が成り立つ。 (中略) (p.124) 定理3

円 C(A,r) の面積、すなわち C(A,r) で囲まれた図形

{ X  Q   ;    | AX |    r} の面積は 4πsinh2(r/2) である。 (以上で引用を終了する。) 中岡前掲書では上記の円の面積の計算は助変数表示を用いて行っているが、定理41の弧長 についての結果から、半径 r で微小中心角 dθの円弧の長さが sinh r dθであることから

S    C ( A,r ) 1 dr (sinh r )d  

2

0

r

2

0

0

)drd    (sinh r 

(cosh r  1)d  2 (cosh r  1)

 4 sinh 2 ( r / 2) のように直接計算することも可能である。 また、中岡前掲書では、上記の計算を、R3 の双曲面モデルであることをフルに活用して いるが、結果自体はモデルに依存しない。双曲平面のモデルは双曲面モデルのほかに複素 上半平面モデル、ポアンカレ円盤モデル、クライン円盤モデルなどが知られているが、い ずれも互いに等長変換で移りあうので、同じ数式が出てくる。むしろ、これらの数学的な モデルが知られていない時代に、ロバチェフスキーやボヤイは純粋な抽象思考だけによっ て、これらの公式や計算を導いたことこそ驚嘆に値する。 さて、そこでいよいよ、半径 r の球の表面積を求めたい。中岡前掲書をはじめ多くの入 門書では 2 次元の双曲平面については詳しく解説されているが、3 次元の双曲空間について はまったく触れられていない。3 次元の双曲空間について解説してある何冊かの本を見てみ たが、「球の体積や表面積」といったような、あまりにも初歩的な事項については解説され ていない。「この本の読者であれば、自分で容易に計算できるであろう」と仮定されている のかもしれない。 仕方がないので、自信は無いが自分で計算してみる。 [定義]3 次元双曲空間内の点 A と正数 r が与えられたとき、図形

S ( A, r )  { X ;   | AX |    r} を球とよび、A を中心、r を半径とよぶ。 空間はどの方向に対しても均質であるべきだから、中心 A を通るどんな双曲平面で切っ ても、切り口は同一の円 C(A,r) になり、その周の長さは 2πsinh r となる。

98

上図の球表面にある微小双曲長方形の南北方向の弧の長さは (sinh r)dφであり、東西方向 の弧の長さは (sinh r1)dθである。そして、直角三角形に関する三角法の公式から sinh r1 = (sinh r)sin(π/2 – φ) = (sinh r)cos(φ) が成り立っている。これを全球面で足し合わせると、

2



0

2



2

0



1(sinh r1 )d (sinh r )d  2 sinh 2 r 

0

2



2

0



cos dd  4 sinh 2 r  2 cos d 0

 4 sinh 2 r[sin  ]0 / 2  4 sinh 2 r となる。 過去数百年間、ユークリッドの第 1 公準から第 4 公準までを用いて第 5 公準(ユークリ ッドの平行線公理)を証明した!

と信じた何人かの数学者がいたように、第 5 公準と数

学的に同値な命題で、我々にとってほとんど「自明」な事柄として無意識のうちに用いて しまうようなものがあるので、私のような素人の門外漢は上の証明の中でもそのような暗 黙の仮定を用いてしまったかもしれない。気づいた方はお知らせいただければありがたい。 (追記)一ツ橋大学の藤岡敦さんから、定曲率 K のn次元双曲空間内の n-1 次元球面の 表面積の計算法をご教示いただいた。私の場合には K = -1, n = 3 という非常に特別な場合 を計算してみたわけだが、一般論と合致した結果になったので安心しました。 とりあえず、上の計算の考え方に誤りが無いものとすると、光源から双曲距離 r > 0 の ところにある点の明るさは c / (sinh r)2 と表すことができる。ここに c > 0 は光源の明る さに比例する定数である。 §3.明るさの総和積分の計算 微小な正の数εを任意に選んで固定する。双曲三角形 ABC 内のε内包にある点 P を一つ選 んで、点 P から各辺 BC, CA, AB に下ろした垂線の足をそれぞれ H, J, K とする。三角形 ABC から光源の点 P のε近傍を除いた点全体でそれらの点における明るさ c / (sinh r)2 を

99

積分する。積分は 6 個の直角双曲三角形ごとに行い、それらを最終的に合計する。



r max( )

  0

 r max( ) c c drd dr (sinh r )d    2 0  (sinh r ) sinh r

ここで、

2c er 1 1 c r   dr 2 c dr  sinh r  e r  e r  e 2 r  1 dr  c  { e r  1  e r  1}e dr  c{log(e r  1)  log(e r  1)}  c log(

r er / 2  er / 2 er  1 ) log( )  c log(tanh )  c r r/2 r/2 2 e e e 1

従って、求める積分の値は   r r  c  [ log(tanh )]r max( ) d  c  {log(tanh( max( ) ))  log(tanh( ))}d 0 0 2 2 2

ここで双曲三角形の半角公式を使うと、

x cosh x  1 1 1 1 1  tanh 2 x 1  1  tanh 2 x      tanh  2 sinh x tanh x tanh x tanh x cosh 2 x  1 tanh x であり、tanh(rmax(θ))cos(θ) = tanh(j(α)) なので、

cos  {1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  } tanh( rmax( ) / 2)  tanh( j ( )) ただし、

100

tanh( rmax( ) ) 

tanh( j ( ))  1 だから、上の根号内は常に正である。 cos 

以上のことを使って積分式の計算を続けると、求める積分は、







 c log(tanh )  c  log(cos  )d  c  0 0 2



1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  log( ) d tanh( j ( )) 

 c log(tanh )  c log(tanh j ( ))  c  log(cos )d 0 2 

 c  log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )d 0

となる。 故に、6 個の直角双曲三角形での積分をすべて足し合わせると、三角形 ABC 全体での明 るさの総和 EH(P;ε) は



EH ( P;  )  2c log(tanh ) 2     c{(   ) log(tanh j ( ))  ( '  ' ) log(tanh k ( ' ))  (   ' ) log(tanh h( ))} 



    c{ log(cos )d   log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )d 0



0



    log(cos )d   log(1  1  tanh 2 ( j (  )) / cos 2  )d 0

0

'

'

     log(cos )d   log(1  1  tanh 2 (k ( ' )) / cos 2  )d 0

'

0

'

    log(cos )d   log(1  1  tanh 2 (k (  ' )) / cos 2  )d 0

0





     log(cos )d   log(1  1  tanh 2 (h( )) / cos 2  )d 0

0

'

'

0

0

    log(cos )d   log(1  1  tanh 2 (h( ' )) / cos 2  )d } となる。これを点 P の位置座標で偏微分して最大値を与える点を求めてゆく。

§4.「水平方向」の微分の計算 三角形 ABC の頂点 A から底辺 BC に垂線 AD を下ろす。AD 上に、|AD1| = t (ε < t < |AD| - ε) となる点 D1 を取り、D1 を通り、AD に垂直な直線(測地線)が 辺 AB, AC と交わる点を B1,C1 とする。測地線 B1C1 は底辺 BC からの等距離線はで はないことに注意する。d = |AD| - t とおく。

101

B1C1 上の点 P から底辺 BC に引いた垂線を PH とする。|PH| = h とおく。点 P の位置は 頂角 DAP = φ (- ∠DAB < φ < ∠DAC) によって一意的に定まる。双曲三角法の公式か ら、 cos φ = (tanh t) / tanh (|AP|),

sin(∠DAC –φ) = sinh(j(α)) / sinh(|AP|), cos(∠DAC –φ) = tanh(|AJ|) / tanh(|AP|), sin(∠DAB +φ) = sinh(k(α’)) / sinh(|AP|), cos(∠DAB +φ) = tanh(|AK|) / tanh(|AP|),

cosh(|PA|) = cosh(j(α))cosh(|AJ|),

cos α= tanh(j(α)) / tanh(|AP|),

cosh(|PC|) = cosh(j(α))cosh(|AC| - |AJ|), cosh(|PB|) = cosh(k(α’))cosh(|AB| - |AK|), cosh(|BP|) = cosh(h)cosh(|BH|), cos γ = tanh(h) / tanh(|CP|),

cos β = tanh(j(α)) / tanh(|CP|), cos β’ = tanh(k(α’)) / tanh(|BP|),

cosh(|CP|) = cosh(|CH|) cosh(h)

cos γ’ = tanh(h) / tanh(|BP|).

B1C1 に沿って水平方向の偏微分 dEH(P;ε)/dφ を計算してゆくと、

102

2 dEH ( P;  ) d d dj ( )   c{(  ) log(tanh( j ( ))  (   )( ) sinh(2 j ( )) d d d d 2 d ' d  ' dk ( ' ) (  ) log(tanh(k ( ' ))  ( '  ' )( )    sinh( 2k ( ' )) d d d 2 d d ' dh ( ) (  ) log(tanh(h ( ))  (   ' )( ) }    sinh(2h ( )) d d d d d ' d d '  c{log(cos  )  log(cos  ' )  log(cos  )  log(cos  ' ) d d d d d d '  log(cos  )  log(cos  ' ) }    d d  d   c { log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )d   log(1  1  tanh 2 ( j (  )) / cos 2  )d 0 d 0 '

'

  log(1  1  tanh 2 ( k ( ' )) / cos 2  )d   log(1  1  tanh 2 ( k (  ' )) / cos 2  )d    0

0



'

0

0

  log(1  1  tanh 2 ( h ( )) / cos 2  )d   log(1  1  tanh 2 ( h ( )) / cos 2  )d }   

2 d d ' dj ( )  ) log(tanh(| AP |)  (   )( ) sinh(2 j ( )) d d d 2 d d dk ( ' )    (  ) log(tanh(| CP |)  ( '  ' )( ) sinh(2k ( ' )) d d d 2 d ' d ' dh( )    (  ) log(tanh(| BP |)  (   ' )( ) } sinh(2h( )) d d d  d     c { log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )d   log(1  1  tanh 2 ( j (  )) / cos 2  )d 0 d 0

  c{(

'

'

     log(1  1  tanh 2 ( k ( ' )) / cos 2  )d   log(1  1  tanh 2 ( k (  ' )) / cos 2  )d 0

0



'

0

0

     log(1  1  tanh 2 ( h( )) / cos 2  )d   log(1  1  tanh 2 ( h( ' )) / cos 2  )d } さらに、最後の積分項を φ で微分すると、

103

d d





0

log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )d 

d d  ) log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  ) d  d  d  0    d 1 ( ) lim   0 ( ){  log(1  1  tanh 2 ( j (    )) / cos 2  ) d  0 d  (



            log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  ) d  } 0

(

d 1 ) lim   0 ( ){ d   0

  

log(1  1  tanh 2 ( j (    )) / cos 2  ) d 

             



             



0

0

log(1  1  tanh 2 ( j (    )) / cos 2  ) d  log(1  1  tanh 2 ( j (    )) / cos 2  ) d 



            log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  ) d  } 0

   1 d ) lim 0 ( ){ log(1  1  tanh 2 ( j (   )) / cos 2  )d  d  1  d ) {log(1  1  tanh 2 ( j (   )) / cos 2  )  ( ) lim 0 (    d  0

(

 {log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )}d                d ) log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  ) d d  d {log(1  1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2  )}d  ( ) 0 d d (

(

1  1  tan 2 ( j ( )) / cos 2  cosh(| AP |)  1 d dj ( ) sinh( j ( ))  ) log( )( ) d cosh(| AP |) d d cosh 3 ( j ( )) 0 tanh 2 ( j ( )) 1  tanh 2 ( j ( )) / cos 2 

(

 1 1 d dj ( ) cosh(| AP |)  1 )( ) {  1}d ) log(  2 0 cosh(| AP |) d d sinh( j ( )) cosh( j ( )) 1  tanh ( j ( )) / cos 2 

ここで  X  (

sin  1 - tanh 2 j ( )

  とおくと、

sin  / cosh(| AP |)  1 2 d dj ( ) ) log( )( ) { cosh(| AP |) d d sinh(2 j ( )) 0

1 tanh 2 ( j ( ))

dX 1 X 2

 }

cosh(| AP |)  1 2 d dj ( ) ) log( )( ) {arcsin(cosh( j ( )) sin  )   } cosh(| AP |) d d sinh(2 j ( )) cosh(| AP |)  1 d dj ( ) 2 )( )  ( ) log( {arcsin(cos(DAC   ))   } cosh(| AP |) d d sinh(2 j ( )) (

104

同様にして、

d d

'



0

log(1  1  tanh 2 ( k ( ' )) / cos 2  )d

d ' cosh(| AP |)  1 dk ( ' ) 2 ) log( )( ) {arcsin(cosh( k ( ' )) sin  ' )   ' } d cosh(| AP |) d sinh(2k ( ' )) d ' cosh(| AP |)  1 dk ( ' ) 2 ( ) log( )( ) {arcsin(cos(DAB   ))   ' } d cosh(| AP |) d sinh(2k ( ' )) (



d d



(

d dj (  ) cosh(| CP |)  1 2 ) log( )( ) {arcsin(cos(PCJ ))   } d d sinh(2 j (  )) cosh(| CP |)

0

'

log(1  1  tanh 2 ( j (  )) / cos 2  )d

d d



(

d ' cosh(| BP |)  1 dk ( ' ) 2 ) log( )( ) {arcsin(cos(PBK ))   ' } d cosh(| BP |) d sinh(2k (  ' ))

0

log(1  1  tanh 2 ( k (  ' )) / cos 2  )d

d  log(1  1  tanh 2 ( h( )) / cos 2  )d  0 d d cosh(| CP |)  1 dh( ) 2  ( ) log( )( ) {arcsin(cos(PCH ))   } d cosh(| CP |) d sinh(2h( )) d ' log(1  1  tanh 2 ( h( ' )) / cos 2  )d  0 d d ' dh( ' ) 2 cosh(| BP |)  1  ( ) log( )( ) {arcsin(cos(PCJ ))   '} d cosh(| BP |) d sinh(2h( ' )) を得る。 以上、得られた計算結果をまとめると、

dEH ( P;  ) d d ' cosh(| AP |)  1 cosh(| CP |)  1 d d   c[(   ) log( )( ) log( ) d sinh(| AP |) sinh(| CP |) d d d d cosh(| BP |)  1 d ' d '           (  ) log( ) sinh(| BP |) d d 2 dj         ( )( ){arcsin(cos(DAC   ))  arcsin(cos(PCJ ))} d sinh(2 j ) 2 dk  ( )(        ){arcsin(cos(DAB   ))  arcsin(cos(PBK ))} d sinh(2k ) 2 dh  ( )(        ){arcsin(cos(PCH ))  arcsin(cos(PBH ))}] d sinh(2h )

105

d d ' | AP | d  d | CP | d ' d ' | BP |    ) log(tanh )( ) log(tanh )( ) log(tanh ) d d 2 d d 2 d d 2 dj 2       ( )( ){arcsin(cos(DAC   ))  arcsin(cos(PCJ ))} d sinh(2 j ) dk 2       ( )( ){arcsin(cos(DAB   ))  arcsin(cos(PBK ))} d sinh(2k ) dh 2       ( )( ){arcsin(cos(PCH ))  arcsin(cos(PBH ))} d sinh(2h )

    c[(

以上により、水平方向の微分 dEH(P;ε) / dφ の主要な部分の計算ができた。あとは、9 個のパラメータ α, α’, β, β’, γ, γ’, j, k, h の φ による微分を計算して上式に代入 すれば完了する。 ここで、

cos  

tanh(t ) 1 ,    cosh(| AP |)  tanh(| AP |) (tan  ) tan(DAC   )

から、

sinh(| AP |) 

tanh(t ) (cos  )(tan  ) tan(DAC   )

これらを cosh2(|AP|) – sinh2(|AP|) = 1 に代入すると、

1 tanh 2 (t ) { 1  }1 (tan 2  ) tan 2 (DAC   ) cos 2  すなわち、

tanh 2 (t ) (tan  ) tan (DAC   )  1  cos 2  2

2

両辺を φ で微分すると、

1 tanh 2 (t ) tan  d }  sin  cos  {  sin(DAC   ) cos(DAC   ) cos 2   tanh 2 (t ) d が得られる。同様にして、

tanh 2 (t ) (tan  ' ) tan (DAB   )  1  , cos 2  2

2

1 tanh 2 (t ) tan  d ' }   sin  ' cos  ' {  sin(DAB   ) cos(DAB   ) cos 2   tanh 2 (t ) d が得られるから、

106

d d ' sin(2 ) sin(2 ' )    d d sin(2(DAC   )) sin(2(DAB   )) 1 tanh 2 (t ) tan          {sin(2 )  sin(2 ' )} 2 cos 2   tanh 2 (t ) sin(2 ) sin(2 ' )      sin(2(DAC   )) sin(2(DAB   )) 1         {sin(2 )  sin(2 ' )} sinh 2 (| AP |) tan  2 となる。また、 sinh(j) = sin(∠DAC – φ)sinh(|AP|) = sin(∠DAC – φ)cosh(|AP|)tanh(t)/cosφ より cosh(j)(dj/dφ) = cosh(|AP|)tanh(t){- cos(∠DAC -φ)cosφ+ sin(∠DAC – φ)sinφ}/cos2φ + sin(∠DAC – φ)sinh(|AP|) (d(|AP|)/dφ) )tanh(t)/cosφ だが、(cosφ)tanh(|AP|) = tanh(t) より d(|AP|)/dφ = (tanφ)sinh(|AP|)cosh(|AP|) だから、上式に代入すると、

dj cosh(| AJ |) tanh(t )  {cos(DAC )  sin  sin(DAC   ) sinh 2 (| AP |)} d cos 2  となる。同様にして、

dk cosh(| AK |) tanh(t )  {cos(DAB )  sin  sin(DAB   ) sinh 2 (| AP |)} 2 d cos  を得る。 次に、底辺 BC に近い方の角γについて計算してゆく。

107

上図のように、線分 B1C1 と AD の交点を D1 とおく。中岡前掲書 p.75 (1) により、 cosh (h)sin∠D1PH = cosh (d) ……. ① が成り立つ。∠D1PH =ξ,|DH| = x とおくことにする。四辺形 D1DHP の内角は3つの 直角とξから成る。双曲幾何学では、三角形の内角の和は2直角より小さいから ξ < π/2 である。 直角三角形 AD1P に三角法の公式を適用して、 sinh(|D1P|) = sinh(|AP|)sinφ, cosh(|D1P|) = cosh(|AP|) / cosh(t) tanh(|AP|) = tanh(t) / cosφ ……. ② 従って、 tanh(|D1P|) = sinh(t)tanφ となっている。また、直角三角形⊿D1PD と⊿PHD を考えて、 cosh(|PD|) = cosh(|D1P|)cosh(d) =cosh(|AP|)cosh(d) / cosh(t) =cosh(x)cosh(h) … ③ が成り立つ。さらに、三角形⊿D1PH に対して、中岡前掲書 p.52 双曲三角法の基本公式を 適用すると、 cosh(|D1H|) = cosh(|D1P|)cosh(h) – sinh(|D1P|)sinh(h)cosξ = cosh(d)cosh(x). …. ④ となっている。 ④×cosh(h) に③を代入すると、 cosh(d) cosh(|AP|)cosh(d) / cosh(t) = cosh(|D1P|)cosh2(h) – sinh(|D1P|)sinh(h)cosh(h)cosξ よって、 cosh2(d)cosh(|AP|) = cosh(|D1P|)cosh2(h)cosh(t) – sinh(|D1P|)sinh(h)cosh(h)cosh(t)cosξ ②の最初の 2 式を右辺に代入してから両辺を cosh(|AP|) で割ると、 cosh2(d) = cosh2(h) – tanh(|AP|)sinφsinh(h)cosh(h)cosh(t)cosξ 他方、①を用いると、

cos 2   1  sin 2   1  cos  

cosh 2 d cosh 2 h  cosh 2 d    より cosh 2 h cosh 2 h

cosh 2 h  cosh 2 d cosh h

であり、これを上式に代入すると、

cosh 2 h  cosh 2 d  sinh(h ) sinh(t ) tan  cosh 2 ( h )  cosh 2 ( d ) 従って、

cosh 2 h  cosh 2 d  sinh(h ) sinh(t ) tan  これを2乗し、sinh2(h) = cosh2(h) – 1 を代入して cosh2(h) を求めると、

108

sinh 2 (t ) tan 2   cosh 2 ( d ) cosh 2 ( d )  1 cosh ( h )   1 sinh 2 (t ) tan 2   1 1  tanh 2 (| D1 P |) 2

ここで、1 – tanh2(X) = {cosh2(X) – sinh2(X)}/cosh2(X) = 1 / cosh2(X) を X = |D1P| および |AP| について適用すると、

sinh(h )  sinh(d )

cosh(| AP |) cos   sinh(d ) cosh(t ) cosh(t ) cos 2   tanh 2 (t ) ……………………………………⑤

また、③の第3、第4辺に tanh(d) を掛けて⑤を代入すると、 cosh(x)tanh(d)cosh(h) = cosh(|AP|)sinh(d) / cosh(t) = sinh(h) 従って、

cosh( x ) 

tanh( h ) tanh( d )

………………………. ⑥

となる。 tanh(|AP|)cosφ = tanh(t) の両辺を φ で微分すると

d (| AP |) 1 cos   tanh(| AP |)( sin  )  0. cosh (| AP |) d d (| AP |)   tan  sinh(| AP |) cosh(| AP |) d 2

また⑤より、

cosh(h )

dh sinh(d ) d (| AP |) sinh(d )  sinh(| AP |)  (tan  ) sinh 2 (| AP |) cosh(| AP |) d cosh(t ) d cosh(t )

だから、

dh sinh(d ) sinh 2 (| AP |) cosh(| AP |) (tan  )  d cosh(t ) cosh(h ) となる。 直角三角形 △PAD1 について、双曲三角法の公式を適用して得られる等式 tanh(|D1P|) = sinh(t)tanφ の両辺をφで微分すると、

1

d (| D 1 P |)

cosh (| D 1 P |)

d

2

d (| D 1 P |) d



 sinh(t )

cosh 2 (| D 1 P |) cos 2 

1 cos 2 

sinh(t ) 

  だから、

sinh(t ) cos 2   sinh 2 (t ) sin 2 

③ の第2辺と第4辺を微分すると、

109

sinh(| D1 P |)

d (| D1 P |) dx dh cosh(d )  sinh( x ) cosh(h )  cosh( x ) sinh(h ) d d d

また、sinh(h)tanγ=tanh(|CH|) を微分して、

cosh(h )

dh d

tan  

sinh(h ) d cos 2  d



1

dx

cosh 2 (| CH |) d

上の3つの微分の結果を合わせると、

cosh(d ) sinh(t ) sinh(| D1 P |) cos 2   sinh 2 (t ) sin 2   {sinh( x ) cosh 2 ( h ) cosh 2 (| CH |) tan 

    cosh( x ) sinh( h )

dh sinh( x ) sinh(h ) cosh(h ) cosh 2 (| CH |) d }  cos 2  d d

dh d

これを dγ/dφ について解くと、

d cosh(d ) sinh(| D1 P |) cosh(t ) tanh(| AP |) cos   2 d cosh ( h ) sinh( x ) cosh 2 (| CH |) tanh(| CP |) cos  (1  sinh 2 (t ) tan 2  )     {

cos 2  sin  cos  dh }  2 tanh( x ) cosh(h ) cosh (| CH |) tanh(h ) d

となる。同様にして、

d ' cosh(d ) sinh(| D1 P |) cosh(t ) tanh(| AP |) cos  '  2 d cosh ( h ) sinh( x ) cosh 2 (| BH |) tanh(| BP |) cos  (1  sinh 2 (t ) tan 2  )     {

cos 2  ' sin  ' cos  ' dh }  2 tanh( x ) cosh(h ) cosh (| BH |) tanh( h ) d

が得られる。 また、 tanh(h) = tanh(|PC|)cosγ, tanh(j) = tanh(|PC|)cosβ を φ で微分して、

1 dh 1 d (| PC |) d  cos   tanh(| PC |)( sin  ) 2 2 cosh ( h ) d cosh (| PC |) d d 1 dj 1 d (| PC |) d  cos   tanh(| PC |)( sin  ) 2 2 cosh ( j ) d cosh (| PC |) d d

….(7) ….(8)

(7)  cos   (8)  cos  : d d cos  dh cos  dj   tanh(| PC |){(sin  cos   cos  sin  } 2 2 d d cosh ( h ) d cosh ( j ) d d tan  d 1 cos  dh cos  dj     { } 2 d tan  d tanh(| PC |) cosh ( h ) d cosh 2 ( j ) d

110

同様にして、

d ' tan  ' d ' 1 cos  ' dh cos  ' dk    { } 2 d tan  ' d tanh(| PB |) cosh ( h ) d cosh 2 ( j ) d となる。 以上で、積分計算のときに用いた9個のパラメータのφによる微分がすべて計算できた ので、これらを dEH(P;ε) の展開式に代入すると、 dEH ( P;  ) d sin(2 ) sin(2 ' )  sin(2(DAC   )) sin(2(DAB   )) 1 | AP |       {sin(2 )  sin(2 ' )}sinh 2 (| AP |) tan }{log(tanh ) 2 2 tan  cosh(d ) sinh(| D1 P |) cos  cosh(t ) tanh(| AP |)     {(1  ){ 2 2 tan  cosh ( h ) sinh( x ) cosh (| CH |) tanh(| CP |) cos  (1  sinh 2 (t ) tan 2  )

 c[{

cos 2  sin  cos  dh  ) } tanh( h ) d tanh( x ) cosh(h ) cosh 2 (| CH |) 1 cos  dh cos  dj | CP |                 { }} log(tanh( ) 2 2 tanh(| PC |) cosh ( h ) d cos ( j ) d 2 cosh(t ) tanh(| AP |) tan  ' cosh(d ) sinh(| D1 P |) cos  '     (1  ){ tan  ' cosh 2 ( h ) sinh( x ) cosh 2 (| BH |) tanh(| BP |) cos  (1  sinh 2 (t ) tan 2  )    (

cos 2  ' sin  ' cos  ' dh  ) } 2 tanh( h ) d tanh( x ) cosh(h ) cosh (| BH |) 1 cos  ' dh cos  ' dk | BP |                 { }} log(tanh( )    2 2 tanh(| PB |) cosh ( h ) d cosh ( h ) d 2 cosh(| AJ |) tanh(t )     {cos(DAC )  sin  sinh 2 (| AP |) sin(DAC   )} cos 2  2                 {arcsin(cos(DAC   ))  arcsin(cos(PCJ ))} sinh(2 j ) cosh(| AK |) tanh(t )     {cos(DAB )  sin  sinh 2 (| AP |) sin(DAB   )} cos 2  2                 {arcsin(cos(DAB   ))  arcsin(cos(PBK ))} sinh(2k )    (

sinh(d ) tan  sinh 2 (| AP |) cosh(| AP |) cosh(t ) cosh(h ) 2                 {arcsin(cos(PCH ))  arcsin(cos(PBH ))}] sinh(2h )    

この式の正負の領域を判定すればよい。 X の値が小さいとき、テイラー展開の2次以上の項を無視した近似式として sinh(X) ≒ X,

cosh(X) ≒ 1,

X2 ≒ 0

111

を適用すると、上記の全ての計算は、ユークリッド幾何学の場合(K. Shibata “Where should the streetlight be placed in a triangle-shaped park?”)に完全に一致する。従って、大き な計算ミスは無いと思われる。

§5. 明るさの総和関数 EH(P;ε) の狭義凸性と「双曲的灯心」の存在と一意性(2等 辺三角形の場合) 前節で得られた明るさの総和関数の微分を双曲2等辺三角形(|AB| = |AC|)で考えて みると、光源 P が測地線 B1C1 に沿って辺 AB の近くから辺 AC の近くまで移動する時、容 易に分かるように、正の値から単調に減少し、中心軸 AD を横切る瞬間にゼロとなり、以 後、負の値を取って減少してゆく。従って、水平方向の移動に関しては、中心軸と交わる 点が唯一つの極大点であることが分かる。

[命題5.1]

双曲正三角形の灯心は、対称中心点に一致する。

そこで、以下では、正三角形とは限らない一般の2等辺三角形の中心軸上で、明るさの 総和関数の微分を考えてゆく。

(続く)

112

補足4.ついに山が動いた! -

PISA が批判を受け入れて街灯問題を削除します

2009年9月5日・6日に東京・学習院大学で開かれた「数学教育の会・夏の集会」 に招かれ、他の講演者よりもかなり多い50分という講演時間をいただき、「街灯は三角形 をした公園のどこに設置すべきか」のタイトルで、思う存分喋らせて頂きました。 休憩時間に、PISA の Mathematics Experts Group のメンバーである筑波大学の清水美 憲さんにお会いして、私がこの集会でも批判した PISA「数学リテラシー」の中の模範的例 題である「街灯問題」は批判を考慮して削除することになりました、と伝えられました。 正直言って、「えっ?」と、拍子抜けした感じがしました。神原敬夫さんと開始した「た った二人の反乱」が1年も経たない内に、OECD/PISA の一郭に早くも風穴を開けたのです。 ヨーロッパでは多くの教育学者や統計学者が活発に PISA 批判を展開しているのに、PISA の関係者はいっさい取り合わず、「PISA の批判拒否体質」という批判を浴びていますが、 たまたま数学分野は日本人の方が Mathematics Experts Group のメンバーだったので、 お互いに話が通じてこのような変化が生じたのかもしれません。 もちろん、PISA の科学思想、認識論、イデオロギーが根本的に変わらないかぎり、「街 灯」問題が削除されても、より質の悪い例題に差し換えられる可能性もじゅうぶんにあり ます。街灯問題は PISA にしてはめずらしく良くできた数学の問題であり、多くの数学者も 幾何学的錯覚に陥ってしまうほど自然な見かけを持っています。この街灯問題の魅力に惹 かれて PISA 支持になった数学者も多いのではないかと思います。「PISA 評価の枠組み・ 数学的リテラシー」の中の「数学の問題というものは、このようにして作るものだ」とい う模範的な作題例・目玉商品の数学的な本質を明らかにすることが PISA のマインド・コン トロールを解くための「最初の一歩」になる、と直観して、これにほぼ全力に近いエネル ギーを傾けてきた私の戦略は正しかったようです。「街灯」問題が他のどのような例題に差 し換えられるにせよ、これほど見事な問題は二度と現れないのではないでしょうか。 ともあれ、 「PISA 評価の枠組み・数学的リテラシー」の「後光」を払い落としたことは、 日本の教育界において全面的、圧倒的、宗教信仰的な支持・賞賛を得ている PISA によるマ インド・コントロールを解いてゆく重要な第一歩となるでしょう。 ●PISA の問題の反社会性 PISA の Mathematics Experts Group のメンバーである清水美憲さんから、PISA の数 学的リテラシーを厳しく批判した国際パネル・ディスカッションの PDF ファイルを送って

113

頂きました。著者名とタイトルからインターネット検索をしたら、 http://www.emis.de/proceedings/PME29/PME29Plenaries/PME29JonesEtAlPanel.pdf であることが分かりました。 その中の、例えばマンチェスター大学の Julian Williams 氏の論文は、先ずは「Pisa の 斜塔」の思い出から切り出して、PISA が「傾いている」ことを皮肉っています。 「三角形をした park

?」と問いかけ、「イングランドでは公園は夜は施錠されている

から、公園に街灯は立てない。」と言い、ならば「park とはパーキングエリアのことだろ うか?

(柴田の注:

英語の park には「公園」の意味の他に「駐車場」の意味があり

ます。)しかし、駐車場なら長方形だろう。三角形の駐車場なんて不便だろう。でも、知り 合いにメールしていろいろ調べてもらったら、本当に三角形の駐車場があった!!」とい うように PISA ご自慢の「街灯問題」をおちょくっています。 しかし、Williams 氏のいちばん言いたい事は、PISA の「現実社会に適応した数学」す なわち「PISA 数学リテラシー」の無意味さのようです。ちょっと日本語への翻訳がうまく ないとは思いますが、 「現実数学教育(Real Mathematics Education = RME)」 vs 「本物 数学教育(Authentic Mathematics Education)」という言い方をしています。そして、 「現 実数学教育」で重要な事は「(i)数学的に正しい事」とともに「(ii)生徒が自分の過去の経験 を通して直感的に理解する事が可能な数学的内容・題材」であるのに対して、「PISA 数学 リテラシー」で想定しているのは、上の三角形の park で考察したような、「本物数学教育 (Authentic Mathematics Education)」とでも言うような、数学の素材に関する即物的な 「本物」へのこだわりであり、このような PISA の数学教育観は「数学の現実社会に対する 役割」に対する誤った認識に基づいている、と批判しています。 PISA の問題はいずれも、この即物的な「現実」への不自然なこだわりが異常に強いため に、数学的には低レベルの単純な問題の上に不自然な社会的見せかけの「衣装を着せて」 (dress up = フランスの A. Bodin 氏の言葉)あります。生徒はこの見せかけの衣装に惑わ されることなく、利用するように問題文中にほのめかされているいくつかの数字や記号を 操作する事によって、PISA が期待する「正解」にたどり着く事ができます。 例えば、「足跡」の問題では、提示されている数式の「意味」を考えると訳が分からなく なってしまうのですが、数式の意味を考えずに、表示されている数値を機械的に式に当て はめれば「正解」となります。 例えば、「ピサの購入」の問題では、食品を買う場合に最も大切な「安全性」とか「おい しさ」とか「適量」とかを無視して、ただ単純に「大きさ当たりの価格」が安い方が最も

114

良い、という価値観に従って選択する事が「正解」とされます。人々が歴史的に培ってき た「安物買いの銭失い」とか「安かろう、悪かろう」という生活の知恵に反する考え方を 強制されます。 例えば、「国防予算」の問題では、 「平和主義協会」へ行って講演するときと「陸軍学校」 へ行って講演するときでは、まったく反対の趣旨の内容を、同一人物がもっともらしく主 張するように「2枚舌」の人格になることを強制されます。 例えば、 「盗難事件」の問題では、犯罪件数を考える際にはもっとも重要となる「人口 1000 人当たりの発生件数」を無視して、単なる「件数」の値のみで「増加」の度合いを判定で きるかのような設問になっています。 例えば、「果樹園」の問題では、果樹の周りをびっしりと防風林で取り囲んで、季節集約 的な農作業が不可能な、現実の社会ではありえない環境を提示して考えさせる問題になっ ています。 これらはいずれも、「社会に出たときに役に立つ数学の能力を測るのだ」という謳い文句 にこだわって即物的な「現実社会に見せかけた衣装」を着せたために、返って現実との乖 離や社会的な不適切さが際立ってしまったものです。 そして、いずれの場合にも、そこに表現されている「現実社会」の具体的な実態には PISA の出題者は興味が無く、従って「足跡」の問題では人間の歩幅がどういう意味を持ってい るのか分析する意志はなく、「ピザ」の問題では食品の具体的な問題には関心が無く、「国 防予算の問題」では「国防」にも「予算」の問題にも具体的な興味はなく、「盗難事件」の 問題では現実社会における「盗難件数」の実態を調査する気はさらさら無く、「果樹園」の 問題では実社会の中の果樹園など見た事もなく、すべて、 「社会的現実」に対する社会科学 的な関心はまったく無くて、ただ、そこに恣意的に記入されている、現実の社会ではほと んど意味の無いいくつかの数字を誘導に従って処理するだけで、そのテーマについてなに がしか理解できたような気持ちにさせる(実際、PISA の出題者はそういう気持ちになって いるように見えます)としたら、現実の社会に生きる人間として、極めて形式主義的で、 一面的な人間が形成されます。 そして、内容的な正しさの基準をあいまいにしたまま、出題者の意図に迎合した形式的・ 表層的な数字処理的つじつま合わせで点数を取るテストを繰り返せば、それによって教育 される人間は、内容の如何によらず上司の気に入るような文章を書く能力を持つ人間、食 品の産地や製造期日を平気で偽る人間、嘘がバレても強引ないいわけをして言い逃れるの

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が上手い人間が作られてゆくでしょう。あるいは、理性的な判断力が高い生徒にとっては、 PISA の問題は出題者が期待する「模範解答」はすぐに察しが付くけれど、まともに考える とそのような正解にはならないから、嘘とは分かっていても PISA 模範解答を答案に書いて 点数を取るか、それとも良心に従って自分が信ずる正しい答えを書いてバツを付けられる 事を選択するか、江戸時代の隠れキリシタンに対する「踏み絵」のような精神的苦痛を味 わう事になるでしょう。 清水さんが紹介してくださったような、PISA の根本的な考え方を批判する多くの国際会 議も開かれているのに、それがどうして日本国内には報告されないのでしょうか?

奇々

怪々です。

補足5.円と楕円の灯心がそれぞれの中心に一致することの証明 11月30日から12月3日まで、滋賀大学大津サテライトで開かれた「数学教師に必 要な数学能力形成に関する研究」集会に呼ばれて、「PISA(OECD 国際学習到達度調査) について」と題して話をしてきました。 「数学教師になるためには、国際的な権威に無批判的に従ってはならない」というお話 をしたわけですが、参加しているのは、大学の教育学部に勤務している数学者の皆さんで、 「そんなの、あたりまえでしょ。」「そもそも、日本人は海外の権威に弱いから、いろいろ な政策的立場の人たちが、海外の権威を自分たちの看板に利用して、我々の立場こそが国 際標準なのだ、と正当性を主張しているわけだから、PISA の実態があまり具体的に明らか になると、自分たちの主張との食い違いが出てきたりするといけないから、できるだけ曖 昧に、ともかく PISA は素晴らしい、ということにしておきたいのではないか」 「PISA の 実態はともかく、PISA ショックで日本のこれまでの教育の弱点を反省して、改善すべき方 向が検討されるようになったわけだから、PISA が果たした肯定的役割もちゃんと評価する べきであろう」「馬鹿正直に PISA の理念や方法論や具体的な設問などの問題点を研究・発 表してゆけば、いずれはジャーナリズムや教育学会、教育現場でも PISA 批判が主流となっ て行くだろうが、その時にイニシアティブを取っているのは柴田さんたちじゃ無いんです よ。現在、PISA 礼賛の言動をしている人たちが百八十度態度を変えて、PISA 批判の急先 鋒となってイニシアティブを握るでしょう。そして、柴田さんたちは、相変わらず無視さ れるか、少数派として批判され続けることになると思いますよ。」というような、さまざま なコメントを頂きました。 まあ、私は、別に、イニシアティブを取りたくて頑張っているわけではありませんから、 結果がどうなっても構わないわけですが...。「鰯の頭」を信心していて本当に病気が治る

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こともあるので、「信ずること」が人体の免疫力を高めることがあることを否定する積もり もありません。 数学者の皆さんがいちばん盛り上がったのは、やはり、 「街灯は三角形の公園のどこに設 置すべきか?」という幾何学の問題でした。みなさん、数学好きの集まりですから、あー でもない、こーでもない、という様々なコメントや質問を頂きました。何と言っても、数 学者には純粋な数学の話がいちばん受けますねえ。 集会の公式プログラムが終了してから、追加講演として、研究プロジェクト代表者の蟹 江幸博さん(三重大学)が、現在執筆中の西洋古代の教育と数学についての研究草稿を解 説しました。ギリシャ・ローマの修辞学・哲学および数学の教育についての研究で、 「なぜ、 いま古代なのか」というタイトルの章もありました。ちょうど、私が「学力の国際比較に 異議あり」シリーズで最近取り上げてきた内容と奇しくも(あるいは、必然的に?)一致 しており、たいへん興味を覚えたので、コピーを頂きたかったのですが、 「まだ執筆途中で、 未完成なので、もうしばらくお待ち下さい」と、取り敢えずはコピーを頂けなかったのが 残念でした。 博多駅から新幹線に乗って京都駅まで、片道3時間余り、隔離された空間で時間をすご せたことは、たいへんありがたいことでした。 「街灯問題」という数学の問題の研究が、ま だまだ未完成なのに、正月休みとか夏休みにならないと、なかなか纏まった計算時間が取 れないので、今回は新幹線車中の3時間を利用して、最初の1時間は昼食と昼寝、残りの 2時間を計算に使いました。 「街灯」問題では、今まで公園の形が三角形の場合と長方形の場合を計算してきたので すが、周囲が曲線の場合は未だ検討していませんでした。最も簡単そうに見える「円」の 場合ですら、ちょっと考え掛かったことはあるのですが、意外に計算を始めて見るとめん どうで、しばらく放りっぱなしにしてありました。新幹線の「行き」の2時間と「帰り」 の2時間で、決着が着きました。直感的には、誰が考えても、円や楕円の場合の灯心は、 その円や楕円の中心以外にはあり得ないと思いますが、それがちゃんと定義から積分、微 分の計算によって、ようやく証明が出来ました。 (1)円の場合 半径 R の円の中心からλだけ離れた位置に街灯を立て、その街灯の足 P から距離 r だ け離れた点における明るさを c / r2 とする。街灯の足を中心とする半径εの微小な円盤を 除いたこの円のすべての点にわたって、この明るさを積分する。 円の中心 O と街灯の足 P を結ぶ線分を延長した半径を OQ とし、点 P を中心として、半

117

直線 PQ から反時計回りに測った角度をθとする極座標で考える。 点 P から角度θだけ回転した動径が円周と交わる点 S の点 P からの距離 |PS| を rmax(θ) とすると、

この円全体の明るさの総和は、 

E ( ;  )  2 

0

r max( )



 c rdrd   2 c 0 [log(r max( ))  log  ]d r2

 1       2c log( )  c  log(r max( ) 2 )d



0

となるから、これをλで偏微分して負になることを示す。そうすれば、円の中心 O から街 灯の足 P までの距離λが増大するに従って、円全体の明るさの総和が単調に減少するわけ だから、円の中心に街灯を立てた場合が、円全体が最も明るくなるわけである。      1 E ( ;  )  c  log(r max( ) 2 )d  c  ( r max( ) 2 )d 2 0 0   r max( ) 

であるが、∠SOQ = αと置くと、

R 2  2  2R cos   r max( ) 2 .........① R cos   r max( ) cos    ................② だから、①,②から rmax(θ) を消去すると、

( R 2  2  2R cos  ) cos 2   ( R cos    ) 2 ......③ と成り、これをλで偏微分して、

 (  R cos  ) sin 2   r max( ) sin 2     R sin  ( R cos    sin 2  ) R sin  {r max( )   cos  } を得る。また、①を用いると、

 1  1 ( r max( ) 2 )  {2  2 R cos   2 sin  ( )} 2 2  r max( )  r max( ) だから、

118

 2  2 R cos   E ( ;  ) 2 (sin  ) r max( ) sin 2   c d  c  d 0 0 r max( ) 2 R sin  {r max( )   cos  }  r max( ) 2 

 2 c      

0

cos  2 c  sin 2  d  d r max( ) 2 R 0 r max( ){r max( )   cos( )}

となるから、上記の2つの積分値が正になることを示せば十分である。  /2  cos  cos  cos    d d   2 2 0 r max( ) 0 r max( )  / 2 r max( ) 2 d 0  /2 cos  cos(   )  d   d (  )         2 0  / 2 r max(   ) r max( )  /2 cos  cos   {  }d         2 0 r max( ) r max(   ) 2  /2 1 1   (cos  ){          }d 2 0 r max( ) r max(   ) 2 

ここで、0 ≦ θ ≦ π/2 なので、下図から明らかに rmax(θ) < rmax(π – θ) であり、 上の積分記号の中の値はすべて正であるから、積分値も当然、正になる。

同様にして、





0

sin 2  d r max( ){r max( )   cos  }

0 sin 2  sin 2 (   ) d   d (  ) 0  / 2 r max(   ){r max(   )   cos(   )} r max( ){r max( )   cos  }  /2 1 1 }d   sin 2  {  0 r max( ){r max( )   cos  } r max(   ){r max(   )   cos  }



 /2

であり、rmax(π – θ) > λ より、積分記号の中は常に正である。 以上で、円全体の明るさの総和 E(λ;ε) が、λが増大してゆくと単調に減少してゆくこ とが証明された。

119

(2)楕円の場合 楕円

x y ( ) 2  ( ) 2  1   ;   a  b  0 a b の場合について円の場合と同様の考察を行ってゆく。a = b とすれば円の場合に帰着するが、 楕円の場合には街灯の設置地点を表現するためのパラメータが 2 個必要になるし、これが 簡単に1個で足りた円の方の場合を先に解いたので、先に円の場合を説明した。円の場合 の解法がヒントになって、楕円の場合も解決したわけである。 楕円の長径、短径を x 軸、y 軸に取り、第 1 象限の点 (λ,μ) に街灯の足 P を置く。

また、点 P を出て x 軸の正の方向に平行に伸びてゆく半直線から反時計回りに回転する 動径の角度をθで表すことにする。街灯の足を中心とするε円盤を除いた楕円の全体で各 点の明るさの総和を取ると、 

E (( ,  );  )  

0

r max( )



r max( ) c 0 c rdrd    rdrd 2   r r2



0

0



       c  (log(r max( ))  log( ))d   (log(r max( ))  log( ))d  0 1        2c log( )  c  log(r max( ))d  c  log(r max( ))d





0

ここで、街灯の足 P から角度θで出る半直線が楕円と交わる点を Q とし、線分 PQ の長 さを rmax(θ) としている。楕円上の点 Q の座標は Q(qx,qy) = Q(λ+ rmax(θ)cosθ, μ+ rmax(θ)sinθ) なので、楕円の定義式から、

(

  rmax( )cos a

)2  (

  r max( ) sin  b

)2  1

を満たす。これを rmax(θ) について解いて、2 次方程式の形で表すと

120

(

 cos   sin  2  2 cos 2  sin 2  2    ) r max( )  2 (  ) r max( )  (   1)  0 a2 b2 a2 b2 a 2 b2

となり、rmax(θ) はこの 2 次方程式の正の方の解である。上式をλで偏微分すると、

 cos   sin  r max( ) cos 2  sin 2  1   ) r max( )  ( )}( )   2 (  r max( ) cos  ) 2 2 2 2  a b a b a i.e. qy qx q b 2 r max( )    cos {( ) tan }( )   x2 2 2  b qx a a

{(

ここで、楕円上の点 Q(qx,qy)を通るこの楕円の接線の傾き mq を計算してみると、

mq  

b 2 qx ( ) a2 qy

と成っているから、

qy q qx b2  cos  {( ) tan  }  2y cos  (tan   mq ) 2 2 b qx a b であり、 「接線の傾きは割線の傾きよりも絶対値が小さい」という幾何学的考察を用いると、 上式の値は 0 ≦ θ ≦ π の範囲で常に正であることが簡単に分かる。 さて、  0 1 1 r max( ) E (( ,  );  ) r max( ) ( )d  c  ( )d  c  r max( ) 0 r max( )    であるが、





0

1 r max( ) ( )d r max( ) 

 b2  2 a

 /2



0

qx b2 d  2 r max( )q y cos  (tan   mq ) a





/2

qx d r max( ) q y cos  (tan   mq )

ここで、0 ≦ θ ≦ π/2 の時に、点 P から出る角度 θ+ π/2 の動径が楕円と交わる点 を Q*(qx*,qy*) とすると、上の定積分は、



 b2 a2



 /2

0

{

qx r max( ) q y cos  (tan   mq )

          

 b2 a2



 /2

0

{

q *x }d r max(   ) q * y cos(   )(tan(   )  mq* )

1 r max( ){( q y / q x ) tan   (b 2 / a 2 )}

         

1 }d r max(   ){( q * y / | q * x |) tan   (b 2 / a 2 )}

121

であり、積分記号内の式の値は常に正で、積分値が負になることが証明された。 -π≦θ≦0 の範囲の積分も、まったく同様にして負になることが示される。 故に、E((λ,μ);ε) はパラメータλに関して単調減少である。同様にして、パラメータμ に関しても単調減少であることが示されるから、E((λ,μ);ε) は (λ,μ) = (0,0) で最大値 を取ることが証明された。 (楕円の場合の証明、終わり) [予想] 上の証明方法を少しだけ拡張すれば、次のことが証明できそうに思われる: 「対称軸を持つ有界凸集合の灯心は、その対称軸上にある。街灯の設置地点を対称軸から 軸と垂直方向に境界に向かって移動させると、明るさの総和積分の値が単調に減少するか らである。」

補足6.三角形の頂角の二等分線の謎 高等学校 1 年生で学ぶ「数学Ⅰ」または「数学 A」の教科書には、次のような、三角形 の頂角の二等分線に関する定理が載っています。 [定理]三角形 ABC の頂角 ∠A の二等分線が底辺 BC と交わる点を D とすると、 |AB|:|AC| = |BD|:|DC| が成り立つ。

2 冊の教科書を見たら、それぞれ別の証明が書いてありました。それらを両方紹介しておき ます。

122

[証明1](平行線による線分比を利用するもの)

辺 BA の延長上に点 E を、|AE| = |AC| となるように取る。二等辺三角形の低角は相 等しいから ∠AEC = ∠ACE であり、∠BAC = ∠AEC

+ ∠ACE だから、

∠BAD =

∠CAD = ∠AEC = ∠ACE である。錯角が等しくなったから、線分 AD と CE は平行と なり、従って |BA|:|AE| = |BD|:|DC|であり、|AE| = |AC| だから、定理が証明され た。 [証明2](三角形の面積を比較するもの)

頂点 A から辺 BC に下ろした垂線の足を H とし、点 D から辺 AB と AC に下ろした垂線の 足をそれぞれ I, J とする。⊿ABD と ⊿ADC の面積を比べると、高さ |AH| が等しいか ら、面積の比は底辺の長さの比 |BD|:|DH| に等しい。他方、これら2つの三角形を、底 辺がそれぞれ |AB|, |AC| であり、高さがそれぞれ |DI|, |DJ| だと考えると、|DI| = |DJ| だから、面積の比は底辺の比 |AB|:|AC| に等しい。証明おわり。

123

私は、これらとは別に、さらに2つの別証明を思いつきました。 [証明3](三角形の相似比を利用するもの)

∠ADC > ∠BAD = ∠DAC だから |AC| > |DC| なので、線分 AD の延長上に点 F を、|CF| = |CA| となるように取ることができる。このとき、⊿FDC と ⊿ADB は対応 する角同士が等しくなるから相似である。従って相似比を比較すると、|BD|:|DC| = |AB|:|FC| となっているが、|FC| = |AC| だから、定理が証明された。 4つ目の証明には、正弦定理を用います。 [正弦定理]三角形 ABC の各辺の長さと対応する角の正弦の比は、その三角形の外接円 の直径に等しい。すなわち、外接円の直径を 2R とすると、 |BC| / sin∠A = |AC| / sin∠B = |AB| / sin∠C = 2R が成り立つ。

[証明4](正弦定理を利用するもの)正弦定理を最初の「頂角の二等分線の定理」の中に 現れている ⊿ABD と⊿ADC に適用すると、|AB| / sin∠ADB = |BD| / sin∠BAD, |AC| / sin∠ADC = |DC| / sin∠CAD となる。ところが、∠BAD = ∠CAD, sin∠ADC = sin(180 度 - ∠ADB) = sin∠ADB だから、|AB|:|AC| = |BD|:|DC| が得られた。

124

この定理は15歳の高校1年生が学習する定理であり、私自身もおよそ半世紀前に習っ たと思うのですが、つい数日前まで、この定理について、何の疑問も感じずに、ただ、「そ ういうものか」と思っていました。しかし、ふと、疑問に思ったのです。二等分線 AD の 上を、点 A から点 D に向かって動く点 P を考え、線分の長さの比 |BP| / |CP| を考える と、P = A のときの値と P = D のときの値が等しくなる、というのが、上で証明した「頂 角の二等分線の定理」です。それでは、点 P が点 A と点 D の中間にあるときは、この比の 値はどうなっているのでしょうか?

さらに、点 P が直線 AD 全体を動くときには、どう

でしょうか? 以下に、上の証明4で用いた、正弦定理で辺の長さと角の正弦の比を表す方法を点 P を 頂点とする2つの三角形に適用して、具体的に計算してゆくことにします。

なお、|AB| = |AC| であれば、点 P の直線 AD 上の位置がどこであっても、|BP| = |CP| となりますから、問題は既に解決されています。そこで、|AB|:|AC| = c > 1 と仮定する ことにします。 |AB|:|AC| = c < 1 の場合には、左右を反転させて考えればよいから、上 のように仮定しても一般性を失いません。 |AB| = c|AC|, |BD| = c|CD| であり、⊿ABD と⊿ACD にそれぞれ余弦定理を用いる と、

c 2 | CD |2 | BD |2 | AB |2  | AD |2 2 | AB || AD | cos  c 2 | AC |2  | AD |2 2c | AC || AD | cos     | CD |2 | AC |2  | AD |2 2 | AC || AD | cos

A 2

A ........(1) 2

A ......................( 2) 2

となっているから、(2)を(1)へ代入して簡略化すると、

| AD |

2c A | AC | cos .........(3) c 1 2

が得られます。

125

|AP| = t|AD| と置き、上と同様にして、⊿ABP と⊿ACP にそれぞれ余弦定理を用いる と、

4 4 A 2 A (cos 2 )t  (cos 2 )t  1} 2 c 1 ( c  1) 2 2 2c 2 A 2 4c A | CP |2 | AC |2 {( ) (cos 2 )t  (cos 2 )t  1} c 1 c 1 2 2 | BP |2  c 2 | AC |2 {

が得られるので、

| BP |  | CP |

A 2 A )t  4( c  1)(cos 2 )t  ( c  1) 2 2 2  cf (t ) 2 2 A 2 2 A 2 4c (cos )t  4c( c  1)(cos )t  ( c  1) 2 2

c 4(cos 2

と置くと、f(0) = f(1) = 1 であることが簡単に確かめられます。一般の t の値に対して、こ の関数の増減がどのようになっているか調べるには、この関数を t で微分して、導関数 f ’(t) の正負を判定すればよいわけです。微分の計算を実行すると、

df (t )  dt

2( c 2  1)(cos 2

A A 2 ){4c(cos 2 )t  2( c  1) 2 t  ( c  1) 2 } 2 2 (分子)(分母) 3

となり、上式の分子に現れる t の 2 次式の正負を判定すればよいことになります。この式の グラフは放物線であり、放物線の軸と極小値を求めると、

A 2 )t  2( c  1) 2 t  ( c  1) 2 2 ( c  1) 2 ( c  1) 4 A ){t  }2   4c(cos 2  ( c  1) 2    2 2 A 2 A 4c(cos ) 4c cos 2 2 ( c  1) 2 ( c  1) 2 ( c  1)   で、   1   だから、放物線の軸は   t  4 c 2 A 4c cos 2 2 ( c  1) ( c  1) 2 {1  }  0   であり、 極小値は   2 A 4c cos 2  A 2( c 2  1)(cos 2 )( c  1) 2 2 0 f ' ( 0)  (分子)(分母 ) 3 A A 2( c 2  1)(cos 2 ){4c(cos 2 )  ( c  1) 2 2 2 0 f ' (1)  (分子)(分母 ) 3 4c(cos 2

となっているから、y = f ’(t) のグラフ曲線(放物線)は、次図のようになっています。

126

従って、cf(t) = |BP|:|CP| のグラフ曲線は、下図のようになります。

|BP|:|CP| の比の値が、点 P が頂点 A を通過してからしばらくの間は増加し、分点 D に 到達する前に減少に転ずる幾何学的な理由を考えてみました。今、頂点 B,C から線分 AD に下ろした垂線の足をそれぞれ E,F とすると、|AB|>|AC| という仮定から、点 E は ⊿ABC の外にあり、点 F は内側にあります。動点 P が直線 AD 上を頂点 A から下へ移動し

て行くとき、比 |PB|:|PC| の値は、分子の|PB|も分母の|PC|も共に減少してゆきます

127

が、分母の方が急速に減少して最小値|FC|に達するので、最初は比の値は増加してゆくわ けです。しかし、動点 P が点 F を通過してしまえば分母|CP|は増加に転じるので、比の値 は明らかに減少してゆきます。実際、上で計算した f ’(t) の値が t = |AF| / |AD| で既に 負に転じていることを確認しておきましょう。 |AF| = |AC|cos(∠A/2) だから、|AF| / |AD| = (c + 1) / 2c となり、f ’((c+1) / 2c) = - (c + 1)2/c(sin2(∠A/2)) < 0 です。 しかし、点 P が点 E を通過すると、分子|PB|も増加に転じるので、比の値の減少スピー ドは小さくなってゆくはずです。|BE| = c|AC|cos(∠A/2) だから、|BE| / |AD| = (c + 1) / 2 となり、f ’((c+1) / 2) = - c(c + 1)2 sin2(∠A/2) であり、P = E の時点では、まだ 減少のスピードは非常に大きいことが分かります。 これが更に、遠方では最小値を取った後に増加に転じるわけです。だいたい、どれくら いの地点で f ’(t) の符号が正に転じるのか、ためしに3つの地点で計算してみました。 sign(f ’(c + 1)) = sign((c+1)2{c(cos∠A) – 1}) で、c > 1 かつ cos∠A < 1 だから、t = c + 1 で f ’(c + 1) が正か負かは微妙なところ。 sign(f ’(2(c + 1))) = sign((c+1)2{16c(cos2∠A/2) - 4c - 3}) で、16c(cos2∠A/2) - 4c – 3 > 4c(cos∠A) + 4(cos∠A) + 1 > 0 また、sign(f ’((c + 1) / (cos2∠A/2))) = sign((c+1){2c – 1 – sin2∠A/2} / cos2∠A/2) なので、t = 2(c + 1) および t = (c + 1) / cos2∠A/2 では既に |BP| / |CP| は増加に転じ ていることが分かりました。これが分かっても、何が原因で減少が増加に転じるのか、幾 何的な原因は見えてきません。 ● 底辺 BC の垂直 2 等分線に関する対称性を考える 底辺 BC の中点を M とし、辺 BC の垂直二等分線が頂角 ∠A の二等分線 AD と交 わる点を P1 とします。BC の垂直二等分線 MP1 は、|BQ| = |CQ| となる点 Q の軌跡 であり、点 Q が MP1 に関して点 B と同じ側にあれば |BQ| < |CQ| となり、点 C と 同じ側にあるときには |BQ| > |CQ| となります。これを ∠A の二等分線 AD 上の点 P について考えてみると、点 P が 交点 P1 よりも上に位置しているときは |AB| / |AC| > 1 であり、P が P1 より下にあるときは |AB| / |AC| < 1 になっています。 そこで、以下に再録した前述の式を用いて計算してみると、

| AD |

2c A | AC | cos .........(3) c 1 2

4 4 A 2 A (cos 2 )t  (cos 2 )t  1} 2 c 1 ( c  1) 2 2 A 2 A 2c 2 4c | CP |2 | AC |2 {( ) (cos 2 )t  (cos 2 )t  1} c 1 c 1 2 2 | BP |2  c 2 | AC |2 {

128

| BP |  | CP |

A 2 A )t  4( c  1)(cos 2 )t  ( c  1) 2 2 2  cf (t ) 2 2 A 2 2 A 2 4c (cos )t  4c( c  1)(cos )t  ( c  1) 2 2

c 4(cos 2

より、|AP1| = |AB||AC| / |AD| となることが分かります。すなわち 辺 AB 上に点 C’ を |AC’| = |AC| となるように取ると、4 点 B, C’, D, P1 は同一円周上にあります(方冪 の定理の逆) 。そして、この点 P1 を境にして比の値 |BP|:|CP| が反転するわけです。

従って、cf(t) = |BP|:|CP| のグラフ曲線は、次図のようになります。

129

●アポロニウスの円と双極(bipolar)座標 上に示した cf(t) = |BP|:|CP| のグラフ曲線が最大値、最小値を取っている点 T1,T2 は、 どういう点なのでしょうか?

それが、以下に考えて行く問題です。これまでに示した計

算結果から、それは、f ’(t) = 0 となる点、すなわち、

t

( c  1) 2  ( c  1) 4  4c(cos 2 (A / 2))( c  1) 2 4c cos 2 (A / 2)

であることが分かります。この式を変形すると、

( c  1) 2 ( c  1) 4 ( c  1) 2 2 {t  }   4c cos 2 (A / 2) 16c 2 cos 4 (A / 2) 4c cos 2 (A / 2) であり、これらを線分の長さを用いて表すと、

| AP1 |2 | AP1 | | AP1 | {| AP1 |  | AD |} 1 * 2 {| AT |  | AP |}    1 | AD |2 | AD |2 | AD | | AD |2 が成り立ちます。ただし、比 |BP| / |CP| の値が極大または極小となる点を T* で表し ました。すなわち、{|AT*| - |AP1|}2 = |AP1|{|AP1| - |AD|} が成り立っている、という ことです。この式の幾何学的な意味を理解するには、次の「アポロニウスの円」の定理が 役に立ちます。(|BP|:|CP| の変化を表すには、アポロニウスの円との位置関係を考える とうまく行きそうだということは、鍛冶静雄さんからヒントを頂きました。) [定理

(アポロニウスの円)]⊿ABC がのっている平面内の点 P が、|BP|:|CP| =

|BA|:|CA| を満たすようにして動くとき、その軌跡は、辺 BC を|BA|:|CA|の比に内 分する点 D および同じ比に外分する点 E および頂点 A の 3 点を通る円(アポロニウスの 円)である。

130

アポロニウス(Apollonius 262 – 200? BC)は古代ギリシャの数学者で、円錐曲線論の 研究で有名です。このアポロニウスの円を用いると、上で求めた、比 |BP|:|CP| を極大 (最大)にする点 T1 および極小(最小)にする点 T2 は、変曲点 P1 からアポロニウスの 円に引いた接線の長さ |P1T| を用いて、下図のように表されます。

このときの最大値 |BT1|:|CT1| を計算してみると、

| BT1 | c | CT1 |

c 2  1  2c(cos A)  {c  cos A} c 2  1  2c(cos A)  {c(cos A)  1}

となっています。この比で 線分 BC を内分および外分する 2 点を両端とする直径を持つ 新たなアポロニウスの円が点 T1 において直線 AD に接するわけです。 全平面で比 |BP|:|CP| の値の等高線を描くと、無数のアポロニウスの円が得られます が、その内の2つが、それぞれ点 T1 と T2 で直線 AD に接するわけです。

131

ということは、P1 を中心とする半径 |P1T| の円は、すべてのアポロニウスの円と直交 するのではないかと考え、三角形 ACP1 に余弦定理を用いて辺 P1C の長さを計算してみ たところ、これが先ほど計算した

| P1T || AP1 |  | AT | | AP1 | {| AP1 |  | AD |} 

(c  1) 4 (c  1) 2  16c 2 cos 4 (A / 2) 4c cos 2 (A / 2)

に等しくなりました。つまり、P1 を中心とする半径 |P1T| の円は、底辺 BC の両端の 2 点 B,C を通る円だったのです。 2 点 B,C をそれぞれ北極、南極とし、これら 2 点を通る円を経線とし、これら 2 点か らの距離の比が一定な点の軌跡(アポロニウスの円)を緯線とする座標系を双極(bipolar) 座標といいます。(日本数学会編集「数学辞典(第 2 版) 」付録・公式「3.ベクトル,座 標」参照)

132

以上のことを踏まえて、改めて双極座標の観点から、三角形 ABC の頂角 ∠A の 2 等分 線上での比 |BP|:|CP| の値の変化についてまとめてみます。 まず、底辺 BC の両端の 2 点 B,C を両極とする双極座標を取ります。辺 BC の中点 を M とし、また、 BC を |AB|:|AC| の比に内分する点を D とします。

133

AD の延長が底辺 BC の垂直 2 等分線と交わる点を P1 として、P1 を中心とする半径 |P1B| = |P1C| の円を描くと、これは双極座標の経線だから、すべての緯線(アポロニ ウスの円)と直交します。この円(経線)と線分 AD との交点を T1 とし、AD の延長 との交点を T2 とします。頂角∠A の 2 等分線である直線 AD は点 T1 および点 T2 に おいて緯線(アポロニウスの円 = 比 |BP|:|CP| の等高線)と接していますから、明ら かに、それぞれが極大点、極小点になっています。 上の考察で分かったことは、三角形の 2 等分線上での |BP|:|CP| という比の値の変化 の問題を解くためには、考察の対象であるその図形そのものだけを眺めているだけでは不 十分で、その図形を取り巻いている双極座標という全平面的な「場」の中に置かれている 「一部分」として考察することが重要である、ということでした。 2 点B,Cを両端とする棒磁石は、肉眼では見えない「磁場」というものを作り出しま す。ずーっと昔、私は小学校の理科の授業で、机の上に敷いた紙の上の棒磁石の周りに細 かい砂鉄を降りかけると、サーッと細かい砂跌たちが整列して、みごとな曲線の族(磁力 線)を描くのをみてびっくり仰天しました。中学校の理科の授業では、コイルにエナメル 線を巻きつける作業をして、電池とつないで電流を流すと磁場(正確には「電磁場」)が発 生する実験をして、またまたびっくり仰天をしました。高校の時には、読書指導で指定さ れた選択図書の中の 1 冊、マイケル・ファラデー著「ろうそくの科学」 (岩波文庫)を読ん で、さまざまな実験を通じて、だんだんと奥深い電磁気学の理論が形成されてゆく様子に 深い感動を覚えました。感じやすい少年の心には、私たちの周囲は私たちの目に見えない 「場」で満たされており、それがいろいろな実験をすることによって「可視化」される、 という驚くべき体験は、3 次元CG映画「アバター」なんかよりも、もっとずっと強烈な印 象を与えるように思います。

134

●双極座標についての補足 私はたまたま「数学辞典」を眺めていて、その付録の公式集の中から「双極座標」を発 見したので、これまで「双極座標」という言葉すら知りませんでした。そこで、このさい、 「双極座標」とはどんなものかを少し調べてみました。 インターネットで「双極座標」を検索してみると、ほとんどのケースが、電磁気学や流 体力学の計算に用いられる応用数学の道具として解説されています。流体力学の場合には、 電磁気学の陽(プラス)極に相当するのが流体の湧き出し口で、陰(マイナス)極に相当 するのが吸い込み口で、 「アポロニウスの円」は等水圧線を表しています。このような、2 つの極が作る物理的な「場」の現象を数学的に解析するには、双極座標の方が普通の直交 座標よりも方程式やその解の様子をうまく表現できる場合が多いようです。 また、純粋数学の観点からすると、平面を複素平面(ガウス平面)と見なして、複素平 面から複素平面への関数(1変数の複素関数)と考えると、いろいろな性質がよくわかり、 それが物理的・工学的な応用に繋がっているようです。 以下では、国立台湾海洋大学(基隆市)の Chen, Tsai, and Liu による Conformal Mapping and Bipolar Coordinate for Eccentric Laplace Problems “Computer Applications in Engineering Education” Volume 17 Issue 3, Pages 314 - 322

から、Bipolar coordinate (双極座標)に関する簡単な解説の部分を翻訳引用・紹介しま す。 双極座標 (ξ,η) を複素数 ζ =ξ + iη で表す。ただし、 i は虚数単位とする。これ に対応する通常のデカルト座標 (x, y) も複素数として z = x + iy と表すと、

1 z  x  iy  ic cot(  ),      i   (     ,         ) ....(1) 2 という複素関数として表現されます。ここに、 c は正の実数です。この関数には逆関数が 存在して、

  w( z )  i log

zc .. ...(2) zc

となっています。複素関数としての対数関数 Log は多価関数なので、その主値(-π≦ξ <π)である log を取ります。2つの曲線が交わる点での交わりの角度は、この写像によ って移った先でも同じ角度に保たれます(等角写像 Conformal mapping)。

135

上の(1)式において、z とζのそれぞれの実成分、虚数成分同士の関係を、虚数単位 i 抜き で表現すると

xc

sinh  sin  ,   y  c .. ..(3) cosh   cos  cosh   cos 

となり、ここからξを消去すると、 (x - c cothη)2 + y2 = c2csch2η... .. .. .. ..(4) となります。これは、双極座標 (ξ,η) のηを一定にしてξを動かすと、中心が x 軸上の 点(c coth(η),0)で半径が c csch(η) の円(アポロニウスの円)が描かれる事を表してい ます。また、(ξ,η) のξを一定にしてηを動かすと、同様の計算で .. .. . ...(5) x2 + (y - c cotξ)2 = c2csc2ξ.. となるので、中心が y 軸上の点(0, c cotξ,0)で半径が c cscξ の円が描かれ、これらの 円は点 (±c, 0) で x 軸と交わっている事は明らかです。さらに、等角写像という性質から、 これらの円はすべて、アポロニウスの円と直交している事が分かります。ζ =ξ + iηの平 面では実軸(ξ軸)と虚軸(η軸)が明らかに直交しているからです。 また、双極座標(ξ, η)の図形的な意味をさらにはっきりと見るために、

x  iy  c  1e i1 ,   x  iy  c  2 e i 2 ..........(6) と置くと、 η = log(Γ2 / Γ1), ξ = ψ1 – ψ2 .. .. .. .. .. . .. ..(7)

136

となっています。

以上が、複素関数論的に見た双極座標の概要ですが、さらに、Riemann 球面の「1次分 数変換」という幾何学的な観点からも双極座標に新しい見方が得られるので、これを「岩 波・数学辞典(第4版) 」の「複素数と複素平面

E.1次分数変換」から引用しておきま

しょう。 ad – bc ≠ 0 を満たす複素定数 a, b, c, d が与えられたとき、複素数 z に対して w = (az + b) / (cz + d) .. .. .. .. .. .. . .(8) を対応させる関数を1次分数関数 ( linear fractional function) または単に1次関数 ( linear function) と い う 。 複 素 平 面 に 無 限 遠 点 ∞ を 付 け 加 え て 球 面 と す る と き ( Riemann 球面)、1次分数関数はこの球面上の写像に拡張されるが、これを Mobius 変 換(または1次分数変換、あるいは単に1次変換)という。1次変換の全体は、変換の合 成に関して群をつくる。 複素平面上の直線も1種の円(無限遠点 ∞ を通る円)と考えることにすれば、1次変 換によって任意の円は円に写像されるから、この変換は円円対応(独 Kreisverwandtshaft) をなす。(中略) F. 標準形 上の変換(8)の不動点、すなわち z = (az + b) / (cz + d) を満たす点は、w = z (恒等変換) の場合を除けば、2つまたは1つ存在するから、2つの場合には p, q で表す。p, q が相異 なる有限点(∞ でない点)であるとき、変換(8)は標準形

w p z p a  cp  ,     1 wq zq a  cq に変形される。この変換で、argα = 0 のとき双曲的変換(hyperbolic transformation)、 | α | = 1 の と き 楕 円 的 変 換 ( elliptic transformation )、 そ の 他 の と き 斜 航 的 変 換 (loxodromic transformation)という。双曲的変換および楕円的変換は、不動点 p, q を2 極とする双極座標を用いると、明快に図示できる。

137

「双極座標」は電磁気学や流体力学など物理学や工学への応用が重要であると同時に、

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複素関数論やリーマン幾何学など、奥の深い純粋数学の大道にも直接つながっている事が 分かりました。 *************************************************************** 以上の考察では、頂角∠A の二等分線上の点 P について、本質的には sin∠APB / sin∠ APB の比を調べたのですが、実は、私の本当の狙いはこれら2つの角の正弦の比ではなく て、これらの角の比 APB / ∠APB そのものを調べたかったのです。これがきちんと評価 できると、三角形の「灯心」の存在範囲が最終的に確定するのです。そのことについては、 また項を改めて解説します。

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寄稿: 松本

真理は全てに打ち勝つ 眞(東京大学数理科学研究科教授)

「真理はあなたたちを自由にする」 (新約聖書) (ラテン語格言)をくっつけて見ました。 「愛は全てに打ち勝つ」 このタイトルが、この第 4 巻における柴田勝征さんの働きから、僕が受けた印象です。

1. 「真実を覆うもの」との無数の再会と圧倒的敗北 柴田勝征さんから、PISA の問題「街灯問題」とその正答、すなわち 「問い:三角形の公園に、一本の街灯をおきたい。どこにおくべきか?」 「正解:外心」 を聞いたとき、僕によぎったのは、子供のころから現在に至るまで何度も繰り返し経験 した「気持ち悪さ」でした。 「誠実に対応しようとすると、ひどい目に会う」というタイプの経験です。 上の問いに対し、真摯に解答しようとすれば「何をもって良いとするか?」を数学的に 定式化しないとなりません。 街灯からの光は全方位に均等に放出されると仮定するのだろうか。 ある一点の明るさは、その点付近の単位面積を通過する光線束の本数で定式化するのだ ろうか。 公園全体の明るさは、積分で定義されるのか。 それとも、もっとも暗い部分をもっとも明るくする mini-max 問題として定式化される のか。 街灯の高さは固定されているのか。 地面に街灯をべったり付ける方が高いところに置くより「明るい」けれども、それはど う考えるのか。 そして、出題者にこれらの質問をすると「いや、そんなことを聞いているんじゃない。

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どこに街灯を置けばいいかを聞いているんだから、それに答えてくれ」。などと言われる。 「それでは、問題設定が曖昧すぎて解答できない。」というと、「じゃーん。正解は外心 です。」と答えられて、おしまい。 それはないだろ。と思っても、討論では「主流派」が勝ってしまいます。 それがくやしいからこそ、僕は「証明」によって「真実を自分の手と頭で確かめること ができる」学問分野である数学を、なりわいとして選んだのだと思います。 僕がここに書いているこの文章は、PISA の分析ではありません。私怨、愚痴と言ったカ テゴリーに属するものとも言えましょう。ホームページ http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/~m-mat/NON-EXPERTS/non-experts.html においた、僕の日本数学会一般市民向け講演「リンゴが落ちたって、万有引力は発見でき

ないさ」-- 今の学問、社会のニーズに惑わされてない?(1999/3)」 にて 10 年前に述べさせていただいた「真理の死」が、予想通りに世界を暗く覆い尽くして いくことに対するぼやきです。 テレビの健康番組、えせ科学番組、うそ科学広告の 「問い:赤ワインが体に良いのはなぜか」「正解:ポリフェノールを含んでいるから」、 「問い:ニュートンはどうやって万有引力を発見したか」 「正解:リンゴが落ちるのを見 て」 「問い:子どもが(わがままで)洗いたがらないぬいぐるみを洗うにはどうすれば良い か」 「正解:ファブリーズ(という商品名の化学殺菌嗅覚錯乱物質)をぬいぐるみにかける」 「問い:地球温暖化を解決するにはどうすればよいか」 「正解:古い車を捨ててエコカーを買う」 といった、無数の「問題と正解」に我々はさらされています。そして、洗脳されていま す。 赤ワインは必ずしも体に良くありません。少なくとも僕のようなアルコール性脂肪肝患

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者には極めて有害です。 「フランスで、食事が同等の諸外国と比較すると心筋梗塞が少ない。 赤ワインを飲む量と心筋梗塞患者に負の相関がある。 赤ワインに含まれるポリフェノールが原因ではないか。」 という報告があるだけです。 万有引力の発見には、チコ・ブラーエらが行った膨大な天体観測(惑星の運行はもちろ ん、木星の衛星の周期や彗星まで)の結果から、ケプラーが導いた数多くの性質のうち、 三つの性質(面積速度一定、楕円軌道、周期と長径の関係)が用いられました。そこで、 微積分学・微分方程式という数学の成立と同時に、力学の法則と万有引力の法則によって、 これらの性質をニュートンは証明することができました。リンゴはヒントになったのかも 知れませんが、万有引力の原理の検証とはほぼ関係がありません。 ファブリーズは、特定企業の製品であり詳細なコメントは差し控えますが、「洗濯する代 わりにこれを噴霧すれば清潔・消臭・みんなが幸せ」という商品ですけれども、実際には 消臭ではなくにおい物質を含み、ぼくは特異体質なのか喘息を誘発します。 「エコカー」を作るには高度な技術が必要であり、レアメタルをはじめ世界中からの資 源が必要です。今使っている多少燃費の悪い車を廃棄して、エコカーに買い替えて、エコ カーを作るのに排出された二酸化炭素分を取り戻すことが現実的に可能だというデータを 知りません。 そして、PISA の問題の科学リテラシー、数学リテラシーの多くは、僕にはこれらの洗脳 と同一のものに見えるのです。我々から真実をさえぎり、偽物の(何者かに都合の良い) ウソを代わりに植え付けるものです。偽物を植え付け易くする思考形態をとらせるもので す。 僕の思いとは正反対に、何者かが、マスコミにとどまらず、教育・学問の世界でも我々 から真実を隠す「仕組み」を展開しているようです。 僕は、これらの「真実を隠す仕組み」に、全敗してきました。 国立大学や国立病院が国立ではなくなり、アメリカはイラクに侵攻しました。 これらのときには、新聞広告に協力したり署名をする程度の反対活動はしましたが、僕 はその後はもはや戦うこともせず、不戦全敗でした。大学のセンター試験には英語ヒアリ ングが導入され、小学校では理科社会の授業が低学年から除外され、英語教育の導入が決 まりました。僕には、何もかも大間違いにしか思えないことがどんどん進められていきま

142

す。

2. ドンキホーテの一撃 そんななかで、柴田勝征さんが繰り広げた PISA 型問題の分析とそのなりゆきは、僕に は極めて意外でした。詳細は本文を参照していただくとして、まず、街灯問題の「正解」 が鈍角三角形では正しくないことを示されました。 これは、簡単なことなのですが、人間の無批判な「直感」がいかに危険であるかを示す、 極めて良い例です。 (僕自身、 「外心が正解となるのは、mini-max 問題と見ているからであ ろう」と考えていました。外心を正解とできると、まんまと信じてしまわされました。僕 自身も、いろいろなことについて洗脳されているのだと、再確認できました。) 柴田さんの指摘により、日本の高校の教科書の裏表紙に載っていた「街灯問題」は取り 下げられました。そして、2009 年に PISA 自身がこの問題を削除する、という急展開を見 せました。 柴田さんご自身が言われる「ドンキホーテ」の一撃が、PISA という巨大な怪物に風穴を 開けたのです。 その上、柴田さんは数学的に問題を精密に定式化し、「光の強さが光源からの距離の何乗 に比例するか」に応じて、最適解(柴田氏の用語で「灯心」)がどのように動くかを示され ました。距離の-2 乗に比例すると言う最も自然な場合の灯心は、なんといままで発見され ていなかった、三角形の「新しい心」であるということが、広島大学の阿賀岡さんの数値 計算による検証でわかりました。(柴田注:阿賀岡芳夫・大学院理学研究科教授) 僕は、「三角形の心」という問題は研究されつくしているだろうと先入観を持っていたた め、このような自然な概念が「新発見である」ということにも大変驚愕しました。 (自分が、 先入観を持ち、本当の意味での思考をしていないということも再確認しました。 ) 柴田さんの「街灯問題」の分析をはじめとする PISA 型リテラシー教育への批判は、海 外でも評価されはじめています。ヨーロッパや香港の教育学者ともやりとりを始められ、 舞台は国際化しています。

3. 真理は全てに打ち勝つ いまの社会情勢は「無理が通って道理は出る幕なし」という印象です。僕は勇気を失い、

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心身ともに弱弱しく過ごしています。 が、やはり、真理は死ぬことはなく、全てに打ち勝つのだということを柴田さんは実証 されました。 自分の小学一年生の娘の宿題を見ていると、「これを自分がやらされたら、算数は嫌いに なっていたな」と思います。繰りさがりのある引き算ばかりを何百題(ほんとうですよ) とやらされる上、その計算方法は「さくらんぼ計算」というやり方でやらないといけない のです。 (たとえば、16 から 7 をひくときに、16 を 6 と 10 にわけて「さくらんぼ」を書きます。 それから、10 から 7 を引いて 3, 3 に 6 を足して 9、という計算を、宿題の用紙に書き込ま ないといけないのです。 ) もう、暗算でできるようになっているため、娘は先に答えを書いてから、「さくらんぼ計 算部分」をいやいやながら書き込んでいます。 というようなありさまでいやんなっちゃうのですが、柴田さんの快挙に習って、僕も微 力ながら「怪物」との戦い、応援させていただきます。 ***************************************************************** [松本眞氏の紹介](柴田) 松本眞氏は数学者で、乱数理論の専門家です。乱数とは、 「読んで字の如し」で、まった くデタラメに現れてくる自然数の列です。(ただし、適当に範囲を調節して、自然数の列で はなく、例えば、0と1の間の小数点以下8桁の小数の列を連続的に出力させたりするこ とも、応用上は、しばしばあります)。 現代社会では、コンピュータを使って様々な自然現象や社会現象のシミュレーション を行う時に、まったく規則性を持たないと思われる現象は乱数を用いて数学的なモデルを 動かします。しかし、コンピュータ上では「完全にデタラメな」本当の意味での乱数を作 ることは出来ません。何らかの数学的な計算方式によって「疑似乱数」を作りだして、そ れを近似的に乱数と見なして応用するのです。どんな計算方式を用いるにせよ、それが数 学的な計算式である以上、そこには必然的に規則性が反映されて、「完全にデタラメな」数 列を作ることは、理論的に不可能です。 松本眞さんはメルセンヌ数という素数の性質を用いて、 「究極の疑似乱数」と言われる、 極めてデタラメ性の高い一連の数列を高速で発生させるメルセンヌ・ツイスターという方 式を作り上げました。地球的規模の気候変動予測や金融工学の株価変動予測、さらには任 天堂などのゲーム機のゲームソフトに至るまで、あらゆるところで松本眞さんや、その研 究協力者の人たちが開発・改良した疑似乱数発生プログラムが使われています。そういう

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点では、コンピュータ・ソフトウェアの世界において、化学の鈴木-根岸カップリングに も勝るとも劣らない広範囲な応用をもった研究成果です。これらのことについては、松本 さんが広島大学教授だった時に地元の「中国新聞」が分かりやすい解説記事を掲載してい るので、それを参照してください。 http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/~m-mat/MT/CHUGOKU-NEWS/edu001.html これらの業績に対して松本眞さんは数々の学術賞を授与されています。 Institute of Combinatorics and its Applications: 1997 年度 Kirkman Medal (1998 年 3 月受賞) 日本数学会 建部賢弘賞 (1998 年 10 月 1 日受賞) 慶応義塾大学 義塾賞 (1998 年 11 月 10 日受賞) 日本 IBM 科学賞 (1999 年 12 月受賞) 第4回船井情報科学振興賞 (2005 年 3 月 12 日受賞) 平成 18 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門) (2006 年 4 月 18 日受賞) 平成 19 年度日本学術振興会賞 (2008 年 3 月 3 日受賞) 平成 20 年度広島大学学長賞 (2008 年 11 月 26 日受賞) --------------------------------------------------------------------------------------柴田の蛇足:恥ずかしながら、私(柴田)めは、(松本さんよりもずっと研究歴が長いにも 拘わらず)このような学術賞は何一つ受賞したことがありません。 …..

(^o^);;

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学力の国際比較に異議あり -

第1巻

科学教育のあるべき姿を求めて



目次

1.私の「情報化社会と倫理」の授業風景 1-1.新聞記事を教材にしてフィンランド式教育に挑戦してみる 1-2.おしゃべり学生に厳罰を加えた話 1-3.フィンランドの義務教育制度は日本の直輸入 1-4.フィンランドの教員養成課程の悲惨? ●「1 + 1」はどうして「2」になるのか? 1-5.フィンランドの「学校」は日本式に表現すれば「国立学習塾」 1-6.「情報化社会と倫理」の授業を終えて 1-7.ケプラーの惑星法則を計算して地球自転軸の傾きを知る 1-8.採点者・図書館・読書青年 1-8-1.いくら「テストの成績が悪かった」と言われても、 採点者の頭のレベルを先ず検討してみないと 1-8-2.図書館と著作権 1-8-3.読書青年 2.学生のレポートから見えてきたフィンランド教育の悲惨 2-1.フィンランド式教育には少人数、小教室が不可欠だ。 2-2.フィンランド教育の危機が露呈、日本のマスコミも初めて報道 2-3.フィンランドの教育に根本的に欠落しているもの (「教師集団」「生徒集団」) (以下、第2章の残りの部分はただいま鋭意、宿題レポートを査読中です。) 2-2.学生のレポートから見えてきたフィンランドの義務教育に蔓延する「落ちこぼ れ」「落第」 「学級崩壊」 「いじめ」? 成績の悪い子はみんなから隔離して少人数教育をすれば本当に伸びる? 成績の悪い子はみんなと一緒に卒業させないで、留年させれば伸びる? ●フィンランドの小学4年生の国語の問題「鯨の特徴」の正答を見て驚く まるで、事務職員の研修コースではないか。

146

2-3.大学進学率は 30%、大学生の 75%がストレスでノイローゼ状態 2-4.20代青年の自殺率は世界一 若者から生きる希望を奪うフィンランドの教育 2-5.他国との順位の比較に右往左往する日本の有識者、ジャーナリスト を批判できるようになった私の学生のユーモア 2-6.夢見る知識人 ●1930 年代、西洋の最高の知性はスターリン治下のソ同盟を視察して 「不況知らずの地上の楽園」を見た。 ●1950 年代に日本の文化人は「大躍進」の中国に「立ち上がった六億人民 大衆の叡智とエネルギー」を見た。 ●「山の彼方の空遠く、幸い棲むと人の言う.. ..」--青い鳥症候群 2-7.『12人の怒れる男』(Henry Fonda) 与えられた情報を鵜呑みにせず、その信憑性を根底から検証してゆく 態度のお手本となる映画。 2-8.フィンランドの小学校の授業風景の写真を見ての感想 これは「羊たちの沈黙」だ。 2-9.フィンランド映画を見る ソ連との凄惨な戦争

第2巻

目次

3.科学的思考とはどういうことか 3-1.地球温暖化とCO2 の関係を「科学的に」調べるには 3-1-1.「グラフ万能主義」批判 3-1-2.PISA 出題者のメンタリティーは普通の日本人の感覚からすると 「異常」である 3-1-3.日本人のメンタリティーの特質とそれを反映した日本語の特徴 3-1-4.地球温暖化と二酸化炭素の関係の有無を調べる科学実験をするには 3-1-5.「原理的・本質論的」理解こそ科学的精神の「神髄」 熱力学や量子化学の重要性を高校生にも語りかけよう! 3-1-6.中学校の「理科」、高等学校の「化学」のレベルで地球温暖化を 「科学的に」考える 3-1-7.地球温暖化再論 3-1-8.日本の生徒たちの頭脳は既に「フィンランド化」されている!

147

3-1-9.昼間は営業マン、夜は科学者 3-2.PISA の 2003 年度、2006 年度テストの設問と 3-2-1.巨人はチョコチョコ歩き、小人はノシノシ歩く? 3-2-2.公園を照らす街灯を公園の外に設置する?? 3-2-3.食品を買う時は「安全第1」を心がけよ! ●ストレスで若者に死を招くフィンランドの教育 3-2-4.太陽活動の活発化は「温室効果」には、まったく影響を 与えません! ●「リテラシー」とは?

「コミュニケーション」とは?

3-2-5.盗難事件の問題 3-2-6.思考実験の有効性 ☆ガリレオ・ガリレイの場合 ☆アインシュタインの場合 ●考える葦 ●企業が数年先まで考えて人材を求めれば ☆ポアンカレの場合 ☆湯川秀樹の場合 (以下、第3-2節の残りの部分はただいま鋭意、構想中です。) 3-2-7.日本の通貨は「円」ではなく「ゼット」??!! 3-2-8.「ビルの壁の落書きは迷惑か、それとも表現の自由か」 [補論]「PISA型リテラシー」の解析 神原敬夫 はじめに 1

読解力(読解リテラシー)



数学的リテラシー



科学的リテラシー

第3巻

目次

3-3.PISA の基本方針を検討してみる 3-3-1. 「科学的教養

まえがき」

●《ポアンカレ「科学と方法」からの引用

「數學上の發見」》

148

3-3-2. 「科学的教養

領域の定義」

●「近代化論」「人的資本論」 3-3-3. 「科学的教養 [補足

領域の構成」

「国防予算」の問題]

●国内最古のほ乳類の化石発見を導いた英語の教師 ●「子どもの脳と仮想世界」 [補足

「酸性雨」の問題]

[補足

「グランドキャニオン」の問題]

● 心の計算理論・パパートの原理 ● 討論すると、各人は自己の主張に一層固執する度合いを強める ● 確信のないことは安易に言わないようにすることの重要性 3-4.PISA に対する国際的批判 3-4-1. 「PISA 基準に従って PISA 自身を判定してみる / PISA は自分が提唱していることを自分で守っているか?」 3-4―2.2005 年パリ国際会議「PISA - France - Finland」における A. Bodin 氏(フランス)の報告より ●防風林は風向きを表す ●ブザンソンでサクランボウを盗み食いした話 3-5.三角形の新たな対称中心「灯心」の発見 3-5-1.街灯は公園のどこに設置すべきか 3-5-2. 「灯心」はいかにして発見されたか (以下、第3章の残りの部分と第4章はただいま鋭意、構想中です。 ) 3-5.PISA の「数学的リテラシー」は「数学」ではない 「数学」はプラトンの「イデア」である 日本の子供たちは算数が大好き -- 答が一つでスッキリしているから PISA の「複雑で錯綜とした、正答が1通りではない問題」を日本でマネを すれば、「算数嫌い」の子供を「激増」させる恐れがある。 3-6.「自分の頭で考えられる」程度のテーマしか教えない教育の不毛 「2次方程式の解法」と複素数の発見 2次方程式の解法を「自分の頭で」発見できる生徒は 100 人にひとり、 2次方程式が常に解を持つように「虚数」を「自分の頭で」考え出せる のは 100 億人にひとりの超大天才だけ 「博士の愛した数式」 (小川洋子)

e iπ + 1 = 0

この数式の美しさ、すばらしさを「自分の頭で」理解できる 高校生なんていない!!

149

3-7.ギリシャ教育の文化的伝統 3-7-1.プラトンのアカデミアの授業科目は「数学・音楽・体育」 ユークリッドは、「三角形や円の性質を学んで何の役に立つのですか?」と 尋ねた弟子に金貨を投げ与えて言った「これで、君がこの学校に入学した 甲斐があったかね?」 3-7-2.教育は幼児期から、「最も偉大なこと」「最も美しいもの」を こそ教えるべきである。 3-7-3.政府もマスコミも国際テストの成績は「黄門様の印籠」 日本で本当に「学力が低下」しているのは高校生?

それとも「有識者」?

4.「疑いもなく明らかなこと」を疑ってみる 私の若者観・教育観のコペルニクス的転換 4-1.「分数のできない大学生」が存在することは素晴らしいことでは ないのか? 学力で生徒を差別しない現在の日本の教育こそ本当の「地上の楽園」 4-2.「どの子も伸びる」イデオロギーの残酷さ 「落ちこぼれ」生徒を放置した日本人の知恵 「落ちこぼれ」生徒を放置しなかったフィンランド人の愚かさ フィンランドの教育では子供を「小型の大人」に仕立てようとしているのではないか 「自分の頭で考えさせる」教育の本質は何か

--

●幼い頃から大人びたマセた思考を調教によって育成している => 特定の大人たちの特定の「科学的」イデオロギーを子供たちが 「自分の頭で考え出せる」まで徹底的に洗脳する。 4-3.「21世紀の社会を生きるために必要な能力」は 「22世紀を生きるための障害になる」のではないのか? フィンランド(198X ~ 201?) 「失われた?十年」 この時代に教育を受けた青年たちはロスト・ジェネレーションと 呼ばれるようになるだろう。 「毛沢東思想」を「自分の思想」として身につけさせられた 中国の文革世代と同じように 4-4.PISA(OECD)の国際学力テストの目標自体が本当に正しいのか? フィンランドの小・中学校は PISA 受験予備校化? いや、むしろ、人口500万人あまりの小国フィンランドを OECD(「経済協力」「開発」機構)が使い捨てモルモットにしている? 4-5.最先端で活躍している科学者たちは本当に科学的な思考力が高い のか? コンピュータや統計学に頼る研究の問題点

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アインシュタインは特許局の事務職員だった 科学者の「質」が変化しつつある? 4-6.日本人のメンタリティー・西洋人のメンタリティー 4-6-1.封建社会ニッポンの知恵 「捨て扶持」「負けるが勝ち」「議を言うな」「葉隠れ」「嘘も方便」 「清き流れに魚住まず」「踏み絵と隠れキリシタン」「和魂洋才」. .. 4-6-2.今西錦司の「棲み分け進化論」 ダーウィンの進化論は個体間の弱肉強食の原理 今西の進化論は集団(種)の共生の原理 4-6-3.日本人はなぜ山本周五郎や藤沢周平を愛するのか 小石川療養所に残ることにした安本青年の判断は 科学的に正しかったか? ●16世紀の宣教師が見た日本人の特異性 ●20世紀の私がフランスで体験した日本人の特異なメンタリティー 4-6-4. 「福岡ペシャワール会」と「国境無き医師団」 ●アメリカのアフガニスタン空爆下でカブールに水と食料をトラック 輸送し続けたペシャワール会の無謀さ (中村哲医師はダイ・ハード?) ★君は「七人の侍」を越えた

追悼・伊藤和也

★ペシャワール会を憎悪している現地住民もたくさんいる?? ●医師と職員の安全を優先させて避難した「国境無き医師団」の 慎重な対応 --

救援活動を待っている国はアフガニスタンだけではない。

4-6-5. 「みんなちがって、それでいい」(金子みすず) => 「みんなちがうから、そこがいい」 4-6-6. 「科学的思考力」は人間にとってそんなにも大切なものか? 吹けば飛ぶような将棋の駒に、賭けた命を笑わば笑え 愚痴も言わずに女房の小春、作る笑顔がいじらしい 4-7.教育は社会的要請に応えない方が原理的に正しいのではないか?

いま、日本中を一匹の妖怪が徘徊している、 -「フィンランドの教育は世界一」という

151

マインド・コントロールの妖怪が. .. ...

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